口入れ屋ってのに行ってみっか
――町外れの一角
「とりあえず傭兵組合はココか」
飯屋で教えてもらった場所に、高い塀で囲まれた石造りの建物がそびえていた。
これまた立派な造りだな。広い庭と講堂のような建物も見える。
俺はとりあえず、門へと向かった。
門のところには、看板が掲げられている。“戦士の館”と読めた。ここのギルドの名前か?
そしてその門の脇には、一人の門番がいた。
皮鎧に身を包み、腰には長剣を差している。
20そこらの若い男だが、それなりに強そうだな。立ち姿にスキがない。
とりあえず、能力値その他を確認だ。
……能力値自体はあの衛兵二人よりやや高い程度だが、スキルが高い。剣術や格闘だけじゃなく、槍術や弓術、戦術まで持ってやがる。
こんなヤツ相手にしたら、今の俺じゃ無事じゃすまねェだろうな。
あとは、この傭兵ギルドに関しても調べとこう。
……が、
「アレ? 何も出ねぇ!?」
どーいうこった? アカシックレコードに登録されてねぇとか……
ふ〜む……バグか? それとも、そんなに重要じゃないから記載されてないんか? それにしちゃ規模がデカいか。
……ま、イイや。とりあえず声をかけてみよう。
「すいません。傭兵ギルドってここですか?」
「ええ。“戦士の館”へようこそ。どんなご用件ですか?」
おっと、丁寧な口調で返された。
「傭兵になりたいんですが……」
「ふむ……」
門番は俺を値踏みするように眺めた。
「紹介状はありますか?」
「紹介状? いえ……」
げっ……そんなモン持ってねぇぞ。
「そうですか。申し訳ありませんが、紹介状がないのならば、通すことはできません」
ダメか。
ワイロは……止めといた方がいいな。
ナンかそういうのは通じなさそーな雰囲気だし。
もしそれで捕まってもツマンネェ。
「じゃあ、出直します」
そう言い残して、俺は傭兵ギルドを後にした。
「ハァ……」
俺は思わずタメ息を吐いた。
生涯初の職探しは、門前払いで終わったか。
まっ、そーカンタンに行くわきゃねぇわな。職安みてぇなモンでもありゃイイのに。
……仕方ねェ。アヤシいけど、口入れ屋ってのに行ってみっか。確か裏通りだったな……。
――裏通り
そこは、いかにもな場所だった。
狭い道に雑多な店やら屋台が並び、真っ昼間から酒をかっ喰らってるオッサンがいる。露出度の高い服を着たネーチャンや客引き、物乞い、いかにもアレなゴロツキや用心棒……
……正直引き返したくなった。転移前なら絶対に寄り付かんよーな場所だな。だが、今はもう背に腹は代えられねぇ。
行くか。……行くしかねェ。
俺は内心恐る恐る裏通りへと足を踏み入れた。
不躾な視線を感じる。だが、舐められたらアウトだ。
平常心、平常心。
胸を張り、何食わぬ顔で歩く。
と、しばらく行ったところで声をかけられた。
いかにもなDQNな男だ。歳は20代かな? ケド、ナンかオッサン臭ェ。そんなのが三人もいやがる。
「なぁ、ニイちゃん、待ちな」
「はい?」
思わず返事をし、後悔。……しまった。これじゃナメられるか。
「なぁ、ちっとカネ貸してくんねェ?」
肩に手を掛けられる。
うわっ、酒臭ェ。どんだけ飲んでやがるんだ?
「アンタらに貸すカネなんてねぇよ」
ハッタリも必要だ。それを跳ね除けてやる。
「ナンだとコラァ」
……案の定激昂しやがった。
ま、ケンカになったって、負ける気はしねぇ。……今の俺なら、だがな〜。
おっと、念のためにステイタス照合だ。
……三人とも、ただのチンピラだな。傭兵ギルドの門番あたりになら瞬殺されるレベルだ。それどころか、体力度や耐久度、敏捷度を除いては、転移当初の俺の能力値より低いぜ。
おっしゃ、行けるか? いや、行ける。多分。
俺は悠然と――というフリをして――構えた。
「死ィねやァァ!」
ゴロツキその一の大ぶりなパンチ。
いわゆるテレフォンパンチっつーヤツだな。
転移前の俺ならまともにくらっちまったかもしれんが、今ならヨユーを持ってかわせる。
格闘スキルと危険感知はともに1Lvとはいえ、効果はあったよーだな。
紙一重で拳の下をくぐった。
よし。んじゃ、反撃だ。
「オラァ!」
「ふげっ!?」
パンチをかわされ、上体を泳がせたヤツのガラ空きになった脇腹にフック一発。
そして今度は身体がくの字になったところで、顎先にアッパー掌底だ。
クリーンヒット。
ヤツはがくりと膝をつき、そのまま地面に倒れた。
「……!」
残り二人が息を飲むのがわかった。
「次はどいつだ? 二人一緒でも構わんぜ?」
ニヤリと笑って見せる。そして威嚇代わりのシャドーボクシング。ちっと腰が引けてた気がするが。
アチラさんも、ここで引いてくれりゃメンドくさくなくていい。
しかし……
「な……なめやがって!」
「このヤロー! よくも……」
激昂して突進してくる二人。
ありゃりゃ、逆効果か。
まっ、それでもヤッちまうけどね。
レスリングのタックルみたいにつかみかかってきたゴロツキその二の大男の腕を、ジャンプで回避。同時に顎先を蹴っぱぐってやる。
ローリングソバットとかハデな技使いてェが、所詮格闘スキルLv1じゃ失敗すんのが関の山だな。
そして着地。
が、そこを狙ってもうゴロツキその三がナイフを抜いて斬りかかってきた。
「ヒャッハー!」
「ヤベっ!」
だが、慌てずその拳でナイフを持った腕をひねり上げてナイフを奪い、投げ捨てた。そして、
「ぬおりゃー!」
「うおっ!? ……げはっ!」
腕を引き込むと肩越しに担ぎ上げ、ついで脚でヤツの身体を跳ねあげた。
一本背負ってヤツだ。
我ながら、見事に決まった。柔道なんざ体育の授業でやった程度だが、格闘スキルさまさまだねェ。
ヤツは背後の壁に叩きつけられた後に頭から地面に落下し、動かなくなった。
さっきアゴを蹴り上げたヤツも気絶している。
ヘッ……楽勝ってトコかねぇ。
俺は立ち上がると連中を眺めつつ、服のホコリを払った。
「……ふぅ、こんなモンかね?」
そーだ。コイツらを倒したんで、幾らか経験点が入ったはずだ。チェックしとこう。
あんまし期待は出来んがな〜。
意識を集中し、ステイタスを呼び出す。
とりあえず経験点は120。今までのと合わせて713だ。LV3は600だから、めでたくレベルアップだぜ。ラッキー。
能力値は……そうだな、知恵に2、魅力に1だ。とりあえず、人並み以上にしとかんと。
スキルは剣術を3にしとこう。
面接や剣術試験の入会テストとかあるかもしれんし。
――――
名前 : 仁木壮介 性別 : 男 種族 : 人間 経験レベル : 3 身長 : 166cm 体重 : 54kg
体力度 : 14 耐久度 : 16 器用度 : 21 敏捷度 : 13 幸運度 : 16
精神力 : 13 精神耐久度 : 13 / 14 知性度 : 15 知恵 : 14 魅力度 : 13
HP : 30 / 33 MP : 20 / 29 / 30
攻撃修正 : +17 回避修正 : +16 速度 : 速 魔法修正 : +15 魔防修正 : +8 / +9
スキル : 剣術3 格闘1 黒魔術1 神聖魔法2 危険感知1
所持金 : 50640 経験点 : 713
武器 : 聖剣 防具 : なし
装備 : 服 リュック 所持品 : スマートフォン 魔導石1
言語 : トゥラーン語2 ゼルゲト語1 ソアン語1 アトラス語1
――――
まっ、こ〜んなトコかねェ。
レベルアップの感覚は、今までとは少し違うな。
頭の中が澄み渡っていく様だ。
さて、と。
レベルアップも済んだし、口入れ屋とやらを探すか……。
けど、またこの通りをうろつかにゃならねェのか……。ナンかもーかったるくなってきたな。ま〜たコンな連中にカラまれるかもしれんし。
……いや待て。
そーだ。ココに丁度いい案内人がいるじゃねぇか。
俺は三人のゴロツキのうち、リーダー格と思しきゴロツキその一を叩き起こした。
「な……なんだよ」
少しおびえの混じった声。もーちっと根性あるヤツかと思ったんだけどな〜。
ま、いーや。
「ちょっと聞きてェコトがある。この辺りに口入れ屋ってのがあるみてェなんだが……知ってっか?」
「口入れ屋? ああ、ハルジーさんの店か」
ハルジー? 口入れ屋の責任者か?
「ま、いいや。案内してくれ」
「わ、わかったよ……」
男は残り二人も起こすと、先頭に立って歩き始めた。
俺はそのあとをついていく。
さ〜て、鬼が出るか蛇が出るか。




