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平和な世界の最強勇者  作者: 白楽
第一章・最強勇者と錬金術師
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4話

評価、ブックマークありがとうございます。


「では、始め!」


 エラノアの合図に、二人一組になった第三騎士団の団員が動き出す。

 素早く抜剣し、無防備なままの颯斗に対し右方向から斬りつける。

 しかしその刃を颯斗は軽く身体を捻る様にギリギリで避け、振り切ったまま無防備な胴に軽く手を触れるように押しやると、その身体がふわりと宙を浮いて遠ざかる。


「嘘っ?!」

「こ、このぉ!」

 

 続け様に颯斗に向かって振られた刃も、颯斗は頭を引いて鼻先ギリギリを掠める程度で届かず、その隙に颯斗は同じように胴に軽く触れ、この場から遠ざける。

 エラノアが突然目論んだこの模擬戦も、既に大多数が同じように颯斗に一撃を食らわせることもなく終わっている。


「ふぅ」


 肉体的な疲れは感じていないが、精神的な疲れはあった。

 だが確かな手加減の手応えに、颯斗は満足を覚える。

 ほんの少し力加減を間違えるだけで人の命を奪いかねない力は、颯斗自身をも蝕む毒だ。

 心にふと去来する破壊衝動や殺人衝動、それを実行し得る凶暴極まる力という快楽に溺れそうになるのを、颯斗自身自制するのに精いっぱいなのだ。


「流石はハヤト殿だな。私の部下も、もうほとんど残っていないではないか」

「えぇ、皆さんお強いですよ。ですが、もう終わりですか?」

「無論、まだ終わりではないさ」


 颯斗の挑発に、エラノアは薄い笑みを浮かべて次の者を向かわせる。

 前に出た二人は、今までの第三騎士団員と比べて違って見えた。

 一人は身長180㎝近くはある長身で、女性ではあるが体つきがしっかりとしているのが見て取れる。

 手にしている剣も他の騎士とは違う、刃幅の太い大振りの剣だ。

 

 その隣、横を歩くのは、身長150㎝程度の小柄な少女で、服装も鎧ではなく黒いローブを着こんでいる。

 その手には身長よりも長い杖が握られていた。

 騎士というよりは、魔法使いという風体だ。


「よろしくお願いしますね」

「あぁ、こちらこそだぜ!」

「ふえぇ、が、頑張りますぅ!」


 礼を交わし、颯斗は身構える。

 礼が終われば、そこから先は戦いだ。

 颯斗は彼女たちが動くのを待っていると、先に動いたのは少女の方だった。


「えぃっ!」


 少女が力強く杖の先で地面を叩くと、地面に魔法陣が三つ展開される。

 魔法陣を描いた様子はなく、恐らくは事前に魔法陣をすでに用意していたのだと颯斗は予測する。

 それは確かに正解で、基本的に魔法使いは戦いが始まってから魔法陣を描くよりも、事前に杖に魔法陣をストックする方法を選ぶ事が多い。

 ただしそれは杖等の魔法の触媒の質によってストック出来る魔法に限りがあり、三つも保存出来る少女の杖は、一般には中々手に入らない希少な材木から削り出されている一級品だ。


「テニア、いつも通りに行くぞ!」

「うん!」


 魔法陣が展開しているのに発動しない魔法に疑問を感じていたが、大柄な女性騎士がその魔法陣に足で触れた瞬間に理解した。

 設置型の魔法なのだ。

 

(魔法陣に触れた瞬間に雰囲気が一変した? 補助魔法ってやつかな?)


「はっ!」


 三つ全ての魔法陣に足で踏み終えた女性騎士が、気合の声とともに走り出す。

 その動きは鈍重そうな大振りの剣を持っているにも素早く颯斗に接近し、縦の斜めに剣を振り下ろした。

 颯斗はその剣を最小限の動きだけで避けるが、攻撃はそれだけに留まらず、振り下ろした剣が虚しく宙を斬り、地面に接する瞬間に踏みとどまり、更なる追撃として剣が振り上げられる。


「へぇ」

「ちっ」


 その剣は颯斗には惜しくも届かなかったが、戦いの素人であった颯斗の気を引き締めるのに十分だった。

 例え剣が直接颯斗に届いたところで傷一つ付かないだろうが、死ぬかもしれなかったという恐怖は確かにあった。

 ちなみに通常の訓練では潰した刃の剣を使う所、颯斗の願いにより本物の磨かれた剣が使われている。

 最初は遠慮がちに剣を振る騎士達だったが、颯斗に一撃も食らわせれないとなると次第に本気になっていて、後半はその遠慮も失せていた。


「レナっ!」


 女性騎士にテニアと呼ばれた少女が、女性騎士の名前を呼ぶ。

 それは何かの合図の様で、女性騎士――レナは颯斗の右側に回り込み斬りかかった。

 颯斗はその剣を避けるが、突然飛来してきた何かに思わず距離を置いて飛び下がる。

 それは魔法だった。


(なるほど。右側に僕の視線を固定させて、別方向から速度重視の魔法か。勉強になるね)


 一手ごとに手を止めてくれる訳もなく、感心する颯斗にレナが斬りかかり、その合間を縫うようにテニアの魔法が飛んでくる。

 だが数回この攻防を繰り返していると、颯斗の方も順応していき、剣が振られるより早くその挙動を制し、魔法に対して拳で払う、蹴りで消し去る等余裕が出てきた。

 

「さて、そろそろ終わらせるよ?」

「ちっ! テニア! でかいのを頼むぜ!」

「ふえ?! レナも巻き込んじゃうよ!」

「私に構わなくていい!」

「わ、分かった! ちゃんと避けてよね!」


 どうやら大技を撃ち込むつもりらしく、テニアが魔法の詠唱に入った。

 しかもレナも巻き込むほどの規模らしく、颯斗が避けなければレナにも直撃することになるだろう。

 レナの方も自身の頑丈さに自身があるのか、それとも自爆覚悟なのか分からなかったが、レナの攻撃はさらに激しく、苛烈さを増していった。


「でもそれは貴方一人で僕の足止めが出来たらの話だよね?」

「何っ!?」


 ただ、そのレナの覚悟も無意味で、レナの動きを十全に見終えた颯斗にとっては、レナの動きなど手に取る様に把握出来た。

 その剣が振り下ろされるよりも早く剣を持つ手を掴み取り、力を込める。


「痛っ?!」


 その痛みに思わずレナは剣を落としてしまった。

 

「ごめんね」


 颯斗もレナから手を放し、今度はテニアに視線を向ける。

 魔法陣も完成まで八割を切っており、詠唱も終わりに近づいていた。


「流石に避けたらダメだよね」


 完成間近の魔法陣を破壊、あるいは無効化する方法はある。

 例えば術者本人の無力化。

 だが魔法陣は完成しただけでは発動せず、詠唱だけでも発動しない。

 ただこれにはいくつかの例外があり、颯斗のような魔法陣も詠唱も必要としない例や、詠唱だけで魔法を発動させる者、魔法陣によっては未完成のまま発動可能な魔法もある。


 もう一つは、魔法陣そのものを破壊する方法。

 基本的に魔力は、同質のエネルギーによって破壊可能になる。

 つまり魔力で描かれる魔法陣ならば、相応の魔力で破壊可能なのだ。

 ただし魔法による破壊は出来ない。

 炎や水、雷へと変質した魔力はもはや別物とし、よほど強力でなければ破壊されない為、これを用いる魔法使いはほとんどいない。

 

 だが颯斗は、王国魔導士がその魔力の底が見えないと判断した程の膨大な魔力を持っている。

 整地された地面は、これまでの模擬戦の中で荒れ、手ごろな大きさの石も転がっている。

 ほとんどは序盤に踏み込みを誤った颯斗によるものだが、その石を拾うと、握り込んで魔力をその石へ注ぎ込んだ。

 そして十分に魔力を注いだ後、その石をテニア――が発動させた魔法陣へと放り投げる。

 といっても、弧を描くような緩やかな投擲ではない。

 まるで放たれた弾丸の様に真っすぐに、空気の壁すらも突破する速度で魔法陣を突き破り、轟音とともに訓練場の壁にめり込んだ。


「………ふえ?」


 あまりに想像を絶する光景に、テニアの思考は完全にフリーズしていた。

 魔法陣は颯斗の魔力に負け、粉々に砕けてしまっている。

 

「さて、まだやるかい?」


 テニアを無力化し、颯斗はレナの方を向いて剣を拾い、手渡そうとする。

 レナは悔しそうに顔を背けながら剣を受け取った。


「私たちの……負けだよ」

「そう?」


「さて、これで大方終わったが、颯斗殿。どうだ? 最後に私と一戦というのは?」

「えぇ、もちろんですよ」


 エラノアの申し出に、颯斗は快く受け入れる。

 テニアとレナが戻ったところで、エラノアが颯斗の前に出た。

 

 黒獣と呼ばれるヴォルドの妹であるエラノアの実力を、颯斗は何一つ知らない。

 だが見た目にも変わらぬ歳で騎士団一つを纏める立場にあるエラノアに、颯斗は単純に興味を抱いていた。

 騎士団員たちも、自分たちの仇を討ってくれと言わんばかりに盛り上がりを見せる。

 だが意外にも、この模擬戦は実現しなかった。


「待て、エラノア!」


 雷鳴が轟くような大声に、全員の視線が突然の声の主に向けられる。

 その声の主は、巨躯の男であった。

 黒獣・ヴォルド。

 他ならぬエラノアの兄であり、第一騎士団長の座に就いている男だ。


「なぜ止める、兄上」

「誤解するな。訳あってお前とハヤト殿の模擬戦を止めたのだ。急な任務が国王殿下より下った。先の偵察により特A級討伐指定となっている白王はくおうの存在が東の森で確認された。これに第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団が対応することになった。すぐに支度せよ」


 ヴォルドの言葉に、第三騎士団全員に緊張が走る。

 

 白王。

 この名を知らぬ者は、おそらくは騎士の中には存在しないであろう、一つの脅威として知られている。

 元は獣の類であったが、長い年月の中で魔力によって肉体が変異した魔獣に分類され、過去の戦いでその見た目から白王と呼ばれ、この国では長い事討伐対象として捜索されていた。

 それが実に数十年振りの事だった。


「すでに向かった先行隊は壊滅している。このままでは近隣の村や街にまで被害が広がるのは目に見えている。だが、強敵だ。十分に準備し、明日朝一で出立する」

「はっ!」


 エラノアは騎士としての礼をヴォルドにし、颯斗に向き直った。


「済まないハヤト殿。この続きはいずれしよう。第三騎士団! 話は聞いていたな! 速やかに準備せよ!」


 エラノアの号令に、第三騎士団は全員立ち上がってビシっと礼をする。

 そしてすぐに、訓練場を後にしていった。


「ねぇ、僕も行こうか?」


 途端に暇になった颯斗は、同行の意思をヴォルドに向ける。


「いや、これは王国騎士である我々の役目。ハヤト殿のお力はよく知っておるが、国王からの命もあり、同行してもらうわけにはいかん」

「そうなんだ?」


 国王からの命という部分に疑問を感じながら、むべもなく断られてしまった。

 あっという間に一人になってしまった颯斗は、ゆっくりとその場を後にし、城に戻っていった。

11/12一部表現を修正いたしました。

11/22大部分の表現、タイトルを変更致しました。

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