ナ〜ンか裏がありそーだな
――神殿通りの大樹亭前
ネヴィラーム神殿と領主の館を結ぶ大通りは神殿通りと呼ばれているらしい。
さっきの広場から領主の館方面へと少し入ったところに、その店はあった。
俺はとりあえず、向かいにある雑貨屋に入った。
そこで旅の道具などを物色しつつ、宿の方を伺う。
火口箱や松明、ロープなど、冒険に必要そーなモノを買い込んだあたりで、一人の男が店から出てくるのに気付いた。
「あれか……」
年齢は50歳前後ってトコか? 瘦せぎすの、鋭い目つきの男だ。飢えた狼って表現が似合うかもな。そしてその顔下半分を無精髭が覆ってる。先刻聞いた特徴は一致すんな。にしても、ひとクセもふたクセもありそうな男だ。くぐって来た修羅場の数が違うっていうか。
とりあえず、アカシックレコードで照合だ。
意識を集中すると、ヤツのプロフィールが脳裏に浮かんできた。
ん? 名前はフィルズ・ロスタミ!? ……別人か? それともラバンってーのは偽名なんかな。
雑貨屋の店員に確認してみるが、やはりラバンで間違い無いそーだ。
ふ〜む、ナンか本名を名乗れん事情でもあるんかいな?
待てよ? そーいえばこの名前、聞いたことがあるよーな、無いよーな……。あー、確かゲームで見たっけ?
続けてさらなる情報が浮かんできた。
ふむふむ……魔王戦役当時聖堂騎士団のNo.2だった男か。権力闘争に敗れて騎士団を出奔、と。門番連中はその後から入ってきたんで、顔は知らねぇのかな? あるいは下っ端だからか。
あるいは、人相を変えるために髭を生やしたりしてるんだろーか?
髪もボサボサで、とてもじゃないが元聖堂騎士とは思えんしナ。一体何があったんだ?
確か、ゲームだと、どーだったんだっけか?
……あ、そーいえば。
思い出した。ゲームだと団長の座を狙ってたんだっけか。当時の団長カルス・エゼキエルだっけ? と暗闘を繰り返してたりしたな。
いまあのアリサマっつーコトは、結局失敗したんかい。
それにしても、なんでココに? しかもそんなヤツが猫を、ねぇ……。こりゃナ〜ンか裏がありそーだな。
もしかして店でのモメ事は、ヤツが一枚噛んでたりしてナ。
で、捕獲に失敗して口入れ屋に依頼、と……。
そーまでして探すってコトは、その“猫”にナンか重要な秘密でも隠されてるんかいな? でヤツはソレ使って自分の立場を挽回しようとしてるとか。
ま、いーや。俺は猫を探せばいい。それ以上は、俺の知ったこっちゃねぇ。あの騎士団と関わると、メンドいコトになりそーだしな。
まぁ、猫はあの口入れ屋に持っていく訳だから、今の依頼をこなしてもヤツと接触しなくて済みそーだな。もしヤツまで届けてくれと言われたら、なんとか上手いコト口実つけて断らにゃいかんが。どうしても断れないなら……そんトキゃそんトキだな。
とはいえ、その猫をどー探したモンかね。
脳内でステイタスを確認する。何か役立つスキルや呪文があるといいが……あった。
よしよし。“探索”とやらの呪文があるな。物を見つけ出す呪文らしい。
ただし、よく知るモノでなければその精度は落ちてしまう、か。
例えば名前しか知らない人や動物を探そうとしても、そのイメージを描くことができないので、全くあてにはならんだろーな。
そういう場合、その精度を上げるには触媒となるモノが必要、と。
人や動物を探す場合、よく使っていたモノや身体の一部――この場合毛とかだな――が触媒として使用出来るそーだ。
そういや口入れ……もとい傭兵ギルドの契約書にした血判も、そのためのものだろうな。
とりあえず宿に一旦戻って、何か手がかりになるモノをもらってこよう。
――宿屋の一室
とりあえず主人に断った上で、リラの寝床に落ちていた毛を拾ってきた。
これを使えばいけるかねェ?
さて、呪文を使ってみるか。
印を結び……
「“探索”!」
“力ある言葉”を解き放った。
さて、どーなる?
毛に宿る“運命律”の残滓を辿っていく。
……おっ! 反応アリ。それもけっこー強いぞ。
目を閉じ、意識を集中。
反応の位置は、多分この宿の裏あたりっぽいナ。
近くにいるんなら、姿を現したって良さそーなモンだが。
そーいえば、猫は体調不良だったり危機に陥ったりすると、どっかに隠れちまうとかいう話を聞いたっけ。
あのおっさんに襲われて危機感を覚え、どっかに隠れてるんかねぇ?
ケガとかしてたらヤバいかもしれん。それこそ早いうちに確保して……って、渡す相手はあのおっさんじゃねーか。
う〜ん、どーしたモンか……
とりあえず、反応があった辺りを探してみっか。
……おっと、その前に準備せんとな。
さっき雑貨屋やらで買ったモンを取り出して、と……
――しばしののち
「ここ……だな」
俺は一軒の家……いや、屋敷の前に立っていた。
ここには見覚えがある。っつーか……
「さっきの屋敷じゃねーかよ!」
ここは先刻フレッシュゴーレムを倒した旧ベルカント邸だ。
……この屋敷にナ〜ンか縁でもあるんかねぇ?
っと、よく考えりゃ、隠れるのにちょうどいー場所だな、ココは。ゾンビの噂で人が近寄らねぇし。
まっ、その“ゾンビ”は俺が倒しちまったんだけどな。
もう今は、安住の地でなくなったワケか。
あ〜、そーいえば、帰り際に猫の鳴き声がしたっけ? まさかそんな都合のいーオチねーよと思ってココは後回しにしちまったが……
そういえば、俺に与えられた“力”ってのは、運命律に干渉するモノだっけか?
もしかしたらこれもその“力”のせいなのか?
あるいは、自称“造物主”の見えざる手なのか。
…………。
と、とりあえず玄関周辺の地面をチェックだ。
よく見ると、肉球つきの足跡がある。猫っぽいが、普通より少し大きい。
ビンゴ、かもな。
そーいえば玄関脇に置いた袋は三つとも無くなってんな。今の持ち主が片付けたんかねぇ?
っつ〜コトは、チェック済んだんか。なら、店に戻りゃあ報酬が貰えるな。
そーいや置いた辺りに黒いシミがついてるのは……ヤツの身体が一部解けちまったんかな?
文句言われーせんか? 報酬減らされたりとか……
う〜ん……。と、とにかく今は、猫を探すのが先決だ。
人物、設定など
・フィルズ・ロスタミ(ラバン)
魔王戦役時での、アルセス聖堂騎士団副団長。当時の団長カルス・エゼキエルと権力闘争を繰り広げていた。現在は偽名を使い、傭兵に身をやつしている。




