3話
「そうですね。今日は、僕は王国騎士団の皆さんの訓練に混ざりたいと思っています」
王様に、颯斗は答えた。
平和だと言われる世にあっても、人の業ともいうべき犯罪が消える訳ではない。
人は清濁併せ持つからこそ人なのだ。
そんな犯罪を犯した犯罪者を取り締まる組織が、当然ルーテリア王国にも存在する。
一つが、有事の際に真っ先に現場に赴くことになるルーテリア王国の兵士。
ルーテリア王国軍に所属し、細かに部類分けされている。
例えば王都を巡回する巡邏兵や、警邏兵、偵察兵に、下級兵士と多く存在している。
もう一つがルーテリア王国騎士団。
王に任命される騎士は、その身分が貴族という事になる。
領地を与えられる騎士は数少ないが、兵士に比べて貰える給金が多く、また特別な手当も与えられている。
その分、騎士よりも随分と数が少ないが、その力量は兵士と比べて格段に高い。
騎士は厳しい規律で自分を律し、ルーテリア王国の騎士であるという誉れを胸に日夜訓練に明け暮れる日々を送っている。
だが、滅多に活躍の場のない騎士は、年々その数を減らされていた。
今では、十四もあった騎士団も、その半分になってしまった。
そして最後が、近衛騎士だ。
騎士よりも高い力量を示し、高い信頼を得られた者が選ばれる、王族の護衛だ。
特に城内に見かける事が多く、その騎士甲冑は黒いので一目で分かる。
近衛騎士に選ばれることは、騎士として最高の誉れであるとされている。
兵士は騎士に憧れ、騎士は近衛騎士を羨望し、近衛騎士は王族に尽くす。
それがルーテリア王国における、三つの組織だ。
颯斗は、ルーテリア王国騎士団が行っている訓練に混じろうと考えていた。
「ふむ。しかしハヤト殿からすれば、如何に我が国の騎士であろうと少々物足りぬのではないか?」
「いえ、そんな事はありませんよ。騎士団の皆さんとの訓練は、今の僕に必要なものですから」
内心ではそんな事を思ってもいない王の言葉に、颯斗は返す。
(ふん、また城を壊されては堪らぬからな。適当な騎士団長に任せておくとしよう。それにこれ以上力がつけば、いざという時に困るからの。しかしここで無理に拒否して、癇癪でも起こされてはかなわん)
内心など微塵も表情に出さない辺りは、流石は一国の王といえた。
だが颯斗からすれば、そんな内心も筒抜けだ。
朝食が終わり、忙しいという王は早々に部屋を出て、颯斗も出ていく。
気まずい雰囲気のまま食事を続けるのも限界だったのだ。
すぐに、颯斗は騎士団の訓練場に向かう事にする。
そこは王城から少し離れた、ドーム状の建物で雨風を凌げる設計になっており、ルーテリア王国に二つとない大きな訓練場だった。
そこに到着すると、すぐに一人の造りの凝った甲冑を身に纏った女性が近づいてきた。
彼女の事は、颯斗も知っている。
第三騎士団団長、エラノア・ハース。
以前に一度、その顔を見たことがあった。
長い金髪に、端正な顔立ち。
颯斗と同い年だというが、異例の若さで騎士団長の座に就いた若き天才騎士だと颯斗は聞いていた。
「これはハヤト殿。陛下より話は聞いていますよ。なんでも、私どもの訓練に混じりたいとか」
「はい。今日はよろしくお願いします」
「うむ。ハヤト殿が訓練に混じると聞けば、私の部下も喜ぶでしょう。では、こちらへ来てくれ」
前を歩くエラノアの後ろを、颯斗もついていく。
エラノアの家系であるハース家は、代々騎士を輩出する貴族だと颯斗は聞いた事があった。
後ろについていきながら、颯斗はエラノアの心が読めない事に気づく。
どうやら、彼女が実力者なのは疑い様もないようだ。
「ハヤト殿は、私どもが何と呼ばれているかご存知ですか?」
「え? いや、僕はあんまり騎士と関わりを持っていないので、一度だけ……えっと、第一騎士団のヴォルドさんって方と手合わせをしただけなんですよ」
「はは、覚えておりますよ。国王陛下が余興で組んだ第一騎士団長との手合わせでしたな。結果は、ハヤト殿の圧勝でしたか」
「いえ、そんなことはありませんよ。あの人は強かったです」
思い出される、颯斗が呼び出されて間もない頃の記憶。
第一騎士団長と名乗った大男と颯斗は一度だけ戦った事があった。
結果は語るまでもない、颯斗の圧勝だったが、それでも颯斗の記憶に残る強者ではあった。
「はは、あの黒獣と呼ばれる第一騎士団長を倒した男が何を仰る。っと、話が逸れてしまったな。私の騎士団の事だが、私の騎士団は、その殆どが女で構成されている。その為、他の者からは陰で男に媚びを売るしか能のない集まりだと言われておるのだ。挙句の果てには、私が騎士団長に選ばれたのは王と寝たからだとほざく阿保までおる始末だ」
「それは……災難ですね」
ルーテリア王国において、女性騎士は今では珍しくはなくなった。
それでも、その数は男の騎士に比べて少ない。
騎士は男、という偏った意識は長年続く因縁のようなもので、そう簡単にその意識が払拭されるわけではない。
「僕には、近衛騎士の皆さんよりも強そうに見えますけどね」
「……ふふ、それは嬉しいが、下手に口に出すべきではない。どこに耳があるか分からぬからな」
少しだけ笑みを浮かべるエラノアは美しく、颯斗は思わず見惚れてしまう。
そんな会話の後、エラノアと颯斗は整列したままの騎士たちが並ぶ場所に到着する。
「ではこれより、訓練を開始する! 訓練とはいえ、実戦と同じ気持ちで望むのだ! それと今日は特別に、ハヤト殿が訓練に混じる事となった! あの黒獣・ヴォルドに打ち勝った御仁だ! しかとその実力を目にする機会だ! 各々、望むならハヤト殿に挑戦することを許可しよう!」
「え?!」
思わぬエラノアの提案に、颯斗は思わず驚きの声を上げる。
エラノアは、悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべた。
「ふふ、ハヤト殿は知らぬ様だが、黒獣・ヴォルドの名はヴォルド・ハース。私の兄なのだよ」
11/21一部表現、会話、タイトルを変更致しました。




