二日目 聴き込みその2
「そろそろ高校の部活も終わる頃だと思うけど... 高校は、手分けしようか。」
すっかり司令塔である翔が言った。
「え、なんで?」
今日は翔主導で聴き込みだったから楽だなぁとか思ってたのに。
「校内潜入できる訳じゃないし、下校に張り込むんだったら同時進行しないと時間がもったいないだろ。三人で動いたら二日がかりになる。」
「確かに... そやなぁ... 」
言いつつ目が泳ぐ勇。
こいつ、そういえば聴き込み関係ずっと空気だったな...
「大丈夫、勇は俺とな。で、葵が一人で女子校の方宜しく。」
「あ、ズルイ。」
口を尖らせるあたしと、あからさまにホッとした表情の勇。
「女子校の校門前に男がうろうろしてたら通報されそうだろ?」
そんなわけで、あたし一人、一人目の通う女子校の近くに放り出された。
「かのんさんのことで聞きたいことがあるんだけど...」
結構な人数に声をかけて、やっと失踪前日一緒にいた人たちに行き着いた時には、正直ちょっと涙目だった。
みんな胡散臭そうに避けるし。
まぁ、胡散臭いのは間違いないけど。
「かのんさんが家からいなくなった日の前の日、どんなことがあったのか教えて欲しいんです。」
あたしが言うと、女子高生三人は顔を見合わせた。
「... なんで、あなたにそんなことを教えなきゃいけないんですか?」
静かに、一人が言う。
今度の建前は、翔と相談してきてある。
「あの日、市内でもう一人、高校生の女の子が家からいなくなったの、知ってますか?」
あたしは、声を潜めて言った。
警察は捜査していないから、恐らくは知らないはずだ。そして、気になる情報のはず。
案の定、三人は息を飲んで、そしてまた顔を見合わせる。
「... 知りません。」
「あたしの妹なの。普通に新学期登校して行って、友だちと遊んで帰ってきたはずなのに、夜の間に、家族が気づかないうちにいなくなってた... ただの家出のはずないの。
... 友だちから、ここの学校でも妹と同じようにいなくなった子がいるって聞いて、何か関係があるんじゃないかと思って...
だから、お願いします。かのんさんのこと、教えてもらえませんか?」
昨日から嘘ばっかりついてるなぁ、と思いながら、じっと待つ。
三人は、お互いの顔と私の顔とを見ながら、しばらく迷っていたようだった。
そして。
「でも... かのんも普通でしたよ。」
一人が、ためらいがちに言った。
「いいんです! 普通の中にも何か共通点があるかもしれないし。」
あたしは、じっとその目を見て言った。
「... あの日は... 九時くらいから始業式で、ホームルームとか教科書販売の説明とかあって、十一時過ぎには学校出たよね?」
さっきの一人が話し出し、他の二人が頷く。
「駅前まで歩いてるうちに十二時近くなったから、ファーストフードでご飯食べて、そのあとカラオケ行って... 」
「でも、混んでたから名前書いて一回出て時間潰したよね。」
「うん、一時間待ちくらいだったんだっけ? お店見たり、プリクラ撮ったり、あと本屋さんとか。」
「だいたい一時間くらいして戻ったら順番来て、三時間カラオケして...」
「六時くらいに電車乗ったかなぁ…。」
それぞれが思い出しながら言う。
立ち寄ったお店の名前や場所を控えて、あたしは三人にお礼を言って別れた。