020
「ふっ、くっ……このぉっ!」
「ギャッ!」
「おら、四匹目だ!」
「ギュッ!」
「あいつで……最後だ!」
「ギョッ!」
つ、辛い……!
サクセスの進言で今日は一日休みにするという話にはしたが、まさか俺だけでこんなにも討伐依頼をこなすとは思っていなかった。今日だけでもう四件目の依頼だ。
『よし、急いで冒険者ギルドへ戻れ。あと四、五件はこなしてもらうぞ』
『ま、マジかよ? 死んじゃうってっ!』
『死にはせぬ。一般的にレギュラーランクにまで上がれば大抵の事は出来るようになっている。そんじょそこらの一般人の体力の数倍はあるのだぞ。神の力を認める訳ではないが、恩恵を甘くみるでない』
くそぉ……魔王が「一般的」とか言ってるんじゃねぇよ。
『それに、折角窮屈なパーティから解放されたのだ。レギュラーランクになった恩恵、この魔王のスリングショット、そして我を有効に使えんようでは話にならんぞ!』
おのれ、恐ろしいまでに徹底しているな。正に魔王だ。
魔王の部下もこんな恐ろしいしごきを受けていたのだろうか?
『急げ! あと五、六件の依頼はこなしてもらうぞ!』
何か増えてません?
「お疲れ様です。ダークバニーの討伐報酬、金貨二枚。デスプラントの討伐報酬、金貨三枚です」
「はぁはぁ……ありがとうございます……」
「だ、大丈夫ですか……?」
「ら、らいよーぶれふ。あ、あとこれとこの討伐依頼をお願いします……」
「エネルタートル討伐と、ソイルゴーレム討伐……あの、今日だけでかなりの依頼をこなしていらっしゃいますが、本当に大丈夫でしょうか……っ?」
返事をする元気はなかった。自分でも精一杯の苦笑いをし、親指を立てて応えておく。
「…………はぁ。お気を付けて」
ギルドの受付員の「こりゃダメだ」という表情は、しばらく脳裏に焼き付いている事だろう。
ギルドで受けられる依頼は一度に二件まで。勿論これはレギュラーランクで、という意味だ。
ビギナーやノービスのランクでは一度に一件しか受けられない。
高ランクになればなるほど、複数の依頼をこなす事が出来るのだが、今の俺ではこのようにして二件の討伐依頼を受け、倒しに行き、戻って報告をするというループを経験するしかない。
まぁ普通の冒険者はそもそもループなどしない。見た事も聞いた事もない。
もしかして世界で俺だけかもしれない。それくらいあり得ない事なのだ。
因みに、キャロとティミーは町に出ている。
昨日の市場で食べ歩きをするそうだ。小銭くらいなら二人も持ってるだろうし、個人的に楽しむならそれも有りだよな。俺も是非そちらに行きたかった。こっちだと生きられないような気がする。
「ハハハハハハハハッ!」
「ビャッ!」
「クッハハハハハハハッ!」
「ビュッ!」
「シャァアアアアアアアアッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
「ビョッ!」
くぅううううううっ! 俺は今何でこんなに辛い思いをしているのだろうか!
こんな事になったのも全部サクセスって魔王のせいだ。おのれ魔王め! いつか成敗してくれる!
「ふへへへへへへ……!」
『ふむ、中々いい感じに壊れてきたようだな。だがまだだディルア。その先だ。その先に真の強さがあると思えよ? さっ、もう四、五件依頼をこなしてもらうぞ。さっさとラウドの町に戻れ』
ついに減らなくなった?
深夜。
早朝から討伐依頼をこなし、驚いていたギルドの受付員が交代し、交代したギルドの受付員が驚き、最後には呆れるという事象を体験した俺は、ようやくサクセスの呪縛から解放された。
部屋に戻り、これ以上は動かないという身体の悲鳴に同意した脳は、その場でベッドに倒れ込む事を選択した。
『ふん、やれば出来るではないか。我の記憶が正しければ……今、三十枚の金貨があるはずだぞ』
『そりゃ十二件も依頼をこなせばそれ位…………って――』
がばっと身体を起こした俺は、慌てて財布の中を確認した。
『アイン合金の剣だ。明日は朝一番で買いに行け。それ以外にも良さそうな物を探すといい』
『お前…………そのために俺を……』
『お前ではない、サクセスだ。それと、それだけではない。がしかし、これで後顧の憂いは無くなったな。ふふふふふふ』
…………なるほど、それで今日の予定を白紙にしたのか。
道理でしごくはずだよ。考えてみたら今日くらいしか一人で動ける日はないからな。
「ふ、ははははは……っ! あつつつつ、筋肉痛で笑うのも辛い……」
『どうした、何かおかしな事でもあったのか?』
『いいえ~? 全然ございません。魔王様?』
『ぬっ? ディルアにそんな風に言われると、身体もないのにどこかしらがむず痒くてたまらん。やめるのだっ』
『魔王様、いつもお世話になっております』
『おのれ! 分をわきまえよ!』
『魔王様~』
『くっ! も、もう知らん! 明日は武具店、そしてその後は南西だ! わかったらもう寝ろ!』
『はーい、魔王様―』
『くぅうううううううっ……!』
翌朝。身体中の痛みを堪えながら起き上がる。
「あいちちちち……」
正に声を出す程痛い。
『軟弱な身体だ。そんなんでは今の魔王の足下にも及ばないぞ。努力が、精進が、切磋琢磨が足りぬのだ』
まったく、好き勝手言ってくれちゃって……。昨晩の仕返しだな、これは?
部屋を出て、フラフラと階下へ向かうとティミーとキャロが朝食を食べていた。
「あ、ディルアー! おはよう!」
キャロがいつになくご機嫌だ。
一昨日の手甲の件もそうだが、昨日も食べ歩きだったからそうなって然るべきだが、こうやって改めてキャロを見ると、やはり美少女なのに……何て勿体無いんだ。
「おう、早いな二人共。今日まで休みだろう?」
「あ、うん。えーっと……昨日早くに寝ちゃったからからかな、あはは」
ん? ティミーの様子がいつもと違うような気がするが、どうしたのだろう?
「えー、何でー? これから私たち――――もごっ?」
一閃。正にその一言に尽きた。キャロの口を細長いパンが埋まった。
いや、実際にはティミーが押し込んだんだが…………はて? 本当にどうしたのだろうか?
「だ、大丈夫か……?」
「あーうんうん。気にしないでっ。このパン美味しかったからティミーにあげたくて、あはは」
むぅ、あの「あはは」がティミーらしくない。いつもなら「ふふ」か「うふふ」なはずだ。
何か隠しているのだろうか? キャロはもごもご言ってるだけだし…………、
『ほれ、ステータス更新をしたらあの武具店に行くぞ、ディルア』
そんな思考をサクセスに止められ、俺は黙って冒険者カードを神聖陣に置いた。
むぅ、頑張り過ぎたのだろうか…………まさかこんな事になるとは。
『ふふふふ、思っていた通りだ』
『お前、わかってたのかよ……』
『サクセスだ。昨晩言ったであろう? 「それだけではない」と』
た、確かに言っていた。だが、ここまで来るとキャロが若干……本当に若干だが可哀想に思えてくるな。
ディルア:二十六歳
ランク:ブロンズ
スキル:疾風/スナイプ/剛力 常時スキル:光の加護/タフネス
魔法:下級風魔法
筋力:18 体力:20 速力:32 器力:32 魔力:25 運力:18
『剛力って、もしかしてキャロが持ってる筋力上昇の上位スキルか?』
『そのようだな』
って事は一気にそれを覚えてしまったのか。悪くはないがキャロに悪い気がするのは俺だけだろうか?
『常時スキルの加護も成長しているな。光の加護か。より一層旅が楽になるのは悪い事じゃない。それにタフネス……?』
『おそらくこれもユニークスキルだ。条件はおそらく昨日の過多な依頼消化……というところか。予想通り、神の考えそうな事は手に取るようにわかる。こういったユニークスキルは常人が成し得ない事をやる事で手に入ると考えた方がいいだろう。ふふふふふ、腕が鳴る……!』
……どうして、
『くくくく、良い成長だ。これで受けられる依頼も増えそうだな、ふふふふふ。ふは、ふははははははっ!』
どうしてコイツの声に対して、耳を塞げないんだろう。




