8. 戦術は経験を伴ってこそ意味がある
しばらくゴブリン狩りと修行の日々を過ごす。
中々に洞窟生活は快適だ。
地面が硬いことと夜が寒いことを除けば、良い空間だと言える。
ちなみに防寒対策として、暖かい服を着ることで寒さを凌いだ。
俺が着ていたものをフィーアに食べさせて、擬態で服を作ってもらった。
保温性と発熱性のある服の完成だ。
食べ物はトレントから奪っておいた。
果実の外側の皮の部分は眠気覚ましの成分があるらしい。
皮は苦くてまずいが我慢して食べた。
果実だけだと味に飽きてしまう。
だから、川で魚を取ってくる。
スライムが魚を取るのが得意で、魚の確保は簡単だった。
そして、問題となる火。
人間の生活には欠かせないものだ。
これは簡単に解決した。
俺が魔法で火を作り出すことができるからだ。
ルッツは魔法の才能がない。
その点に関しては落ちこぼれだ。
だが、仮にも貴族の出。
最低限の魔法の使い方は学んできた。
火を起こすぐらいの火魔法なら使える。
逆にいえばマッチ程度の火魔法しか使えないんだけどな。
そうして、小さな洞窟を拠点にしばらく過ごした。
この頃にはツヴァイやフィーアも人間の言葉を話せるようになっていた。
ツヴァイが話すことはほとんどないが……。
「タイショー、ゴブリンキング、カリニイク」
ドライが不満を顔に表しながら、俺に言ってきた。
こいつは俺のことを大将と呼ぶ。
「ルッツサマ、コマッテル」
アインスがドライを諌めるとドライは唇を尖らせた。
スライムの人間っぽい表情に俺は苦笑する。
こいつらが少し前まではただのスライムだったと、誰が信じられるだろうか?
「デモヨー」
ドライの不満がたまる理由はわかる。
ゴブリンを狩り過ぎて、ゴブリン狩りに飽きてきたのだろう。
アインスのように慎重な性格ならともかく、ドライのように積極的な性格からすると、いつまでの雑魚ゴブリンを狩っていてもつまらない。
俺だって飽きてきた。
もうゴブリン狩り時間も終わりだと思っている。
そろそろ本陣を襲撃する頃合いだ。
「ドライの言う通り、ゴブリンキングを狩りにいく。準備は整ったからな」
「サスガ、タイショー」
ドライが喜色を浮かべた。
戦力はまだこちらのほうが少ない。
だけど、これ以上ゴブリンを狩ると、ゴブリンキングが異変に気づいてしまう。
そうなると、攻めにくくなる。
だから、向こうが何も気づいていないだろうタイミングで攻めることにした。
ツヴァイを盾、フィーアを鎧にするかどうか迷ったがやめておく。
ただでさえ4人という少人数なのに、これ以上数を減らすのは得策ではない。
ゴブリンを狩ったとはいえ、まだまだゴブリンの数は多い。
前回のように囲まれると、こちらが不利になる。
逆にゴブリンキングと一対一に持ち込めれば、俺達に勝機がある。
王を倒せば、戦争が終わるからだ。
だから策を練ることにした。
別に難しいことじゃない。
トレントの果実をゴブリンたちに食わせて戦闘不能にする。
ゴブリンがトレントに食われている姿を何度か見かけた。
あいつらは知能が低く、目の前に餌をぶら下げておけば勝手に食べて戦闘不能になると考えた。
雑兵を眠らせてる間に王を狩る。
アインスとフィーア、ツヴァイとドライ、そして俺。
三つのグループに分かれて行動する。
ただでさえ少ない戦力を分散させるのは悪手だ。
だけど、俺たちは互いが繋がっており、どの位置にいるか、おおよその位置がわかるようになっている。
この特性を活かすための別行動だ。
リアルタイムで仲間の情報が入ってくるのは戦いにおいて非常に有利だと考えた。
それぞれのグループがゴブリンを眠らせながら、ゴブリンキングのもとを目指す。
最終的に三方向からゴブリンキングを襲撃する。
それが俺の考えた作戦だ。
ということで作戦を開始した。
まずはゴブリンたちに餌をばら撒く。
ゴブリンたちは笑ってしまうぐらい簡単に餌に食いついた。
無警戒に果実を食べると、いびきを掻いて寝始めた。
「こいつら、やっぱり馬鹿だ」
俺が立てた作戦など、作戦と呼ぶには雑すぎるものだ。
相手が多少なりとも知能があると、こんなにうまくは行かない。
戦術と呼べるものでもないし、平和な日本で得た戦術知識なんて、経験を伴ければ机上の空論だ。
相手が馬鹿で本当に良かった。
ゴブリンたちを戦闘不能にしながら、ゴブリンキングのところに向かう。
ゴブリンキングはゴブリンたちと共に、森の中の開けた場所で暮らしている。
俺はゴブリンキングの住処まで来た。
視界は良好。
太陽の光が降り注いでいる。
ゴブリンキングの周りには五体のゴブリンがいた。
見た感じ、ゴブリンキングの側近と言ったところか。
五体のゴブリンから、ゴブリンナイトと同程度の強さを感じる。
ゴブリンキングを挟んで俺の反対側、木の陰にドライとツヴァイがいた。
アインスたちはまだ到着していないようだ。
しかし、問題ない。
ここまで条件が揃えば、ゴブリンキングを狩れる。
俺はドライとツヴァイにジェスチャーで指示を与える。
突撃しろ、と。
「ウオオオッ――」
ドライが木の陰から出て、ゴブリンキングに向かって走り出した。
その後ろをツヴァイがついていく。
一体のゴブリンがぐぎゃぎゃぎゃぎゃと声を上げた。
他のゴブリンたちの視線もドライに向く。
「ナイスだ、ドライ」
俺は小さく呟きながら、隠れていた茂みから姿を表す。
ゴブリンキングは俺に背中を向けている。
ドライの存在に気を取られていて、俺に気が付かないようだ。
背中ががら空きだ。
俺は足音をなるべく立てずに走り、ゴブリンキングに迫った。
あと一歩でゴブリンキングに届く、その直前――。
ゴブリンキングが振り返った。
やつの左目瞼にはドライによって付けられた傷が残っており、左目を見にくそうに開いている。
俺とゴブリンキングの視線が交差する。
ゴブリンキングは戦闘態勢に入ろうとした。
だけど、もう遅い。
俺はスライムソードでゴブリンキングに斬りかかった。
「ぐがあああっぁっぁぁぁぁぁぁ――」
ゴブリンキングはとっさに腕で体を守ったが、スライムソードがゴブリンキングの肉を切り裂いた。
ゴブリンキングの悲鳴が森に響く。
俺の攻撃は十分効いているようだ。
「さあ、第二ラウンドを始めようか」
俺はスライムソードをゴブリンキングに向ける。
そして、口の端を釣り上げて不敵に笑った。
投稿する話を間違えたので貼り直しました。




