生徒会とSクラス
「生徒会に入ることになった」
時は昼休み、場所は食堂。言葉を発したのは我妻直。成り行きは唐突だった。
「また唐突に……、どうした?」
藍の疑問には衛が答えた。
「なんか、来年指名するのに経験があった方がいいからってことらしい」
「ふーん。……で、なんで入ることにしたんだ?」
「別に暇だしいいかな? って。基本的には用事があるなら休んでもいいらしいし」
自分のことであるにも関わらず、どうでもよさそうである。水月や茉莉は「そんなテキトーな理由で」と驚いているが、直らしいと言えば直らしい。
「ちなみにレイスも一緒だよ」
そしてわざわざ不安を投げ込むのは衛である。
「大丈夫か? それ」
「僕も言ったよ、だからもう知らない」
「言ったんだ……」
茉莉が恐々としているが知ったことではない。
「まあ、最悪直が何とかするだろう」
「これが一番大変な気がするよ……」
とは言うがいざとなればどうとでもするのだろう。基本的にレイスは直に逆らわない。その上力ずくで捩じ伏せられる。いや、力ずくで捩じ伏せられるから、レイスは逆らわないと言うべきか。
「で、その場には衛も居たんだろう? 誘われなかったのか?」
「なんならレイスを入れるって聞いたときに、変わりに志願したよ」
「で、結果は?」
すでに分かってるであろう結果を聞くとは、意地が悪い。薄い笑みが見えるから、これはいつかの仕返しなのだろうか? 衛は痛くも痒くもないのだが。
「断られたよ。ある程度の戦闘力はないといけないんだって」
そう答える衛の言葉に悲哀はない。むしろその状況を楽しんでいるようにすら見える。
「戦闘力がない、ねぇ……」
藍が胡散臭いものを見る目で衛を見やる。
ただし、それは藍が衛のことを知っているからに他ならない。
知らない者からすれば、何も気になることはない。あるいは――
「戦闘力がないって、この学校にはどうやって受けたんですか?」
水月のように別のことが気になる。
仮に衛が彼女達と同じCクラスだったなら、特に気にしなかっただろう。
しかし衛はAクラス、彼女達より遥かに好成績を取っていないとおかしいのだ。
「ああ、試験要項にも書いてあるけど、関係なければ気にしないよね。僕は『神聖術』の『治癒魔法』で試験を受けたんだよ。受ける人数が人数だから、自己申告制で向こうから確認されることもないしね、知らなくても無理はないよ」
「そんなことも書かれてたんだな」
「……藍には知っておいて欲しかったんだけど」
「ははは、試験要項だったか? 全く読んでないのがバレたぞ! 藍」
「絶対に読んでないお前にだけは言われたくねぇ!」
名前すら覚束ないのだから、読んでる訳がないだろう。茶々を入れたレイスに藍が反撃する。だが、それこそ自爆である。
「……二人とも本当に読んでないの?」
レイスはともかく、藍はちょっと読み飛ばしただけだよ、程度に否定すればそれで済んだのだ。
それがない。勢いや流れもあるが、茉莉は少し気になった。
「「…………」」
「え? いや、本当に? 何考えてたの?」
「あははは、そこの二人は何も考えてないんじゃないかな」
戸惑う茉莉を、衛が宥める。
そして食事もそろそろ終わろうかという頃、逆を言えば急いで食べた者の食事が終わった頃、直達に声が掛けられた。
「少しよろしいかしら?」
「はい、なんですか?」
直の反応から、初対面であろうことか推測できる。
「我妻直さんですね? 私はSクラスの橘灯花」
Sクラスとは聖条魔法学園の内進のクラスのことだ。
もともと中等部は1クラス分の人数しかいないので、人数はその他のクラスよりやや多い程度。
「この後の午後の実習で、あなたの魔法を見せて貰いたいのだけど、大丈夫かしら?」
それに直は困ったような反応を示す。
「う~ん、使うだけなら何とでもなるけど、そうじゃないしね。どうしようか?」
空の器を目の前で回転させる。もちろん直による<念動>の魔法である。“加速”術式を用いない純粋な魔力操作。回転数にして1万rpmを超える高速回転。これだけでも直の実力が破格であることを察することはできるのだが、それで実力を理解できるとは言いがたい。
「どうしようかって頼まれてるのはおまえなんだから、自分で決めろよ」
「【極光術】とか?」
「直! この学校――いや、この街地図から消すつもり?」
とてもではないが許可できないと主張するのは衛である。
「だよねぇ」
直自身も分かっていたらしく大人しく引き下がる。
だからこそ藍達に意見を求めたのだろう。そこを藍が突き放したから挙げて見ただけ。
しかし、そうと分かれば藍達も必死に頭を働かせる。街を滅ぼされるわけにはいかない。
そして、どうにかひねり出した。
「模擬戦とか?」
藍の提案である。
「私はそれで構わないけど、あなたは?」
どちら様ですかと尋ねられたので、素直に答える。
「久賀藍だ。ちなみにクラスはC」
「久賀? 久賀って、あの?」
「どの久賀か知らないがその久賀でいいと思うぞ。久賀で名前聞くのって、大体親戚だし」
そうなのねぇ、と言いながら藍をまじまじと見やる。どうやら藍にも興味を持ったらしい。
「せっかくだし藍が相手をしたらどうだい?」
「おい、待て。なんでそうなった?」
名案とばかりに頷く衛に藍が問う。
なんでかと言われれば灯花が藍に興味を持ったからである。
「それはあれだよ。直と戦いたいなら、まずは自分を倒して見せろ! みたいな?」
「コイツは直の実力が知りたいんだろ? 意味ねぇじゃねぇか!」
「いきなりコイツ呼ばわりとは失礼ね。でもなるほど。順番に倒せということね? 私は構わないわよ」
「なんでだよ!」
その問いには笑顔だけが返された。藍には意味が分からなかったが、つまりノリである。
もちろん理由はそれだけではない。別に拒否されてる訳ではないというのが一番大きい。多少後回しにしようと、灯花としては問題ないのである。
逆にここで拒否しては藍の実力を確認する機会が失われてしまう。彼女の興味の対象は直だけではないのだ。
「でも久賀君はCクラスなんでしょう?」
とはいえ藍の実力が気になるらしい。相手に相応の実力がなければあまり意味がない。その問いには衛が答えた。
「試験勉強してなかったらしいよ」
「本当に? と言うよりも、そもそもなんでそんなことに?」
疑問はさて置き、そうであるならば実力は確かだろう。この学校の試験はそこまで甘くない。
灯花に問われ藍が視線を逸らす。しかし、そこではたと気づく。
「って待て! さっきはそんな話してなかっただろう!」
先ほどの会話は試験要項を読んだかどうかの確認だったはずである。
「それ、してないって言ってるようなものだからね?」
「茉莉! 余計なこと言うんじゃねぇ!」
ともかく、藍は灯花と模擬戦をすることになった。




