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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験  作者: 壱弐参【N-Star】
第1部
19/76

019

『あくまで当て』、そんなサクセスの言葉に若干の苛立ちを抱きつつも、過去の件から口を引っ込めた俺は、ティミーとキャロが待つ階下へ向かった。

 ギルドのテーブルでは既に二人は待っていた。

「ディルアおそーいっ」

 わーわーと喚くキャロを微笑みながら見ているティミー。しかし、待ち合わせ時間の五分前だというのに何故怒られなくてはならないのだろう。まったく、困ったものだ。

「それじゃあ余り時間もない事だし、早目に向かうかー」

「おっ買い物~、おっ買い物~♪」

 ぴょんぴょんと跳び跳ねているキャロはまるで子供のようだ。確かにパーティを組んで初めての大きな買い物になるから、女の子だったら喜ぶかもしれない。

 心なしかティミーも嬉しそうだ。お金の管理……か。サクセスのマントがあれば盗まれる心配はないだろうけど、もう少し余裕を持てるようになったら皆に分配していきたいな。

 何たって個人の財布はあるにしても、大半の金銭は俺が持っているしな。


「うわぁ……凄いわねぇ……」

 市場の通りに出て、言葉を失いつつもキャロは年齢に見合った感動を見せた。

 こんがりと焼けた肉の匂いや、熟した果実の甘い匂い。それらの店の店主が大きな声で客を引いている。

 こっちはどうやら食べ物関係の店が充実しているようだ。職人街は……はて?

「ディルア、あっちじゃない?」

 ティミーが指差した方向を注視してみる。確かに金属がカンカンと鳴る音が聞こえる。

「おーし、ん? キャロ、迷子になっても知らないぞー」

 未だに道行く人をぼーっと見つめているキャロの背中にそう言うと、

「私はもうすぐ十六歳になるのっ。子ども扱いはしないで頂戴っ」

「つまり今は十五って事だろ? 子供じゃないのか?」

「しっ、そういうお年頃なのよ」

 ティミーは口の前に人差し指を立てると、小声で俺に注意してきた。

 むぅ、子供扱いされた方が何かと便利なのだが、やはり女の子はわからん。

 職人街に着くと、先程とは違い、木の優しい匂いと、溶ける金属の臭いが漂ってきた。

「おぉ、こっちも中々活気に満ち溢れてるな」

「ディルアー、こっちこっちーっ!」

 先走り色んな作業場を通り越し、キャロは奥に見えるガッシリとした造りの店舗を指差していた。というかキャロは既にその店の前にいた。

「やっぱり子供だよなぁ?」

「うふふふ。はしゃいでるだけよ」

 どうやらティミーはキャロの気持ちを見透かしているようだ。俺もスケスケなのだろうか?

 ティミーの人を見る目は侮れないな。

 俺たちのナビゲートが終わったと判断したのか、キャロは先に店に入ってしまった。

 どうやら間違いじゃないみたいだな。ちゃんとした武具店だ。他に店はないからここいら一帯は競合店がないのかもしれない。確かにラウドみたいな土地柄だと、ストロボからの行商に対抗するために一致団結する必要があるかもしれない。

 店の扉を開けると、そこは冒険者にとって夢のような世界が広がっていた。

 剣、弓、斧、槍と無数の武器が並び、種類ごとに綺麗に並べられている。剣のコーナーには小剣、曲刀やダガー。そしてどの力自慢が使うのかわからないが、俺の身長程の大剣が立てかけられている。

 ふむ? 両手で抱える事は出来ても、(つか)を持って、ましてや振り回すなんて不可能だな?

 今でこそだが、俺の武器がパチンコっていうのは悪くなかったのかもしれない。

 防具のラインナップも素晴らしいな。軽装や重装、旅に適した衣服まで置いてある。武器も防具もサイズ毎に置いてあるな。

 キャロは案の定、手甲のコーナーでうんうん唸っている。獣にでもなるつもりなのだろうか?

 ティミーは何も言わずに俺の隣にいるが、弓やダガーをちらちらと見ている。

「見てきなよ。俺も適当に見てるからさ」

「うんっ」

 やはり我慢していたのか、にこりと笑みを見せたティミーは小走りで弓のコーナーへ向かった。

 さて、俺の剣も新調しなくちゃいけないし、見てみるか。出来れば軽めでしっかりとした作りの剣がいいんだが、硬度の高い軽金属は高いからなぁ。皆が買う分もあるし、色々考えなくてはいけないな。

『ここいらでは悪くない武具店だとは思うが、ディルア、金は大丈夫なのか?』

『現在、金貨にして二十七枚。一人分の新調なら贅沢が出来るけど、三人分ともなると多少の妥協は必要かもしれないな』

『お主が先程からチラチラと見ているその剣はいくらなのだ?』

 ぬぅ、やはりバレたか。身体の動きとかで視線がバレるんだよな、サクセスの場合。

『金貨十四枚』

『一瞬で半分もなくなるな。ふむ? 目立った細工は無いようだが、何が気に入ったのだ?』

『今まで使ってた型とほぼ一緒っていうのもあるけど、一番の理由はアイン合金っていう硬くて軽い金属を使ってるからだよ。今まで使ってた剣は、アイン鉄っていう一般的な金属だったしな。だから悩んでるんだ。だけど、今より速く動けるようになるのは大きいだろ?』

『確かにその通りだな。よし、買うのだ』

 コイツ、キャロとティミーの事を一切考えないで言ったな。

「ねぇねぇディルア! 私コレ! コレがいい!」

 キャロが持って来たのはシンプルな作りの手甲。しかし持ってみた感じ軽くて手に馴染みそうだ。キャロが欲しいと言うのもわかる気がする。俺だって欲しい。

「いいなコレ。いくらなんだ?」

「金貨十四枚!」

『ええい、生意気な小娘よ。それを買うとディルアの剣が買えぬではないかっ』

 サクセスのヤツ、声が届かない事忘れてるんじゃないか?

 だが、これを買うとなるとちょっと考えなくちゃいけないぞ? 宿代は一週間分支払ってあるから滞在費は気にしなくていい。その間に旅の資金をラウドの町の依頼で溜めればいい話だからな。

 と、そこまで考えたところで、今度はティミーが近づいて来た。

「ねぇディルア~?」

 ふむ。いつもより少しだけ甘い声だ。

 大丈夫だ。俺もそこまで鈍感じゃない。どう聞いてもこの甘い声はティミーなりの文字通り「甘え」なのだ。

「矢の補充と弓の手入れは合わせて金貨三枚なんだけど、実はね……?」

 もじもじと身体を揺らすティミーの意図はわかった。察して欲しいのだと。

「……何が欲しいんだ?」

「あー、やっぱりわかっちゃう?」

 わかるように仕向けたのはティミーさん、あなたです。

「あの、これ……」

 持って来たのは小ぶりのダガー。軽い。もしかしたら鞘より軽いんじゃないかってくらい軽い。

 ティミーの長所をよく活かせる中々の逸品だ。

「で、コレ、いくらなの?」

「金貨十枚♪」

 つまりあれだ。弓の手入れと矢の補充を合わせたら十三枚な訳だ。

『ほぉ、この娘はわかっているようだな。よし、この娘のとディルアのを買うといい。キャロのはまた今度買えばよいだろう』

 本当、コイツみたいな性格になれたら楽なんだろうが、この子供のようなキャロの顔が絶望に染まるのも、「ディルアが察してくれた。嬉しい。これは買ってくれるだろう」という嬉しそうなティミーの顔がしょんぼりするのも、俺は見たくないのだった。


「ありぁああっしたぁっ?」

 快活な店主の声に背中を押され、俺は重い足を静かに前へ進める。

「ふふーん、ふふふ~んっ♪」

 新しい手甲を空に向け、嬉しそうにスキップするキャロ。軽いはずだよ、あれアイム合金ですって。

「ディルアー、ありがと~っ♪」

 店主がサービスして付けてくれた新しい鞘に頬ずりするティミー。当然ダガーも入ってる。我がパーティ二人目のアイム合金所有者だ。

『ぬぬぬぬぬぅ……! 解せぬ! 何故お主は二人に全てを譲ったのだっ。実に、実に業腹だぞ!』

 キャロのようにぷんぷんと怒っているのは最強のマントだ。

 まぁ、魔王だしな。自分の手柄で得た収入を横取りされた気分なのだろう。

『しょうがないだろう。俺にはパチンコやサクセスのマントがあるけど、あの二人にはそういった優秀な武具がないんだ。少しでも戦力を上げたい今、これが最善の選択だ』

『優しゅ――、むぅ、確かに我は優秀だからな! ふん! ディルアなりの考えがあっての事だろう、許してやる』

 おぉ、こういうあしらい方もあるのか。メモしておこう。

『だが!』

 あれ、何か変な方向に?

『我に相談せずに決めたのは許すべき事ではないっ』

 参ったな、まだキャロみたいだ。

『明日の予定は白紙だ』

『え? 明日明後日で当て(、、)を迎えに行くんじゃ?』

『ええい、全て一日ずらせっ』

 魔王なのに子供みたいな性格してるな。いや、まぁそれだけ腹を立てたって事か。

 仕方ないな。

『わかったよ、わかったっ』

『ふん……! 覚悟せよ、小童……!』

 そのドスの掛かった低い声に、俺は背中に冷たいものを感じた。

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