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『年に一度しか会えない織姫と彦星、同棲したいので地球を侵略します 〜星2つで買収されたデネブの胃痛日誌〜』  作者: Eternity Beat


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第1話:遠距離恋愛はもう限界だ。地球を奪うぞ

天の川銀河第三宙域・監視艦『アヴェスティア』。

静謐を保つはずの指令室に、冷酷な金属音が響き渡った。


「銀河標準法・第7707条――『わし座およびこと座宙域所属の特務官における物理的接触は、公務外において恒星周期に一度(365日に1日)のみ許可する』」


アルタイルは手元の端末を握りつぶさんばかりの力で停止させると、氷のように冷たい美貌を怒りで歪めた。


「前時代的な悪法にも程がある。残り364日の欠乏による私の精神的損失を、銀河連合はどう補填するつもりだ? ベガのいない空間など、真空以下の虚無に等しい」


「落ち着きなさい、アルタイル。あなたの脈拍が通常値の180%に達しているわ。……もっとも、私も昨夜はあなたの等身大ホログラムに語りかけすぎて、光子プロセッサを1基焼き切ってしまったけれど」


隣に佇むベガが、銀の髪を指先で払いながら涼しげな表情で告げる。

こと座きっての頭脳と評される天才科学者は、その知性をすべてアルタイルへの執着に変換している節があった。


「……おい。呼び出しに応じて来てみれば、開幕から光年単位の惚気を見せられる俺の身にもなれ」


指令席の背後で、腕を組んだ巨漢――デネブが深く、重いため息をつく。はくちょう座宙域の武官であり、この三人の中で唯一、自律神経が正常に機能している個体だった。


「で? 年に一度しか逢瀬を許されない悲劇の主役サマが、わざわざ俺をこんな辺境の宙域に呼び出した用件は何だ」


アルタイルは一切の躊躇なく、眼下に浮かぶ青い天体を指し示した。


「この未開惑星――太陽系第三惑星『地球』を極秘裏に侵略し、我々の私有地にする」


「……は?」


「銀河連合の管轄外となる自治領を確立すれば、銀河標準法は適用されない。すなわち、365日24時間の完全同棲が可能となる。論理的かつ完璧な解決策だ」


「侵略動機が個人的かつ身勝手すぎるだろ!!」


デネブの怒号が艦内に反響するが、ベガは平然と空間にホログラムを展開した。


「軍事制圧は連合軍の即時介入を招くわ。そこで私たちは、地球の経済活動の最小単位である『民間企業』に潜入し、内部から資本と社会インフラを掌握するソフト・インベージョンを計画したの」


「なぜ俺まで巻き込む? 俺は有給を消化して温泉惑星にでも行く予定だったんだが」


「デネブ」


アルタイルが低く、有無を言わせぬ声で呼びかけ、虚空に電子証明書を投影した。


「作戦完了後、我が一族が領有するリゾート惑星を、お前に『2つ』無償譲渡する」


「…………」


デネブの眼球がわずかに拡張した。

星2つ。恒星間条約に縛られず、一生遊んで暮らせるだけの恒久資産。


「……乗った。俺は何をすればいい?」


「話が早くて助かるわ」


ベガが薄く微笑み、三人の身体に生体偽装パルスを照射する。

眩い光子収束ののち、宇宙軍服はシワひとつないリクルートスーツへと書き換えられた。


「ふむ……これが地球の『ビジネスウェア』か。ベガ、私の外見的適合度はどうだ?」

「完璧よ、アルタイル。視覚受容体が焼き切れそうなほど洗練されているわ」

「お前のその黒髪の擬態も、観測可能な宇宙の中で最も美しい……」

「(おい、大気成分の糖度が上がる前にさっさと降下しろ)」


デネブの乾いた指摘を無視し、三つの影は重力圏へと吸い込まれていった。


数時間後。都内某所、中堅商社『帝都物産』営業第一課。


「えー、本日付で中途配属となった三人を紹介する。有田ありた君、織部おりべさん、出羽でわ君だ」


課長の無気力な声に、カタカタとキーボードを叩いていた社員たちが顔を上げる。


有田ことアルタイルは、歩くだけで視線を集める冷徹な美丈夫。

織部ことベガは、近寄りがたい気品とスタイルを兼ね備えたクール美女。

出羽ことデネブは、無駄に威圧感のあるスキンヘッドの偉丈夫。


明らかに職場の空気感から乖離した三人に、フロアが一瞬で静まり返る。


『脆弱な地球サピエンスどもめ。貴様らの社会構造など、我々の情報処理能力をもってすれば数ヶ月で完全に掌握できる』


アルタイルは内心で淡々と計算を走らせ、隣のベガへ暗号化テレパシーを送った。


『ベガ、周辺環境の掌握を開始する』

『了解よ、アルタイル。あなたのネクタイの結び目が完璧すぎて思考リソースの30%が奪われているけれど、侵略任務は速やかに遂行するわ』

『愛おしいな……今夜の作戦会議が待ち遠しい』

『ええ、私もよ、アルタイル……』


『(おい待て。脳内暗号通信を全帯域で開放するな。ダイレクトに鼓膜と胃壁に響いて吐きそうだ!!)』


二人の間に立つデネブは、額に青筋を浮かべながら、早くも自らの消化器系が悲鳴を上げているのを悟った。


星二つ。星二つのためだ。このバカップルが地球を滅ぼす前に、俺の胃が持てばいいが――。


こうして、愛のために星を奪おうとする二柱と、買収された武官による、奇妙極まりない極秘潜入任務が幕を開けた。

(第2話に続く)

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