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平和な世界の最強勇者  作者: 白楽
第二章
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事件の後に

ブックマークありがとうございます!


 惨劇が襲った獣人の村で起きた、神代の遺物を巡る騒ぎは颯斗とエラノア、そして歩竜の介入によって、よって吸血鬼の壊滅によって解決した。

 その結果、神代の遺物が解放され、颯斗の手中に収まったのだが、それは神代の遺物の正体を知らぬ獣人たちにも気づかれる事はなく、ただ一人何かを勘取った獣人の村の村長を、絶妙な記憶操作でごまかす事で解決している。

 果たしてその結果が、獣人たちにとって幸運だったのか、不幸だったのかは颯斗からはどうでもいい事だった様で、獣人たちの喜び様に水を差す事無くその後の成り行きを見守っている。


「吸血鬼たちから我々を守ってくださってくれたばかりか、皆の傷まで癒して頂き、感謝に堪えませぬ……救世主様」


 深く頭を下げて、村長が颯斗に礼を述べる。

 救世主、と呼ばれるのは勇者と呼ばれる程にあまり意心地の悪いものだった。

 その辺りの事情についても、颯斗は既に聞いている。

 といっても大したものではなく、村に危機が訪れるとき、救世主現る――程度の伝承の類らしい。

 古くは、神代の遺物が封じられた頃からの伝承だとか。

 

「いえ、何度も言いますが、通りがかりの事なので」

「おぉっ……、何と謙虚なっ! さすがは救世主様!」


 村長の態度がややオーバーに過ぎる。

 少々、記憶操作を間違えたか? と若干颯斗は不安に思ってしまう。

 が、結局ゼロコンマ数秒で、まぁいいかと判断する。

 実際に、村こそ救った結果になったが、そのおかげで颯斗は八百年を生きる吸血鬼に、この村が長年守っていた神代の遺物を手に入れる事が出来たのだ。

 今回の件の労力に対して、その成果は十分にあったといえるだろう。

 それが必要なのか、どうかは別にして。


「ところで、救世主――ハヤト様は宴には参加なさらないので?」

「うん。どうやら僕は、ああいう場は苦手みたいでね」


 吸血鬼による獣人の村襲撃が解決して数時間、解放された獣人たちは夜の訪れとともに騒がしい程に宴に興じていた。

 ともすれば不謹慎にも思えるが、どうやら獣人の習慣には身内や知人に不幸があった場合、大きな祭りを開いて故人を偲ぶ風習があるらしい。

 酒を飲み、火を囲み、歌を歌い、その傍らで故人との思い出話を共有し、供養とする。

 今回の件は、誰にとっても不幸な出来事だった。

 だからこその騒ぎなのだろうが、颯斗はその騒ぎに混ざる事を拒否していた。

 

「そう……ですかの。ハヤト様が宴に混ざれば、皆も喜ぶでしょうに」

「はは。僕はいいですから、村長さんも宴を楽しんでください。じゃぁ、僕はちょっと馬車の方へ戻ってますね」


 颯斗は、あっと引き留める村長に構わず、村の外れに止めた馬車に戻る。

 エラノアは断り切れなかったのか、それとも宴が好きなのか、どちらにせよ宴に混ざって楽しんでいる様で、馬車の近くには誰もいなかった。

 空を見上げれば眩いばかりの星が浮かぶ空の下、颯斗は歩く。


 と、その時。

 颯斗の月の光に照らされた影が蠢き、浮かび上がる様に何かが這い出てくる。


「お帰り、フェルドさん」

「このフェルド、ただいま戻りました。つきましては、ご報告が幾つか」


 陰から這い出たのは、吸血鬼のフェルドであった。

 颯斗の手に落ち、すっかりと従順になったフェルドは颯斗の命を受け、とある人物を調べに行っていた。

 それからまだ数時間だというのに、随分と早い帰還である。

 フェルドが優秀なのか、あるいは失敗しただけなのか。

 その報告とやらを聞こうと、颯斗は歩きながら先を促す。


「ご命令通り、ルーテリア王国に忍び国王の身辺を調査致しました。極秘とされる資料や、国王自身を探った所、やはりハヤト様の懸念通りルーテリア王国国王には何やら秘密がある様子です」

「へぇ。所で、その秘密については?」

「無論、調べております。――――ハヤト様は、カイル・ノットンなる人物をご存じでしょうか?」


 フェルドが出した名前に、颯斗は記憶を少し探る。

 だがすぐに、覚えがないと答える。


「ハヤト様がご存じないのも、無理らしからぬことだと思います。カイル・ノットン。八百年を生きる私にとっても、随分と懐かしい名前でございます。そ奴は、はるか昔――私がまだ人であった頃、勇者と呼ばれた人物でございます」


 フェルドの言葉に、颯斗は足を止める。

 どうやら、興味を引いたらしいとフェルドは満面の笑みを浮かべる。

 すっかり忠犬だ。


「その人が、どうしたんだい?」

「私自身も、最初は何かの間違いかと思いましたが、しかとこの目で拝見致しました。はるか昔に一度見た通りの姿のまま、国王の身辺に、カイル・ノットンの姿がありました」

「……その人は、八百年前からいたんだよね? 人じゃないってこと?」

「さて、人が不死、あるいは長命になる術は幾つかございます故、それまでは私にも分かりかねます。ですが、その姿に変化がない以上、何らかの方法で生き延びているという事でしょう」

「もう一度確認するけど、別人ってことはないよね?」

「それは保証します。わが命に懸けて」


 フェルドが颯斗に対して、嘘をつくことはないだろう。

 勘違い、という可能性もない訳ではないが、それは今はどちらでもいい事だ。

 考えるべきは、カイル・ノットンなる人物が国王の近く――つまり颯斗の近くにいた事にも気づかなかったという点だ。

 当時の颯斗では、心を読めなかった人物を何人かいた。

 その中にカイル・ノットンという人物がいたかは定かではないが、その可能性もある。

 

「ううん、まだ情報としては不十分だね。だけど僕の欲しい情報の一つではあった。ありがとう」

「っ!! そのお言葉、私にはもったいのうございます!!」


 感動のあまり、泣き出しそうになるフェルド。

 精神と記憶をいじり過ぎて、逆にめんどくさい性格になっていることに、颯斗は苦笑する。

 自業自得であるのだが。


「さて、とりあえずは先にお使いを済ませるべきかな。そのカイルさんとやらを調べるのはまた今度でいいよ」

「ご命令あれば、私が今すぐにでも!」

「ううん、フェルドさんにはまた別の事を頼みたいからね。とりあえず、今は自由にしてもらっても構わないよ」

「御意に! 我が君の御心のままに!」


 と、フェルドは傅く姿勢のまま、地面に溶ける様に沈んでいった。

 その姿を見ながら、颯斗は頭の中を整理する。

 

「やっぱり、僕をこの世界に召喚したのには、何か理由があったのだろうか?」


 それは、常々疑問に感じていた事だった。

 颯斗をこの世界に召喚した国王は、己の興味心で颯斗を用もなく召喚した、と思っていた。

 だが時間が経つにつれて、そのことに疑問を感じ始めていた。

 何か別の理由――目的があったのではないか、と感じずにはいられないのだ。

 その鍵が、カイル・ノットンという謎の人物である可能性もある。

 

 数百年も前の、生存する勇者カイル・ノットン。

 そして新たに召喚された、もう一人の勇者である鏡颯斗。

 

「そして、僕の力は一体……誰が与えた?」


 超常を絶する、不可能を可能にする颯斗の力。

 時と共に成長する力は、いずれ颯斗でさえ手に負えなくなる。 

 そんな不安が、ずっと心の奥底にあった。

 

 そしてこの力が、颯斗自身の力ではない事にも気づいていた。


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