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私は呆然としてデリックの顔を見ていた。軽く頭が混乱していたのかもしれない。
言葉の意味は分かる。非常にシンプルなものだったし、理解できないものじゃなかったから。でも、前途洋々とした未来のある青年が、修道女相手にプロポーズって…。
思わず頭の中では、『ないないないないないないないなーい!』って、もう一人の私が大声で叫んでいた。
でも、それ以上考えることが全く出来なくて、しばらく固まってしまっていた。
「マージェリー修道女様?」
「…」
「大丈夫ですか?」
「…あ、ご…ごめんなさい」
「いえ、突然こんなことを伝えてしまったので、ご迷惑だと…思いもしたんです。でも、これ以上は自分の気持ちに蓋が出来なくて」
「…ありがとう。その…そういう、誰かを想うのはとても尊いと思うから、そういう気持ちを伝えてくれたことは、驚いたけど…嬉しかった、わ。ただ…私はデリックよりも年上だし、修道女だから…結婚は…」
「大丈夫です。この修道院に居ながら結婚する方はいらっしゃいますから」
「え?」
私は全く知らなかったことだけど、実はこのステラ修道院は修道士と修道女が結婚をすることは可能なのだとか。結婚をする場合は、修道士の場合は修道院から出る場合が殆どらしいけど、修道女の場合は相手次第では修道院に留まることも可能なのだとか。
「聖騎士と結婚するのであれば、修道女という立場を失うことにはなると聞いていますが、この修道院にいることは可能だそうです。剣術の先生に教えてもらいました。先生も奥様が元修道女様だったそうです」
「………へ、へぇ」
なんてこと! それは修道院にいながら修道女の資格は失うけど、この場に留まる理由はあるのね!
でも…なるほどね、カクラート神は愛も司る神だから、修道士修道女でも愛情を見つけたのなら、結婚は問題ないということなのね。
でも、私が伝えたいことはそれじゃない。そういうことじゃない。それ以前の話だ。
「で、でも…私はデリックを男性として見たことがなくて…」
「それも大丈夫です。必ずマージェリー修道女様を振り向かせてみせますから」
いい笑顔で私にそう宣言をしたデリックは、私が彼を異性として意識出来ないと言ったにも関わらず、妙に自信があるようで、正直困ってしまった。
「あと一年程で私はここから出ていきます。普通だったら、離れてしまったら不安で仕方ないです。でも、この場所からマージェリー修道女様が出ていかない限り、男性と知り合う機会も、親しくする機会もないですよね」
「……ええ」
「だから、心配していません。一番身近にいる男性と言えば剣術の先生と体術の先生ですが、御二人は結婚されてるから心配する理由もないですし」
「……えー」
デリックは、私の退路がないと言わんばかりに不安要素がないのだと主張していた。そして、私の左手をそっと掴むと掌に口付けていた。
う、うわー! ちょっと待ってー! 確か、掌の口付けは懇願…だったのでは!? ま、待て! 私は誰とも結婚するつもりなんてないし、何より! 前世だって未婚だったということだけは記憶にあるのよー! この手の話はちょっと無理! 無理無理無理ー!
取り乱すように私が混乱した頭で、慌ててデリックから逃げるように左腕を引っ張ろうとしたけど、デリック離してくれない。なんで!?
「…マージェリー修道女様、私の事煽るのやめてくださいね」
「は?」
「だって…すごく今可愛い顔してる」
一体どんな顔だ! と叫びたかったけど、なんか予想が出来てしまった。きっと顔が真っ赤だろう。だって、顔が熱いんだもの。
きっとそれだけじゃなくて、困った顔をしてるだろうし、涙目なんじゃないだろうか。何て言うか…今素のマージェリーが出ている気がしないでもない。彼女の場合アーヴィン様を一途に想っていたから、他の令息達と話をすることはあっても、恋愛対象として見たことが一度もないから完璧に不慣れだもの。
非常に余裕のある表情を浮かべたデリックのほうが、貴族らしいじゃないか! と思ったことは秘密。だって、今本気で翻弄されてるのは間違いない事実だもの。嫌な子。なんでこの場面で、異性だと意識もしなかった相手に意識させられてるのよ。本当、嫌な子だわ。
「…離して」
「嫌です」
私は俯いて、思い切り左手を振り上げた。あっさりと手が自由になると、そのままデリックの宙を彷徨うように浮いてる掌を思い切り叩いたの。
「っ!」
私は表情をすぐに切り替えたわよ。間違いなく目は据わってたと思うの。それに表情がなくなってたとも思う。真顔とも言うのかも。
デリックの気持ちは受け取った。ありがたく。でも、受け入れるとは言ってない。だから、自信満々に私がデリックに落ちるだなんて思わないで欲しい。私がここにいる理由をデリックは知らないんだもの。
「勝手に人の未来を決めないで。もし、デリックのことを私が好きになるとしても、それは私の意思。あなたの今思うようなことは一切関係ないわ。
でもそうね。一応言っておくわ。私が辺境伯家の人間だった事実は消えない。もし、将来デリックが望むようなことになったとしても、私との結婚は容易じゃないわよ。
お父様だけじゃなく、三人のお兄様達が間違いなく立ちはだかるから。私を手に入れるのは、思うよりも難しいのをちゃんと覚えておきなさい」
私は暗に伝える。私の気持ちだけ得られたら全てが丸く収まるわけじゃない、と。父や兄達が間違いなく反対する未来しかないのを知っているから。たとえ貴族という形での家族ではなくなっても、あの人達はマージェリーを家族の一員として心に留め続けるような人達だから。
「…わか、りました。簡単に手に入るような人じゃないのは、分かってたし。高嶺の花だからこそ、手にしたいのだし。
私にとっての憧れで、初恋で、諦めきれないくらいの、とびきりの存在だから…。だから、絶対に諦めません!」
デリックの顔が変わったの。余裕を見せていた表情が、すっと真面目なものへと切り替わる。そして、私に対し真摯な瞳を向ける。
「そう。だったら、がんばってね。それから…年下は好みじゃないわ」
正直なところ、どう転んでも前世の私は二十代だったし、それにマージェリーの十八歳という年齢を足せば三十代…むしろ四十代かな? な精神年齢なのよ。
デリックには悪いけど、どう考えてもデリックがお子様にしか見えないしね。どう考えても無理なのよ。
結婚とか考えたくもないし…今は孤児院の子供達の事を考えていたいもの。
「…! それでも! 私の気持ちは変わりません! ただ、これからもマージェリー修道女様のことを想い続けるだけですから」
「そう? じゃあ、ほどほどにね」
私は用は済んだと、デリックに背を向けて談話室から出る。
廊下に出ると、先輩修道女が前から歩いてくるのが目に入った。思わず縋りたくなったけど、今はまだダメ、と先輩修道女の歩いてくる方向へと歩き出す。そして、すれ違う時に「後でお話聞いていただけませんか?」と、声を掛けたわ。
先輩は少し驚いた様子を見せたけど、笑って「後でね」と応えてくれた。少し気が楽になって、残りの時間をなんとか乗り切ることが出来た。
(まさか、マージェリーが告白されるとか全く考えなかったわよ。だって、ここ修道院の敷地内だし。いくら孤児院でデリックが体だけ見たら私よりも年上に見えるけど、年下だし)
そう、私は思い違いをしていることに気付けてなかったの。マージェリーが告白をされた、と私は思ってた。でも、よくよく考えなくても…中身は私。マージェリーの顔だけじゃなく、中身の私も込みでの告白だったのよ。デリックは私のことを初日に認めてくれた。それから私という人間を見ていてくれたのよ。そのことに気付くのはまだ…少し先の話。
お読みいただきありがとうございます(*^^)
デリックに振り回されたマージェリーさん、なんとか立て直したけど…がんばって(棒読)
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書き損ねたので、追記的に後書きに放り込んでおきます。
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デリックに告白された後、先輩修道女に話を聞いてもらう約束をした後のこと。
~~奉仕の休憩時間中に、時間をもらって相談中~~
先輩修道女(先輩):話を聞いて欲しいってことだったけれど、どうしたの?
マージェリー(マー):実は…何とも言えないことになってしまっていまして…。
先輩:…もしかして、デリックかしら?
マー:! ど、どど、どうしてわかったんですか!?
先輩:やっぱりね。あの子、ずっと貴女ばかり見てるから、もしかして、と思ってたのよ。
マー:年上の人に憧れるなんてお年頃ですかね…。
先輩:そうなのかもしれないけど、多分ね違うと思うわよ。
マー:ええ?
先輩:あの子にとって孤児院の子供達って守る対象でしかないのよね。
あの子よりも年上の女の子も今までもいたのよ。
でも、姉のように慕うことはあっても、そこに異性としてというのはなかったの。
マー:そうなんですか? あ、でも私が初恋だって言ってた…。
先輩:でしょ? デリックに恋心を持つ子も何人かいたのよ。でも全然ね。
マー:かなりモテそうなのに、もったいない。
先輩:ふふふ、こればかりは仕方ないもの。心が動くかどうかは人それぞれでしょ?
マー:そうですね。
先輩:それで、マージェリー修道女はデリックのことどうしたいの?
マー:困っているのは、彼が私のことを諦めないと言ったから、ですかね。
先輩:それは大変ね。あの子、とーっても気長でとーっても粘り強いのよ。
マー:それ、私に諦めろって言ってませんか?
先輩:まさか! だって貴方が孤児院からいなくなるのは、困るもの。
子供達もあなたのことが大好きだしね。修道女の私達も同じよ。
あなたがいてくれるから、みんな楽しく過ごせてるのよ。
マー:…ありがとうございます!
先輩:でも…そうね。デリックがもしあなたのことを口説き落としてくれたら、多分別の形で…(小声で何か言ってる)
マー:先輩?
先輩:なんでもないわ。まぁ、なるようにしかならないものよ。
デリックだって聖騎士の訓練のために、外へ出ていくわけだし。
マー:そうですよね! どうしようか悩むのも私らしくないし、今まで通りにするだけなんですけど。
先輩:がんばってね。きっと気まずさはあると思うから。でも大丈夫よ。
マー:お話聞いていただけて、ちょっと楽になりました。ありがとうございます!
先輩:いいえ、また何かあれば言ってちょうだいね。いつだって聞くから。
マー:はい。ありがとうございます。
~~話を聞いてもらって、かなり気楽になったマージェリーさんはあっさり切り替えたのだった~~
因みに。院長と先輩修道女達の間では、デリックの態度からだいたいは把握されていて、二人が今後どうなるのか、めちゃくちゃ話題にされているっぽい。
知らぬはマージェリーさんだけっていう…話題の中心にいるくせに蚊帳の外状態なのだった。




