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 孤児院の子供達は、基本的には親を亡くして身寄りもなく、孤児院に預けられる子供が殆ど。だけど、中には親に捨てられるようにやってくる子もいる。

デリックもそうだったらしい。。

 デリックの髪色はこのリリェストレーム王国では非常に珍しい黒に近い紫で瞳は金にも見えるオレンジ色の宝石眼。キラキラと反射するカットされた宝石がはめ込まれたようにしか見えない。どういう虹彩なんだろう、不思議。

正直言うと前世じゃ絶対に見られない色合いだし、初めて見た時には衝撃だった。


(アニメ!? 漫画!?)


 そんなことが頭に過ったけど、顔には出なかったと思う。ただ、この色合いはリリェストレーム王国の隣国であるレーメル国の王族の血族であれば、出る可能性の高い色合いだということを私は知っている。でもここはリリェストレーム王国。平民だったらそんなこと知るはずもないし、貴族でも隣国に接する辺境の地だからこそ学んだ知識ということを私はマージェリーの記憶から理解してる。つまりは、このマクニールの地以外では余程外交に感心のある家でない限りは知る機会は少ないのではないか、と思う。色合いで言うなら珍しい色合いは他にも色々とあるため、案外デリックが目立つわけではないので、出自のことで話題になることはないのだろうと思う。

ま、それはともかく。

 デリックの出自は本人も知らないよう。だから、このままでいいのかもと、思う。本人が望むのであれば、彼の祖国になるだろうレーメル国を調べる手段は…ないこともないと思うけど、それは彼次第だから今は考えない。

 デリックには育ての親がいたらしくて、実の親は既に亡くなっているのか、事情があって育てられなくて預けられていたのか、とにかく彼の育ての親が彼をこの孤児院に預けて消えた、ということらしい。

きっと彼自身の血筋が問題だったのだと思うんだけど、それに答えてくれる人はいないからあくまでも推測。

 孤児院に預けられた時、デリックはまだ四歳だったそう。幼いながらきっと自分の立ち位置を理解していたんじゃないかしら? デリックはとても聡いから。全ては理解出来なくても、育ての親に捨てられたと感じたんじゃ…。

当時のことを知っている先輩修道女が教えてくれたんだけど、デリックは決して泣かなかったそうなの。一人で悲しくて辛くて、耐えられないこともあったはずなのに。

小さな体で必死に何かに耐えていたと、そう教えてくれたわ。

もし、小さなデリックに出会っていたなら、私はきっとぎゅっと抱き締めてしまったでしょうね。小さな体を温めてあげたくなったんじゃないかしら。

ま、デリックは年下だけど今の彼は身長なんて私よりも高いし、本当に年下かしら? なんて思うくらいには肩幅も広いし、少年って感じではないわね。すっかり青年だわ。

でも笑っている顔を見てると、なんだかあどけなくて、やっぱり子供かもって思うの。

ふふん、私の方が年上だもの。それに中の人としてはもっと年上…のはずよね? 多分…ほぼ確実に。だから、お姉さんぶるわ。

 いつだってこの孤児院の子供達にとっての姉的立場でがんばるの。…もう少し年齢が高くなったら、母親代わりになれるかしら? いつかなれたら、嬉しいわね。

私は修道女でいる限り結婚もしないし、子供も望まないのだから。もっとも修道女をやめる未来は予定の中にないけれど。


 成人は十六歳だけど、子供達が自立するまでの期間として十八歳までは孤児院に留まることが出来る。

その間に男の子達の中には聖騎士として修道院から一度出て、聖騎士として島の外の教会で学び鍛錬する期間があり、その後希望の場所へ赴任する形で戻ってくることが多いそうだ。デリックは聖騎士になると以前から宣言していたけど、剣術を教える聖騎士からは是非聖騎士になってほしいと望まれてもいたから、きっと彼の希望は叶うだろう。

アレンもデリック同様に聖騎士を目指しているけど、少し厳しいかもしれないと感じているようね。もし騎士としての道を諦めたくないと彼が思うなら、お父様に相談してみようと私は思っている。聖騎士ではなくなる分、皆と離れてしまうけど…でも、マクニール辺境伯家の騎士団なら、悪い道ではないと思う。

ヴィヴィアンは十六歳になると同時にステラ修道院の近くの街にある服飾店にお針子として働くことが決まったし、オーレリアも同じ街の書店で働くことになったの。オーレリアは本を読むのが好きなのよ。


 まだ将来を決めかねている子供達も多いけど、それでもしっかりと自分の出来ること、出来ない事、してみたいこと、をちゃんと考えている。がんばっていってほしいな、と思う。


 前世で就いてみたいと考えていた仕事、そして実際に就いた仕事が未だに思い出せないままだけど、その為に努力は続けていたという記憶はある。具体的に何をした、というのは本当に抜けてるけど!

ただ、私が前世で生きていた時には、間違いなく母が手芸作家だったこと、父は普通の会社員だったこと、姉がいて姉は短大を卒業して地元の小さな会社に就職してすぐ結婚した…というのは覚えているの。自分の性別も名前も顔も仕事もまーったく思い出せないけど。

…私、実は男だったのかしら? とか、思う瞬間がないわけじゃない。でも、分からないんだから考えても仕方ない。今はちゃんと女の子だし、趣味と実益も兼ねてるし、問題なーい!


 そう言えば、デリックよ。現時点でデリックは十六歳だけど、聖騎士にはこの調子であれば大丈夫らしいの。孤児院の院長様伝いに教えていただいたわ。ということは、デリックはこの修道院から出てカクラート教の中央にある教会で聖騎士隊としてしっかりと学んでくることになるのね。

…お母さんは嬉しいわ、なーんて気分に浸りたくなるけどそうも言ってられないから、あくまでも振りだけ。

 年長の男の子と女の子の将来が決まり始めた頃だったの。

デリックは相変わらず私の隣を独占する勢いで私と行動を共にする恰好だった。デリックの態度がなんだかちょっと意味有り気な空気を孕むようになってきたと感じることが増えていったの。


「マージェリー修道女様、お時間少しいただけませか?」


そう言われて、何か大切な相談事だと思って、迷いもなく頷いたの。勿論、他の子供達が同じように伝えてきたならやっぱり迷いなく頷くわ。だって、私はあの子達の姉だもの。修道女で彼らのお世話係だけど、姉だと思ってるから。


 私は談話室として使われている一室を借りて、デリックと二人でテーブルに向かい合って座っている。デリックは、緊張した様子で何かを伝えようとしてくれてる。


(何か深刻な話かしら? それにしては、少し熱に浮かされたような雰囲気もあるわよね…。どんな話なのかしら?)


 そんなことを考えながら、デリックが話を切り出すのを待っていたのだけど、どうにもうまく話せないみたい。だから、切っ掛けを作ってあげるべきかしら? と思い始めた時だった。


「マージェリー修道女様、俺…いや、私の話を聞いてくれますか?」

「ええ、デリック」

「…私が隣国のレーメル国の人間なのは、御存知だと思います。レーメル国の中でも私の髪の色と瞳は王族の持つ色なんだと育ての親から聞いていました。幼い頃のことなので、ぼんやりと聞いていたんですけど、この色と瞳は父親譲りのものだと聞いています」

「…お父様の?」

「はい。でも、父は王族ではあっても王家の人間ではなく、公爵家の人間だと聞いています」

「…ん? それは…お父様の、つまりデリックのおじいさまかおばあさまより以前の方が、公爵家を興されたか、嫁がれた、という感じなのかしら?」

「はい。おじい様が国王陛下の弟君で絶えていた公爵家を興されたそうです」


 なんてこと! デリックは自分のルーツを知っていたのね。ということは、国へ戻ることも可能なのでは? でも戻ろうとはしていない…。あれ? なぜなのかしら?


「私は…祖国をほぼ知らないままにこの国で育ちました。このステラ修道院の孤児院は私にとっての家です。そして皆が、修道女様方が、私にとっての家族です。

だから、祖国に戻るつもりはありません。……マージェリー修道女様、それはおかしなことでしょうか?」


 私は問われた言葉を頭の中で反芻させてみる。このリリェストレーム王国が、ステラ修道院の孤児院が、デリックにとっては馴染み深いもの、そして家だと。そして、この孤児院の子供達や修道女達が家族だと。


「…正確に言うなら、孤児院は家ではないでしょうし、皆のことも家族とは違うのかもしれないわ。でも、デリックの気持ちを考えると…私もあなたの思いや考えが一番しっくりくると思う。

もし…私がデリックと同じ立場だったら、同じように感じる気がするの。だから、おかしなことだとは思わないわ」


 デリックは安堵したように、一息ついていた。

それから、デリックが少し瞳に強い意志を感じさせたような気がしたの。


「正直に言えば、この国の人間ではないから…今もこのままこの国で暮らしていていいのかと自問自答することがあります。でも!

この場所が自分の戻る場所だと…思っているから…。

マージェリー修道女様。私は聖騎士になります。そして、必ずステラ修道院に戻ってきます」

「ええ、期待して待ってるわ」

「だから…」

「…だから?」

「私が無事に戻ってくることが出来たら…」

「出来たら?」

「…私と結婚してください!!」

「結婚?」

「はい!」

お読みいただきありがとうございます(*^^)


なんかデリックがぶっこんでっきましたよ。

次回予告としては、マージェリーさんデリックに翻弄される。


デリックの実家周辺の話を閑話で一度書いてもいいのかな、と思ったり思わなかったり。

気が向いたら書いてみます。


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次回もよろしくお願いします。

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