いやマジでちっと泣きたい
――裏通り
俺はエスリーンを連れ、“酔いどれ牛”に向かった。
報酬を受け取るためだ。もう大丈夫だろう。
エスリーンを連れてきたのは、彼女の護衛を兼ねて。そして、もう一つ目的がある。
彼女の身分証を手に入れるためだ。
彼女は父親によって身一つでこの街の外に転移してきたので、通行証を持っていない。
猫に戻せば通行証は要らんが、ラバンに見つかる可能性があるな。
もし猫状態でリュックに詰めればいいのかもしれんが、生物を生きたまま入れていいのかどうか……。
それに、身分証はあるに越したコトはねェ。まぁ、口入れ屋……じゃねぇ傭兵ギルドの身分証なんかは最低限の信用しかないが、それでも無いよりはマシだ。
しばらく実績を積み上げれば、街の偉いさんなんかとのコネも出来るだろうしな。
「ねぇ、ソースケ。ここ、怖い……」
エスリーンが俺の腕を握った。
もっとくっついてもいいんだぜ?
「大丈夫だ。俺がついてる」
「ん……」
エスリーンは心細げに頷いた。
信用されてない?
まぁ、仕方ねぇか。ゴロツキ連中がニヤニヤしながら俺達を見ているしな。
と、思ったら近付いて来やがった。
「なぁ、ニーちゃん。カワイイ女連れてるじゃねぇか」
またかよ。
とりあえず、ゴロツキその四と五としておこうか。
「カワイイだろ? 所でちょっとソコ通してくんねぇ?」
愛想笑いをしつつ、ヤツらに言ってやる。
「そりゃ出来ねェなァ。その子を置いてったら考えてやってもイイぜ?」
『考えてやっても』、ねぇ?
「じゃ、いーや。アンタらをテキトーにどかして通るから」
ゴロツキその四を押しやる。
「うおっ!?」
強化された俺の腕力には抗えず、ヤツはフラついた。
コイツらのステイタスも、ゴロツキその一から三と大差ねぇ。量産型スペックってトコか。
「なっ……テメェ! フザけんなよ!」
流石に逆上しやがった。まぁ、一見ヒョロいガキに押されてヨロめいちゃ、コケンに関わるか。ハッタリが効いてナンボだモンな。
あーメンドい。さっさと片付けるか。
「“衝弾”!」
俺の掌から、目に見えぬ衝撃波が飛ぶ。
「んげっ!?」
「がっ!?」
ゴロツキその四と五は直撃を受け、吹き飛んだ。
ヤツらは倒れ、前後不覚となった。
「えっ……一発で?」
エスリーンは呆然と俺を見る。
「ああ。こんなモンさ。見直した?」
「え、ええ……。ちょっとね」
「ハハ……」
ちょっとかよ! ……まぁいいや。
「じゃ、行こう」
俺達二人はその場を後にした。
ちなみに経験点は80で、計1193点。次のレベルにはまだ遠いな。
――酔いどれ牛
「よう、おっちゃん。やってるかい?」
俺は扉を開けると、カウンターで頬杖をついてぼんやりしていたハルジーに声をかけた。
その声に驚き、カクンと首が落ちかける。
……このおっさん、昔は腕利きの傭兵だったんだよな。自称だけど……
「オ、オウ。……前の依頼のコトか? それとも、もう猫が見つかったってか?」
その言葉を聞き、エスリーンの顔が強張った。
が、俺は何食わぬ顔だ。
「いや、そろそろ報酬がもらえる頃かな〜、と。猫の方は……まだなんとも」
「そうか。屋敷の件は、依頼主の確認は済んだ。あのゾンビの死体の処理は厄介だった様だけどな……。緑色の粘液が袋から染み出してたとか」
だいぶ溶けちまったか? もうちっときっちり凍らせときゃよかったか。一応袋は二重にしておいたが、まだ足りんかったんかねェ?
が、今言っても仕方がねぇ。報酬が引かれてなきゃいいんだがな。
「まぁそれでも、倒した場所に放置しといたら、もっとヒドい事になってたぜ?」
あの高そーなジュータンが台無しになっただろう。
「そうだな。だから、依頼主には納得してもらったよ」
「そいつはありがたい」
ほ〜、意外とやるじゃん。……なんつったら失礼か。
それはそーと……
「報酬はどうなったん?」
「ああ。もらってあるぜ。お前さんの分はコレだ」
俺の眼の前に小袋が置かれた。
開けてみると、中には金貨が入っている。数は……20枚。約束通りだな。
「確認した。これでこの仕事は終了だな」
「おう。……ところで、そっちの嬢ちゃんは?」
「ああ。昨日知り合った。猫探しに協力してもらってる」
「そうか。まさかソースケがそんな可愛い子を連れてくるとは思わなかったぜ」
「し、失礼な」
いやマジでちっと泣きたい。
どーせあっちじゃカノジョなしですよ〜、と。
それどころか影が薄いだの言われるシマツで……。こっちに来てまでソレ言われんのかよォ。
……まぁイイや。
「ああ、そうだ。しばらくの間、この街を離れるコトにしたんだ」
「へぇ? ナンでまた?」
ハルジーは俺の顔を見た。
「ああ、実はな。彼女の依頼でちっとある場所に行く事になったんだ」
「その嬢ちゃんからの依頼、ねぇ……」
ハルジーはやや不機嫌な顔をした。
まっ、トーゼンだわな。ただでさえ依頼がないのに、自分のトコのメンバーが勝手に仕事を受けたら機嫌も悪くなるだろう。
「じゃあ、こうしよう」
俺は四枚の金貨をハルジーの前に置いた。
「ん? どういうつもりだ?」
「彼女がこの金で、このギルドに塔への護衛を依頼したとしよう」
「お、おう……」
「で、アンタはその依頼を俺に振った、と。で、これが俺への報酬だ」
そこから三枚の金貨を取り、懐にしまう。
「その一枚は、アンタの仲介手数料だ。これでいいだろ?」
「う、ウム。それなら文句はない。が、このギルドの正式な依頼になったワケだからな。きっちりこなしてくれよ」
途端に機嫌が良くなりやがった。
「オウ。粗相はしないぜ」
おっと、用事はもう1件あるんだった。
「あ、そーだ。この子も傭兵ギルドに登録できるかい?」
「ウン? その嬢ちゃんを?」
ハルジーが怪訝な顔で、彼女を見る。
「ああ。魔道師の娘らしぜ?」
「おう、そうか……。昔はこのギルドにも魔導師がいたんだが、皆あっちに行っちまってな……」
「お、おう……」
遠い目してやがる。その当時はここも賑わってたんだろうな、多分。
でも、もどってきてくれぃ。コッチもまだ用事があるんだ。
「で、スマンが通行証を発行してもらいたい。二人分な」
一応街の外に出るんで、通行証はあった方がいいだろう。北門でも必要だったしな。
「おう分かったぜ。その嬢ちゃんの登録もな」
「ああ。頼むよ」
そしてハルジーは書類を取り出した。
コレは見覚えがある。ギルド入会の契約書だ。
この紙にサインと血判をすれば、入会完了となる。
まー、その前に、色々書かにゃいかんモノもあるケド。
「ふむ……エスリーン、か。魔法はどこで習ったんだ?」
「それは……」
一瞬、エスリーンは困った様な顔で言葉を切った。
「……リシュートの学院で」
「……ほう。あのラスディン師がいた……。そりゃ、大歓迎だな」
ラスディン? ふ〜む。ナニやら有名人?
聞いたところ、どうやら魔王戦役で、この街を護る戦いで活躍したヒトだそーな。
が……どーやらこの街ではジョーシキだったらしく、呆れられちまったというね……。
紆余曲折はあったものの、エスリーンの登録と通行証の発行を済ませた俺達は、宿を引き払うとこの街を出る事にした。




