同窓会
一時的に削除していましたが元に戻しました。
とある日曜日の昼下がり。
今春から無事女子大学生になった私は、懐かしい駅前で待ち合わせをしていた。
「うーん。足が痛い……」
慣れないハイヒールを履きながら移動したせいか、つま先や太ももが痛む。
誰も見ていないかなぁと、ぽんぽんとふくらはぎを叩いていたら、後ろから声をかけられた。
「やぁ。優希、お待たせ」
振り向くと、普通の私服姿の朋紀が立っていた。
「朋紀、久しぶり。高校の卒業式以来だね」
「そうだなー。って言っても一か月くらい前だけどなあ。ていうか、優希、ずいぶん着飾っているね」
「そ、そうかな……」
私はちらりと自分の服装に目をやる。
ピンクのアンサンブルニットに白いふわりとしたスカート。私としてはもっとフォーマルな、パーティドレスを着ていった方がいいのかな、と悩んだんだけど、朋紀の服装を見ると、余計な心配だったかもしれない。
「ところで、隆太は?」
「ん、あいつはまだ……って、噂をしたら、ちょうど来たみたいだね」
「あ、本当だ。おーいっ」
朋紀の視線の先に、似合わないジャケット姿の隆太が見えて、私は大きく手を振った。
私たちに気づいて駆け寄ってくる隆太を見ながら、私は不意に、三年前の高校の入学式の日を思い出した。
☆ ☆ ☆
「私は、栗山優希といいます。水穂中学出身です。趣味は裁縫・料理……それと、麻雀ですっ」
最後にちょっとしたオチをつけて、記念すべき、高校初日の自己紹介を終える。
結局中学校までは「僕っ子」で通すことになっちゃったけど、高校入学を機に、「私」と名乗るようにしたのだ。中三の頃からひそかに練習していたので、問題なく「私」と言うことができた。
自己紹介を終えて席に戻ると、隣の席の男子が私の顔をじっと見てきた。別に私の顔に見とれているとかそういうのじゃなく、何かを思い出そうとしているような感じだった。
なので、こっちから聞いてみた。
「ん、どうしたの?」
「あ、いや……栗山優希って名前、どこかで聞いたような気がしてなぁ……」
高校の校則に引っかからないぎりぎり程度に髪の毛を茶色に染めた、けど不良っぽい感じは全くない彼が、うーんと首をひねる。
そして思い出したのか、ぽんと手を打って言った。
「そうだ。思い出した。小学の5年と6年のとき、同じ名前の奴がいたんだ」
「へぇ。どこの小学校?」
「ここの県じゃないんだけどなぁ。俺、中学のとき引っ越してるから。隣の県の山王市ってところにある、水野小って言うんだけど」
「え――?」
今度は私が驚く番だった。
山王市の水野小と言ったら、お父さんの転勤でコロコロ転校していた私が最後にいた小学校だ。
黒板に書かれている座席表に目をやる。
栗山優希の隣にある名前は、「佐藤朋紀」。
佐藤という名字はありふれていて気づかなかったけど、私もその名前に心当たりがあった。
「あっ、6-2の、佐藤朋紀っ!」
まだ他の人の自己紹介中なので、もちろん小声で会話していたんだけど、つい普通に声を出してしまい、慌てて口を押さえる。朋紀は、仲良くしていた友達の一人だ。
「おー。ってことは、やっぱり、あの優希か。久しぶりー。海外に行くって言ってたけど、こっちに戻ってんだ。……ん?」
懐かしげな表情を見せていた朋紀が、不意に疑問符を浮かべる。
「あれ? でも確か、優希って、男だったよなあ……」
「あ」
私は自分の失態に気づいた。
そう。当時の私は、まだ「男の子」として生活していたんだ。
女の子として暮らしていくのを知られないために、こっそりと転校して、誰にも連絡しないようにしていた。それなのに、あっさりばらしてしまった。
「……ごめん。みんながいるから、その話は後で……」
朋紀に声を潜めて言いながら、私は自分の体質を責めた。
僕っ子は直っても、天然ボケ体質は、まだ直ってないみたいだった。
高校の初日は、クラスに案内され簡単な自己紹介をしてから入学式、そして簡単なホームルームの後、解散という流れで終わりを告げた。
まだお昼前なので、過去の話をするついでに、朋紀と食事もしようということになった。中学では学校に財布を持ち込むことがなかったので、帰りに何か食べて帰るのは、初めてだ。さっそく高校生してるって感じでちょっと嬉しい。そもそも学校で甘いジュースを買って飲めるという事実に、まず驚いたよ。
「それにしても、本当にあの優希かあ。すげー、セーラー服が似合っているよなあ」
一緒に駅前まで歩きながら、朋紀が私の姿を見ながら、感心した様子で言った。
「あ、ありがと」
ストレートに言われて、ちょっと恥ずかしかったけど、悪い気はしない。
うちの高校の女子の制服はセーラー服だ。襟の部分が水色のチェック柄になっているのが特徴で、女子からも可愛いと評判の制服なのだ。
通学時間や学力だけでなく、この学校を選んだのは、この制服も影響しているかもしれない。
今は大学生で、中学高校とブレザータイプの制服だった絵梨姉ちゃんからも、「学生のうちに一度は、優ちゃんみたいにセーラー服を着てみたかったなぁ」と、羨ましがれたりしている。
「俺、リアル『男の娘』って、初めて見たよ」
「……おとこのこ? 女の子だけど……」
「いや。女の子じゃなくて、男の娘って書いて『男の娘』」
「ふぇっ?」
「いやー。どこから見ても普通に女の子だよなぁ。背がちっちゃくて、胸は良い感じに膨らんでいるし。背中からお尻にかけてのラインや、スカートから伸びる足も、男の物とは思えないって。やっぱり胸は、ブラか何かで底上げしてるのか?」
「えっと。その……」
朋紀の言葉を聞いて、私はようやく彼が勘違いしていることに気づいた。
「何か勘違いしているようだから、一応言っておくけど、今の私は男の子じゃなくて、普通に女の子、女子だからね」
「へ?」
今度は朋紀が変な声をあげる番だった。
「あれ? でも、俺の知っている優希は普通に男子だったよな? 修学旅行の時、付いているのも見た記憶あるし。もしかして、今は付いてないの?」
「なっ、ないよっ。今は、ちゃんとした女の子なんだから!」
朋紀の視線が制服のスカートに向いてきたので、私は持っている鞄でそれを隠す。
「へぇ。てことは性転換手術ってやつを受けたの? でも手術だけでそこまで普通の女になれるもんだっけ?」
「うーん。私の場合、ほかの人とちょっと事情が違っていたから。手術して女の子になったというより、もともと女の子だったって言ったほうが近いかな」
外性器の影響でずっと男子として暮らしていたけれど、もともと身体の中身は生まれたときから女の子だった。だから「転換」というよりは、本来の姿に戻った、という感じのほうが強い。
手術した当初は戸惑っていたけれど、女の子として三年も過ごすとさすがに慣れてきたのか、男の子として過ごしている時間のほうがまだずっと長いにも関わらず、最近は男の子だったときのイメージが沸かなくなってきていた。
そう説明すると、朋紀はうんうんとうなずいた。
「あー。なるほど。よくそういう話あるよなあ」
「……え? よくあるの?」
「ほら、男だと思っていた幼なじみが実は、女だった、ってやつ。漫画だとお約束じゃん? ようは優希も似たようなもんなんだよね」
「あはは……まぁ、そうなのかな」
漫画と現実を一緒にするのはどうかと思うけど、納得してくれたみたいなので、ま、いっか。
そんなこと話ながら、徐々に駅前に近づいてくる。水穂駅よりずっと大きくて賑やかな駅前だ。
「そういえば、優希が女として暮らしているってこと、ほかの奴は知ってるの? たとえば、隆太とか」
「え……」
朋紀の口から思わぬ単語が出てきて、私は固まってしまった。
坂田隆太。朋紀とともに、仲の良かった男子の一人だ。私と隆太と朋紀で一緒によく遊んでいて、クラスでも三人組扱いされていた。なので、こうして朋紀と話している時点で、隆太の話題が出ることは予想できていたはず。
にも関わらず、その可能性が頭に浮かばなかったのは、あの中学一年生の冬の出来事が、まだ私の心の中に残っていて、無意識に避けようとしていたのかもしれない。
隆太とはあの後、最後に電話で話したっきり、一切何のつながりもない。
「ん、どうしたの?」
「いや、その、一応知ってる……けど」
「あー。やっぱりそうなんだ。くそー。優希が美少女になっていたなんて話、あいつ、一度もしてくれなかったよ」
朋紀も中学入学と同時に引っ越していて、隆太とは別の中学だったけど、連絡を取り合って結構遊んでいたようだ。けれどさすがに、隆太からあの出来事が話されることはなかったみたい。
「あれ、どうかした?」
隆太の話題が出た途端、私の様子が変わったのを、朋紀も気づいたみたい。
「もしかして、隆太と喧嘩でもしたの?」
「う、うん。まぁ、そんなところ……」
「なんだよ。さっきから歯切れが悪いなぁ。あ、もしかして、女になった姿で隆太と会ったら、無理やり乱暴されたとか」
「――っっ」
私は反射的に身をびくっと震わせて、変な言葉を漏らしてしまった。
「……え、マジで……?」
そんな私の様子に、冗談めかして言っていた朋紀の顔が青ざめる。
私と隆太が喧嘩したことは小学生のときにも何度かあった。
けれど、それは男同士のときだ。内容も給食のエビフライを食べられた、みたいな理由ばかりだ。
男と女として、そういう事態になることとは、比べものにならないと察したのだろう。
私はあわてて手をぱたぱた振った。
「えっとその。確かに隆太に無理やり襲われたことがあったけど、途中でやめてくれたし、ちゃんと訳も話してくれて謝ってくれたし。しばらくはすごく怖くて、隆太のこと恨んだり怒ったりしたけれど、今はもうそんなことないから。あれ以来会ったことないけど」
「……本当に?」
朋紀の言葉に、私はゆっくりとうなずく。
嘘ではない。
無意識のうちに隆太の話題を避けていたけれど、あの出来事は一生心の中に残っていくと思う。私自身、忘れちゃいけないことでもあると思う。
けど、絵梨姉ちゃんに夢月ちゃん、みんなに支えられて立ち直って、それから時がたつにつれて、恐怖や怒りは次第になくなっていった。
もし仲直りできたら、と思ったこともなくはなかったけど、私から連絡するのは変だし。隆太のほうからも、連絡がくることはなかった。
そうして時だけが過ぎて行っていって、高校生になっていた。
「そっか。そんな事情があったとは知らなかったなぁ……うーん。どうしよう、しまったなあ」
「ん? どうしたの」
「いやあ、実はね、もともと学校が終わったら、この駅前で会う約束してたんだ」
「誰と?」
「隆太と」
「……え?」
朋紀の言葉に、私は思わず固まってしまう。
そしてそのタイミングをまるで見計らったかのように、私の背後から、聞き覚えのある声が掛けられた。
「……優希?」
「隆太……」
振り返った先に、真新しいブレザー姿の隆太が立っていた。背がさらに高くなったのか、少し縦にすっきりした印象だけど、顔立ちは小学校の頃からほとんど変わっていないので、すぐ分かった。
「ごめん」
「え……」
隆太がすっと頭を下げた。
「俺がしでかしたことが、謝って済む問題じゃないのは分ってる。けどどうしてももう一度、優希に会って言いたかった。優希に迷惑かかるかもしれないと思って、ずっとできなかったけど……」
そっか。
隆太のほうも、あんなことを私にした手前、ずっとアプローチもできなかったんだ。
隆太はまだ頭を下げている。
それは形だけの土下座より、ずっと私の心にきた。
「えっ、あ、あのね……」
思わず声が上ずってしまったのは、恐怖からじゃなかった。
「私も、隆太にされたこと、許しちゃダメなことだって分ってる。けど隆太の気持ちも分かっているからもう怒っていないし……私も、もう一度隆太に会いたいって思っていたかも……」
「そうか……」
「うん……」
頭をあげた隆太と顔を合わせる。
なんとなく会話が続かない。隆太は三年ぶりに会った私を見てどう思っているんだろう。
「あ、そうだ。隆太ったら、こんなこと言いつつ、実は彼女がいるんだよ」
私たちの間に流れる微妙な空気を察してか、朋紀が冗談めかして言った。
「お、おいっ」
「え、本当? おめでとう」
素直に言葉が出た。
「……あんなことしたっていうのに、許してくれるのか?」
「うん。あのことと隆太の彼女の話は別だもん。隆太の人生まで縛るつもりなんてないし、隆太に恋人ができたことは素直に嬉しいよ」
もしあの出来事を隆太が引きずって、女性を避けるようになっていたら、さすがに重いもんね。
「でも、優希のほうはどうなんだ? 俺にあんなことされて男が苦手になってはいないのか……」
「えっと……まぁ、私のほうも、一応それなりに、付き合っている人はいるというか……」
やっぱりほかの人に、特に昔の男友達にそういうことを話すのは、ちょっと恥ずかしくて、うつむいてしまう。
「……それって、相手は男だよね?」
口を挟む朋紀に、私は一瞬きょとんとしつつ、答える。
「え、それはまぁ。今の私は、女の子だし……」
「えぇぇ。マジかよー。ひそかに狙ってたのに」
「おい」
朋紀の言葉に隆太がツッコミを入れる。
「ったく、昔の優希のことを知ってるくせに」
「そういう隆太こそ、その優希に欲情して襲い掛かったんだろ?」
「それは……」
「うんうん。あのときの隆太の目は、本当に私を陵辱しようとする目だったよ」
つい自然と朋紀の会話に冗談めかして乗っかる。
「おいっ」
「ねぇねぇ。それ、隆太の彼女に話してやったら?」
「あ、それいいね」
「……やめてください。マジで。お願いします」
「あはは」
みんなで笑う。
あまりに笑いすぎて、いつの間にか目に涙が浮かんでしまうほどに。
「優希?」
「ううん。大丈夫」
私は目に浮かぶ涙をごしごしと拭って、にこりと笑った。
「隆太と最後話したとき、こんなことがあったなって笑い話にできる日が来たらいいなって言ったけど――意外と早かったね、そういう日」
☆ ☆ ☆
「え、本当に栗山くんなの? うそーっ」
「え、えっ。やだー。すごく可愛いーっ」
隆太と朋紀と一緒に会場に入った途端、私は着飾った女の子たちに囲まれてしまった。
えっと、ずっと顔を合わしていないからいまいち自信がないけど、中村さんと永江さんと、えーと……
「いやぁ。まったく、どっちが主役か分からないねぇ」
「す、すみません」
最後に会ったときに比べずいぶん年をとられた田辺先生に笑顔で言われ、私は恐縮しつつ頭を下げた。
田辺先生は私が水野小学校の5年と6年生のときの担任の先生だ。この春に定年で退職されたため、6年2組の同窓会を兼ねて、田辺先生の退職祝いが企画されたんだ。私は連絡先を絶っていたので本来なら呼ばれないはずだったんだけど、朋紀経由で話が回ってきて、迷った末に参加することにしたんだ。
その結果、主役の先生をさしおいて、すっかり私が注目の的になってしまった。……まぁ、何となく覚悟はしていたけどね。
「佐藤くんに事前に聞かされたけれど、実際に見るまでは信じられなかったよ」
「それじゃあ、やっぱり先生も、私の転校の理由を何も知らされていなかったんですか」
誰にも告げずに転校した、ということになっているんだけど、学校にはお父さんたちが事情を話していたんじゃないかな、とも思っていた。
けれど、先生の様子だと、本当に話していなかったみたい。
「いやぁ、海外での連絡先が途絶えて、心配していたんだけど、そういう理由があったんだね」
「す、すみません」
「いやいや。仕方ないことだと思うよ。学校に通っていた栗山くんが急に女の子になったら、私もどう接していいか戸惑っていたと思うからねぇ」
田辺先生がしみじみと言う。
「だから、こうやって時が経ってから再会するのは良かったと思うし、私も嬉しいですよ。こうやって、綺麗になった栗山くん……いや、栗山さんに会えて」
「はい。ありがとうございます」
私も、小学校のみんなに会えて、本当に良かった。
楽しい時間の流れは早いもので、あっという間に同窓会のお開きの時間になってしまった。
とはいえ早い時間から始まったので、まだ午後7時。夜はまだまだこれからだ。
何人かのグループが集まって、さっそく二次会の話題があがっている。
「ねぇ。栗山さんも、これから二次会に行かない?」
と、連絡先を交換した永江さんから、私も誘われてしまった。
本当なら行きたいところなんだけど……
「あ、ごめん。その、人を待たせているから……」
永江さんの誘いに私は申し訳なく答える。
そんな私の手元をちらりと見て、永江さんは事情を察したようだ。
「あ、なるほど。そういうことかー。栗山さんもすっかり女の子ねぇ。うー、あたしも負けてられないなぁ」
「はは……」
さすが女の子。ちゃんと気づいてくれたみたい。
女の子なった状態で昔のみんなに会うので、男子に下手に言い寄られないようにと普段はつけないものをせっかく用意してきたのに、男共は、まったく気づかないんだもん。
「それじゃ、またね」
「うん。またねー」
私は笑顔で手を振って――稔くんが待つ、車に向かって駆け出した。
「お待たせ。迎えに来てくれてありがとう」
「お疲れ。別に良いって。こういう機会じゃないと、車にも乗れないしな」
運転席に座って読んでいた本をしまって、稔くんがにこりと笑って言ってくれた。この車は稔くんのお父さんの物だ。免許を取ったけれど、まだ学生なので車を持っていないから、こうやって借りているんだ。
よいしょと、スカートの裾を押さえながら助手席に座る。
「同窓会どうだった? 楽しかったか?」
「うん。すごく楽しくて、来て良かった。迷ってたとき背中を押してくれて、ありがとうね」
朋紀から、優希も出ないか、って誘われたときは、みんなの前に女の子として出席して良いか迷ってしまって即答できなかった。
けれど稔くんに相談したところ、いい機会だから、と快く送り出してくれたんだ。
「牧田くんはもう働いていて、出世しているっていうし。佐野くんなんて、ネットで連載していたマンガが今度出版されるんだってっ」
「いきなりクラスメイトの名前を言われても分からないって」
「あはは。ごめん」
つい興奮してしまった。そりゃそーだ。
それからも話を続けると、稔くんがふと言った。
「ていうか、優希の話題にあがる奴って、男ばっかりだな」
「うん。小学校高学年のときは、なかなか女子と接点がなかったし、男子のほうが普通に仲が良かったからね。それに最近は周りに女の子しかいないから、ちょっと男の人と話すのが懐かしかったかも」
高校のときは、稔くんが男子校に進学してしまったため一緒の学校に通うことができなかった。その仕返しってわけじゃないけど、今度は逆に、こっちが女子大に進学してやったのだ。
……まぁさすがに、それだけが理由じゃないけどね。稔くんからいろいろ話を聞いて、共学じゃないのも楽しそうだったし。
ちなみに、女子校というのは女の本性が出るって言われているけれど、入学して一ヶ月弱。今のところはそういうのが見られない。不安半分楽しみ半分というか。
何てことを話しつつ、稔くんの表情を見て、ふと気づいた。
「あれれ? もしかして、稔くん、――妬いてる?」
「べ、別にそういうわけじゃないけどさっ」
ぷいと横を向いてしまった。
あ、やっぱり図星みたい。
隆太とのあの出来事は稔くんには一切していないけど、男の子もたくさん集まる会に出席するのは、やっぱり少し不安だったのかな。それでも出席させてくれた稔くんには感謝だ。
あー。でもこういうのって、なんか嬉しいというか楽しいな。心配してやきもち妬いてくれる稔くんを見て、にやにやするの。ちょっぴり魔性の女になった気分。
でも、あんまりすると、稔くんがいじけちゃう。
なので、僕は右手の薬指を見せつけるようにして、にっこり笑って言った。
「大丈夫だって。僕は稔くんひとすじなんだから」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




