後は手前ェだけだゼ
――研究室
フィルズ・ロスタミの呼びかけに応え、姿を現したモノ達。
青黒いウロコ状の肌。大きく突き出た様な口元から覗く、イノシシの如き牙。屈強な体躯。
しかし、本来闘志に燃えているはずのその瞳は虚ろであった。
「な、何!?」
「あれは……さっきのオークども! ゾンビにしやがったのか!?」
間違いない。あの連中だ。蛮刀を奪われたオークBは、ナイフを構えているが……。
「いい拾いモノだったよ。まさかこんな所で、あんな新鮮で屈強な素材が手に入るとはな。こいつらはどうやら貴様らに倒された様であるし、復讐の機会を与えてやろう」
フィルズ・ロスタミはニヤリと笑うと、アゴで俺達を指し示す。
そして四体のオークゾンビは俺達めがけ、襲いかかってきた。
「チッ……こんなコトなら武器を全部奪っとくんだったゼ!」
蛮刀とナイフの攻撃を凌ぎつつ、思わずボヤく。
隣でエスリーンが魔法で斧持ちと鉾持ちを牽制してくれる。
とはいえ、こんなトコロで苦戦する俺じゃねェ。あんトキから二段階もレベルアップしてるしナ。それに、ホットスポットからのリンクが途切れたワケじゃない。
まずは……
「オラァッ!」
袈裟懸けの一撃。オークAの致命傷となった傷跡に叩き込んでやる。
肉を斬り、骨を断つ手応え。
肩から腰近くまで斬り下ろされ、ヤツはたまらず倒れた。
背骨を断たれては、いくら屈強なオークといえど動けまい。
そして、倒れたオークAを踏み越えてオークBが迫る。
とはいえ所詮、リーチの短いナイフだ。あちこちを斬り裂かれて動きの鈍ったオークBでは、俺にカスリ傷一つ負わせまい。
腹と左肩、脚を斬り裂かれ、ヤツもまた倒れた。
……倒れた時にアタマの中身を飛び散らせやがったがな。
クソッ、精神的ダメージを食らっちまったゼ。
ケド、今は気にしているヒマはねェ。
ヤツらを飛び越え、鉾持ちへと向かう。
突きをいなすと、返す刀で胴を斬り裂いてやる。
もともと“光弾”で穴だらけのヤツだ。そのまま動かなくなった。
と、ほぼ同時に斧持ちがエスリーンの魔法攻撃を受け、倒れた。
ヨシ、これで……
「後は手前ェだけだゼ」
サーベルを構え、フィルズ・ロスタミに向き直る。
「ほう……」
ヤツは口元を歪めた。
そしてすぐさま斬りかかってくる。
「ハアーッ!」
「クソッ!」
鋭い切り込み。防戦一方だ。
だが、対応できねェレベルじゃねェ。
すぐに反撃だ。
斬撃をいなしつつ、カウンターを狙う。
一方エスリーンは、めまぐるしい攻防に援護しかねている様だ。
「オークどもの処理を頼む!」
オークゾンビは動きを止めたが、完全に倒したワケじゃない。きちんと葬らねば、また動き出すだろう。損傷が進んだゾンビ自体は脅威じゃねェが、フィルズ・ロスタミとの戦闘中に邪魔されたくはない。
それに、この男のことだ。オークスケルトンでも作りかねん。
「分かったわ」
彼女は父の魔道石を胸に抱くと、“浄炎”を唱えた。
炎が上がり、オークゾンビ達を包み込む。
先刻までの彼女はあの呪文を使えなかったハズだ。あの魔道石のサポートで、高位の呪文も使える様になったのか。
こいつは心強い。
「……仲間の事を気にしてる場合かっ!」
「うおっとォ!」
鋭い太刀筋で打ち込みつつ、ヤツはイラついた声を上げた。
確かに剣術のスキル自体はヤツの方が上だ。精密機械みてーなヤツの剣運びに比べりゃ、俺の太刀筋はいかにもザツい。一つ一つの動きに繋がりがないというか……格ゲーキャラの動きっぽいな。あらかじめプログラミングされた動きを身体が勝手に実行しているというか……。
MODで得た後付けの能力と、修練で得た技術の違いなのかもしれん。
だが、このMODのおかげで俺にはその差を埋めるだけの高い能力値がある。
この点に関しちゃあ、造物主サマに感謝せねばなるまい。
まぁ、真面目に剣術修行に打ち込んできたであろうこのオッサンには悪いが……。
いや、呪術に手を出しゾンビまで作っちまうヤツだ。遠慮する必要はナイか。
「こっちから行くゼ!」
大上段からの一撃を叩き込む。
「ぬうっ!?」
ヤツは俺の一撃を剣で受け……その勢いを殺しきれず、わずかによろめく。
チャンス!
踏み込み、柄の部分で体当たり。剣道でよくやるアレだ。
「うおっ!?」
身長はヤツのがあるが、体重はそれほど変わらん。それに、腕力は僅かながら俺の方が上だ。
俺の体当たりをくらい、ヤツの上体が崩れた。
今だ!
「小手ェ!」
引き小手でヤツの左腕に一撃。
手応えありだ!
「ぬぐぅっ!」
苦悶の声。噴き出る血。
そして、何かがぼとりと地面に落ちた。
腕、か。
下腕が籠手ごと半ばから断たれ、地面に転がった。
ヤツは血を吹き出す腕を押さえ、うずくまる。
トドメを刺すチャンスだ!
だが……
身体が動かなかった。
ヒトの手を斬り落としちまった事実。そして、命を奪うという行為。
それを意識した瞬間、頭がパニックを起こしたのだ。
「おのれ……このままでは済まさぬ!」
地の底から響く様な、ヤツの声。
フィルズ・ロスタミは左腕を拾うと、すぐさま身を翻した。
「父様の仇!」
エスリーンが爪を振りかざして後を追う。
が、ヤツは既に逃げ去った後であった。




