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 シュトラ王子との面会を無事に終えられたのだけども、なんとも居心地の悪い空気が続いている。

 特にユリィはまだ真っ赤になったままで、俺としてもどう声をかけていいのか、そもそも、どう接していいのかまるで分らない。

 現状、情けない事にミランダに丸投げ状態だ。

 情けないのは判っている。だけど俺にどうしろと?

 こんななんとも言えない空気を収めるようなスキルを持ってはいない。そもそも、俺は前世からずっと人付き合いと無縁の生活を送って来たある意味、エリートコミュ障だ。

 ヘタレ? 好きに言うがいい。

 何かハーレムでも築こうとしていたのではないか?

 別にそんなつもりは無い。俺自身、彼女たちに好意を抱いている自覚はあるけれども、自分の感情がどの程度のものなのかも判らないのだ。

 正直、彼女たちとどう接していいのかも判らないから困っている。自分の気持ちも判らないまま彼女たちとどう向き合えと?

 ヘタレどころか臆病者? やかましい。自覚はしている。

 とにかく、現状で俺に出来る事はない。

 それにしても、最後の最後であんな爆弾を放り投げて来るとは、どうやらあの王子にも実の息子に脳筋ロリコンの悪名を広めた王と同じタチの悪さがあるようだ。


「これまでと違う意味で苦手、あの人・・・怖い」


 ロリコン疑惑が晴れて、身の安全が保障されたけれども、別の意味で苦手だとケイは頭を抱えている。

 隣国の王族同士、しかも次期王、それももう過ぎ王位を継ぐのが確定した相手とこれから先、距離を置き続けるなんて不可能で、どう付き合っていったらいいのか判らないと本気で嘆いている。

 ケイまでこうも怯えているのは、彼があの後仮所にもやらかしたからだけども、本気でSのけがあるのではないだろうかあの王子は・・・。


 それにしても、まさかユグドラシルの裏側で繰り広げられていた政治闘争の実情を知る事になろうとは、いやまあ、王女であるユリィがいるのだから無関係でもないのかも知れないけど、なんでこんな面倒な事ばかり向こうからやって来るかね?

 まあ、俺たちには関係ない所で勝手に終わってくれるらしいし、別にいいのだけど、何か、後で面倒な事が起きそうな気がしないでもない・・・。

 ついでに、この後に行くドワーフの国レイザラムでも何かあるフラグにしか思えないのはどうしてだろう?


「とりあえず他の街に行こうか? 何気にまだミスティルティンとアイギスにしか行ってないし」


 ここは逃げるが勝ちだと思う。

 アイギスの総司令官である以上、ここを離れてしまえば手出しは出来ない。

 正直、俺たちの精神的な安定のためにもしばらくは王族と関わりたくない。

 そんな訳で、アイギスを離れてとっとと別の防衛都市に移動する。

 エルフの国ユグドシルはアイギスが守る海の魔域と大陸の四分の一を占める広大な魔域の二つと接している。これから向かうのは、その広大な魔域に接する防衛都市タイタス。

 巨大な大陸の四分の一にも及ぶ広大な魔域ハデスは、大陸にある三つの国と接していて、三カ国がが合同で守りを固めている。それ故に、平時であればそれ程の脅威にはならないのだけども、非常時には、魔域の活性化が起きた場合には、一転して想像を絶する脅威になる。

 何故か等と問うまでも無い。広大な領域を誇るという事はそれだけ強大な力を宿しているのを意味する。ハデスのエリアマスターはジエンドクラスま魔物が務めていて、活性化ともなれば複数のレジェンドクラスの魔物がゲートを通って現れるのだ。

 ・・・その数は、場合によっては数十を超える事すらある。

 それが一体どれほどの脅威なのか、ワザワザ言葉にするまでも無いだろう。

 そんな脅威に晒されながら、当たり前に国として存続し続けている辺りに、ヒューマンとの圧倒的なまでの力の差、或いは種としての格の違いが見えるのだけど、と言うか、ヒューマン至上主義のバカ共は、こんな危険機回りない大陸を万が一にも支配できたとして、魔物の侵攻に対抗できるつもりなのだろうか?

 ほんの少しでも常識があれば、百パーセント無理だと判りそうなものなのだけども・・・。


 まあ、今更バカ共のアホさ加減を嘆いてもどうにもならない。とりあえず、見えてきた目的地に集中しよう。

 防衛都市タイタスが臨むハデスの魔域は樹齢数千年に及ぶであろう巨木が生い茂る樹海だ。その姿は荘厳で神秘的ですらある。それ故か、タイタスは別名をハデスの門と称される。

 ハデスの門。決して開けてはならぬ死後の世界へと続く門。

 荘厳で神秘的ですらあるこの魔域の脅威がいかに壮絶なものであるかを示している。もし万が一にもこの街が落ちてしまえば、ユグドラシルは地獄に落ちる。

 例え一匹であっても、レジェンドクラスの魔物の侵攻を許してしまえばそれだけで国の崩壊を意味する。

 とは言え、向こう数百年は魔域の活性化も起きないはずなので、そう心配はないはずなのだけども、何だろうか、こうフラグが立つ音がする気がする。

 

 それはともかく、魔域とはいえ神秘的な樹海に接する都市ではあるのだけども、防衛都市であるタイタスもまたエルフの里のイメージとは程遠い近代都市だ。

 ついでに、エルフには森の守護者のイメージがあるが、彼らは魔域の森を守護対象とはしていない。

 どんどん伐採して資材として活用しているし、ぶっちゃけ、防衛上の観点からすれば魔物の姿を隠し、攻撃を阻害する樹海は邪魔なだけなので、根こそぎ排除してしまおうとした事も一度や二度ではないらしい。

 まあ、その度に魔域の再生力の前に失敗したらしいけれども、相当数の始原を確保できるのでそれで良いとされているとか・・・。


「ここがタイタスか、出来ればしばらくはのんびり過ごしたいんだけど・・・」

「大丈夫。ここはアイギスと違って代々王室が司令官を務めていないし、活性化が起きない限りは中央とは距離を置く事になってるの」


 三カ国が共同で守りを固めるハデスの魔域の防衛のユグドラシルの拠点となる都市なので、平時はなるべく政治的なものから切り離されているらしい。

 まあ、あまり政治的に近すぎると色々と面倒なのはヒューマンもエルフも変わらないという事だろう。


「だから、ここなら面倒な事に巻き込まれる心配はないはず・・・」


 そう言いながらも、何所か自信なさげなのは父と兄の事を思い出してか、それとも俺たちの今までの実績を思い出してか?

 どちらにしろ、俺的には何事も無く平穏に過ごすのは望み薄だと思う。


「それなら、レジェンドクラスの魔物でも出てこない限りは問題なさそうだね」

「ああ成程、そっちの方があったのね・・・」


 ミランダだけでなく、全員が俺が何を心配しているか即座に理解したようだ。

 できればフラグ回収は勘弁して欲しい。

 そんなフラグは出てきても回収できないから。イヤ、本当に、今の俺じゃあグングニールを使わないとレジェンドクラスの魔物は倒せないから、出てきてもらっても無駄だ。

 無理難題を押し付けられてもどうする事も出来ない。

 そんな願いを込めて、俺たちはユグドラシルで三番目となる都市に足を踏み入れた。



 タイタスに着いて一週間あまり、心配していたような事態に陥る事も無く、とりあえずは平穏に過ごせている。魔物を相手に命懸けの戦いを続けているのは変わらないのだから、それを平穏と評していいのかははなはだ疑問ではあるけれども、それはもう今更だろう。

 食生活の上でも大満足の日々を送っているし、その意味でも平和な日常と評しても差し支えはないだろう。

 タイタスの料理はアイギスと違って、エルフの料理のイメージにぴったりのもので、毎日極上の味を堪能している。

 ここのところ、ユリィが自ら料理を作る事もあり、彼女の料理の腕が超一流な事も知る事が出来た。

 

 そんな訳で、とりあえずはゆったりできているのは何よりだけども、何事もない平和な日常が続くとつい色々な事を考えてしまう。

 どれだけ考えた所で答なんて出ないのは判りきっているのに、どうして俺はこの制に転生したのだろう?

 この世界は俺に何をさせようとしているのだろう? などと意味もなく考えてしまう。

 実際の所、俺がこの世界に生まれた事に意味など何一つない可能性の方がはるかに大きい。

 むしろ、自分が転生したのには何か意味があるはずだなどと考えるのは傲慢でしかない。

 或いは、単に前世の自分に対する未練だろう。


 何時までもそんなくだらない感傷に囚われていないで、この世界に生まれた事を受け入れてごく自然に生きた方がよっぽど良いと判っているのに、未だにその一歩が踏み出せないでいる。

 言い訳をさせてもらえるなら、どうしても俺が何者かの意思でこの世界に、ネーゼリアに転生させられた可能性を捨てきれないのは、十万年前の転生者たちの例があるからだ。

 彼らは明らかに世界の危機を救うために何者かによって転生させられている。

 そうでなければ彼らの絶対的な力などを合わせて説明が付かない事が多すぎる。

 そして、彼ら自身も、自分たちがネーゼリアに転生したのに何者かの意思をほのめかしている。

 だからこそ、俺もひょっとしたらと考えてしまうのだ。

 まったくバカバカしいと判ってはいるのだけども・・・。 


「随分と浮かない顔をしているけど、何を考えているの?」


 そんな思いに駆られていたからか、声をかけられるまでノインが近付いてきた事にも気が付かなかった。


「別に大したことじゃないんだけどね。まあ、どうして俺はこうも厄介事に巻き込まれやすいのかと・・・」


 ウソではない。俺が行く先々でトラブルに巻き込まれるのも、何者かが転生させたのではないかと疑ってしまう理由の一つだ。

 神の暇つぶしの為の遊戯の駒。そんな疑念が晴れないのもどうかと思う。


「それは貴方が自分に無自覚すぎるからだと思うけど、それより、ちょうど良いわ。あなたに聞きたい事があるの」


 そう言えば、もう一緒に旅をしたそれなりになるけれども、こうして彼女と二人だけで話すのも珍しいかも知れない。


「聞きたい事ね。俺に答えられる事なら答えるけど」

「貴方はどうして戦うの?」


 どうして戦うかと来たか。ある意味でもっともな質問だろうけれども、質問の意図が抽象的過ぎるな。


「どうしてとはどういう事かな?」

「私は生きる為に、自分の身を守るために戦うしかなかった。奴隷として囚われていた私には戦うしか他に自分を守る術がなかった。だから戦う。だから強くなりたい。だけど、貴方たちは別に戦う道を選ばなくてもよかったはず。それなのに、貴方たちは自ら過酷な戦いに身を投じている。その理由が知りたい」


 彼女がこんな風に自分の意思をハッキリと伝えて来るのも珍しい。

 成程。どうして俺たちが戦うのかか・・・。

 確かに不思議かも知れない。恵まれた環境に生まれながら、自ら過酷な道を歩んでいるのが不思議でならないのか・・・。


「別に大した理由じゃないさ。それが生まれついての義務だから。それだけさ」

「義務? 生まれついての・・・?」


 ノインは俺の答えに疑問符を一杯に並べる。

 彼女には理解できないか、それも当然だな。


「これでも貴族の、それも騎士の家計の生まれだからね。家を継がないにしても、生まれながらに魔物の脅威を戦う義務を負っているんだよ」


 この世界で生きて行きためには、どうやっても力が必要だと理解したからでもあるけれども、生まれついての逃れられない義務からなのも間違いない。

 それはユリィたちも同じだ。彼女たちが戦うのは、王族として生まれた瞬間から民を守るために戦い続けなればならない使命と義務を背負っているからでもある。

 マリージアで会ったレイル王子もそうだ。生まれた瞬間から民を守るために命を賭けて魔物との攻防に身を投じる義務がある。


「ただし、それも一生続く訳じゃない。最低限の義務を果たせば後は好きに生きても良い。もっともそれもなかなか難しいけど、とりあえず、義務を果たすまでは戦場にもを投じ続ける責任がある。それが王族や貴族に生まれた者の宿命なんだよ」

「判らない。どうして王族や貴族に生まれただけで命を賭けて戦わなければいけないの?」


 その疑問は多分、これまでに多くの王族や貴族がぶつかって来ただろう。

 

「簡単な事さ、社会を維持するために必要だから。そのために王族や貴族はいるんだからな」

 

 世界の存続の為には、魔物の脅威と戦う義務を背負った存在が、常に魔物との防衛線に身を置き続ける者が、それも常に高い実力者が必要だからこそ、この世界は封建制の社会システムを維持し続けている。

 この世界では、王族も貴族も社会システムの維持のための、社会の人類の存続の為の駒でしかなく。地球のようなモノとはむしろ真逆の立ち位置だ。

 俺自身、転生した当初は貴族の家に喜びもしたものだけど、世界の事を知るにつれて後になってどうして平民に生まれなかったんだと嘆いたものだ。

 本当に、この世界は封建制の癖にむしろ平民の方がはるかに安全で暮らしやすい。

 まあ、ノインの様に奴隷に墜ちてしまってはその限りではないが・・・。


「判らない。王族や貴族は生まれついてに自由じゃないの?」

「ああ、自由と言う意味では皆無だね」


 その辺りは地球でも同じだっただろう。

 政略結婚など、政治的な駆け引きの為に雁字搦めで自由などほぼ皆無なのはどこの世界でも変わらない。


「もっとも、俺は魔物との戦いの義務以外は何一つないけれどね」


 そんなのは絶対にゴメンこうむるからこそ、魔物との戦闘以外に義務の無い冒険者の道を選んだのだ。

 命の危険と引き換えに自由を得たと言っても良い。


 ・・・本当なら、俺の実力なら早々命の危険などないはずなのに、二度も魔域の活性化に巻き込まれて死ぬ思いをしたのは。実際、生きているのが奇跡に近いのは本気で誤算だったけどね。

 ・・・アレはシャレにならないとかそんなレベルじゃない。

 命がいくつあっても足りないので、出来ればもう二度と関わり合いになりたくないのだけども、仮にこれから先、数百年起こらなかったとしても、俺の寿命を考えると死ぬまでにもう何度か遭遇するのは確実なので、自分の無駄に長い寿命が恨めしくなる。


「良く判らない」

「別にわからなくても問題ないさ。たんにそういうものだと知っておけばいい」 


 別に社会システムがどうなっているかなんて知らなくても生きて行くのに問題はない。

 ある意味で、王族や貴族が社会システムの駒でしかない事など、どうでも良い話だ。


「それに、キミだってどうして戦っているのか判らないだろう?」

「えっ? どういう事・・・?」

「今のキミはもう奴隷じゃない。そして、身を守るために十分な力をもう持っている。むしろ、これ以上大きな力を持ってしまったら逆に色々と不自由なのは俺にミランダの事を見ていれば判るはずだ。それなのにキミはまだ戦いに身を置き続けて、力を求め続けている。それは何故だい?」


 彼女は既にA+ランクの力を持っている。

 生きて行く上で、自分の身を護るのに十分過ぎる力だ。実質、彼女がこれ以上の力を持ちめる理由は無い。

 それなのに、彼女は更なる力を求め続けている。その理由は何だろう?


「今のキミならエクズシスに戻ってニーナたちと一緒に暮らしていっても問題ないはずだ」

「・・・私は邪魔?」

「そんな事はないよ。ただ、キミには既に色々な選択肢が広がっているのに気が付いて欲しいんだ」


 奴隷として生きてきた時間が長すぎる為か、彼女自身が気が付いていないけれども、既に彼女の前には無限の可能性が広がっている。

 俺としては、その可能性を無駄にして欲しくないのだけども、


「色々な選択肢があるなら、このまま貴方と一緒に居るのも一つの選択」

「キミがそれでいいのなら俺は構わないけど」

「良い。貴方は私の世界の中心。だからこそ、私は貴方の事をもっと知りたい。それが私の望み」


 何だろうか? 微妙に告白めいたものをされた気がするが・・・。

 彼女がそれで良いのならば俺から何も言う事はないだろう。

 そうして、お互いを知るための会話を続けていく。

 どうも良く判らないが彼女も満足そうだし、俺としてもこの雰囲気は悪くはない。

 随分と時間がかかったけれども、俺はようやく彼女の人となりに触れる事が出来たのかも知れない。



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