その胸も尻も俺ンだ!
――地下室
服を引き裂かれ、露わになるエスリーンの裸体。
「ちょっ……何すんのよ!」
抵抗するエスリーン。しかし、騎士二人によって押さえ込まれる。とはいえ相当苦労してるがな。
「ふふっ、あなたもそこでたっぷり楽しみなさいな」
その姿を眺め、微笑むトゥラミシュ。
慈母の如きな笑顔が逆に恐ろしい。
そしてとうとう、最後の一枚が剥ぎ取られてしまう。
「い……や……。見ないで、ソースケ……」
涙目になるエスリーン。その声は恐怖で震えていた。
「ふふ……あなたのその“心”、とっても美味しいわ」
と、トゥラミシュ。“心”が美味い? どーいうこった?
そして騎士の手がその胸を荒々しく揉み……いや、揉めるほど肉はないか。
いや、ンな事言ってるバヤイじゃねェ! いよいよヤバい! クソッ!
「オイ! その胸も尻も俺ンだ! 手前ェらの汚ェ手で触るんじゃねぇ!」
思わず叫んでいた。
そして強引にトゥラミシュを押しのける。
「なっ!?」
戸惑うトゥラミシュの声。
ン? どーいうワケか、身体の自由が利くな。
同時に、騎士どもの動きが止まった。トゥラミシュのコントロールが一瞬途絶えたのか?
オシ。これで……
と、その直後、
「何言ってんのよ、アンタ! さんざん違う女と楽しんでおいて!」
エスリーンがまたしてもブチキレよった。
そして、騎士二人の顔面に、両手の爪を振りかざした。そして血しぶきをあげ倒れ臥す騎士ども。
うわっ、残虐ッ!
まー、相手がゾンビ状態だし、それにエスリーンに乱暴しようとしたヤツらだから、別に構いやしねェんだけどさ。でもアレを俺が食らったらと思うと、ねぇ?
そして返り血を浴びた彼女は、倒れた騎士どもには目もくれず、こっちに歩いて来やがる。
俺はトゥラミシュを押しのけた姿勢のまま、思わず硬直。
いや、ヤバいって……その目は。つかその爪引っ込めてくれんかね。
は……話し合う余地はあるハズだよな? な?
「ふふっ、隙あり」
トゥラミシュの声。
「へ?」
思わずそっちに目をやり……
しまった!
彼女と目があう。
その瞳の中に揺らぐ、妖しげな光。
そして……再び身体の自由が利かなくなった。
せっかく身体の自由を取り戻したってのに……下手こいたぜ。
再び俺は、彼女の意のままにその身体を抱きしめる。
「ソースケ! またアンタは!」
そして、怒髪天。
あああ……もー知らん。どーにでもな〜れ。
俺は思わず心の中で、頭を抱えた。
「あらあら。まだダメよ。そっちのお友達と楽しんでなさいな」
と、トゥラミシュ。
ン? 友達? ……まさか!
「ウ……グ……」
すぐそばで、うめき声がした。
そちらに意識を向けると、立ち上がるアーミルの姿があった。
あー、ベッド脇にいたんか。気づかんかったよ。
エスリーンは警戒するように、一旦後退る。
にしても、アーミルを使ってどーするツモリだ?
トゥラミシュはアーミルの首を抱き寄せ、唇を合わせる。
膨大な魔力がアーミルに流れ込むのを感じた。
と……
「ォオオァー!」
咆哮。そしてその身体が再び膨れあがる。
先刻ほどではないにしても、筋骨隆々の身体だ。
そしてその獣じみた視線をエスリーンに向ける。
「ア……アーミル!? ちょっと、止めてよ……」
戸惑うエスリーン。
そして躙り寄るアーミル。
彼女は爪を振りかざし……その姿勢のまま後退する。
さすがに顔見知り相手に爪を使うのは躊躇ったか。
だが、それがスキとなる。
突進するアーミル。
「ちょっと! ああっ……」
彼女は抵抗するものの、あっさりと組み伏せられてしまう。
「嫌っ……嫌ぁ……」
半泣き声のエスリーン。
クソっどうにかならねェのかよ! 畜生! 何が“選ばれた”だ! 肝心なトキに役に立たねェじゃねェか!
無力感。絶望感。
あっさり彼女の術中にはまった俺自身の無力を呪う。
「いいわ……ゾクゾクするわ。あなた達の怒り。嫌悪。絶望。悲嘆。……それが私の力となる。そうすれば、きっとあの方お方も……」
“あのお方”!? 何者だ? 一体……
いや、ンなコト考えてるヨユーなんかねェ。このまンまじゃ、エスリーンが……
このままナンとか身体の自由を取り戻さねば……
指先に魔力を巡らす。
と、かすかに俺の意思で指が動いた。
親指、人差し指、中指……
しかし、もどかしい。なかなか思うようには……
クッ、これじゃ間に合わねェ!
「あっ、ダメ! そんな!」
エスリーンの悲鳴。
アーミルはエスリーンの脚を抱え上げ……
……クソッ! どうしようもねェんかよ!
心中での絶叫。
それを見て、トゥラミシュの唇が吊り上がった。
チクショウ。嘆くコトすらヤツの思うツボなのかよ!
しかし、その時……
光が弾けた。
「ガアァッ!」
アーミルの絶叫。
ヤツは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。そしてそのまま頽れる。
下帯に乱れは無い。ってコトはまだエスリーンは無事か。
にしても、一体何が……
今感じたのは、まさしく“神気”。セルキア神殿で感じたものと、同質の“力”だ。
チラとトゥラミシュに目をやる。
「そんな……まさか!?」
驚愕にこわばる顔。
ってコトは、想定外の出来事なワケか。
よし、今のうちだ。またアレを使うか。
枷を砕いたあの“力”。それを呼び覚ませば、この呪縛を打ち破れるかもしれん。
よし。また妄想の力を借りるか。
一つ深呼吸。
そして脳内に妄念を呼び覚ますべく、自己暗示。
そして……来た!
熱い“力”の胎動。このまま彼女の呪縛を打ち破り……
しかし、
「女神の加護……まさか、本当にあったとはね」
トゥラミシュはやや引きつりながらも笑みを見せた。
「なら……“これ”はどうかしら?」
……? “これ”、だと?
そして彼女は俺に視線を向ける。
だが、遅いぜ? もうすぐこの呪縛なんぞ……
「そういえば、勇者の因子を与えられた貴方なら、もしかしたら女神の加護は効かないかもしれないわよね」
その顔に刻まれる、酷薄な笑み。
「丁度いいわ。そのままケダモノになっておしまいなさい」
彼女の瞳がまた妖しく光り、そして俺の口をその唇で塞いだ。そして送り込まれる“力”……
ン? ぐうっ!? しまった!
送り込まれた“力”は俺の中の“力”と混ざりあり、荒れ狂う。
ギリギリのところで押さえ込んでいた理性は、もはやそれに抗うことはできなかった。
そして俺の理性は荒れ狂う本能に呑まれ、一匹の獣が誕生した。




