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ミランダ視点です。

「もうすぐ時間ね。みんな準備は良い」

「はい」


 もう定番となった問いに、八人そろって答えてくる。

 私とノインを除いたアベルの弟子たちはこれから魔域内部での殲滅戦に出る。

 勿論、私以外の八人は装機竜人で完全武装。

 現在の技術とは比べ物にならない高度な技術の粋を持って造られて機体は、百分の一に出力を制限されていても尚、現行機とは比べ物にならない性能を持っている。

 既に彼女たちもセーブされた状態なら完璧に近いくらい乗りこなせているのだから、本当なら私が保護者役で同行する必要も無いのだけど、アベルの心配症が不安にならない様に、こうして一緒に戦う事に成っている。

 そんなに心配なら自分で一緒に戦えばいいのにとも思うけれども、そう簡単に行かないから難しい。

 ていうか、アベルと一緒になんていたらこの子たちがアベルに殺されてしまう。

 魔域の活性化に対抗するためのアベルの戦い方は完全殲滅の一言に尽きる。

 普段は仲間との連携などを取った戦い方も出来るのだけど、活性化中はただ魔物を殲滅する事だけに特化した戦い方に変質する。そして、戦うアベルの近くにいたなら私ですら命がいくつあっても足りない。

 だから、本当は魔域の活性化中の戦い方の指導やフォローなんかは師匠であるアベルの仕事なのに、何故か私が任せられていたりする。

 まあいいんだけどね・・・。


 私が誰かのフォローなんかに動いているのに、自分でも驚いている。

 私は基本的に他人に対して一切興味も関心も持たないタイプの人間だ。

 アベルたちと接触したのも、純粋に彼らが発掘した空中戦艦と装機竜人に興味があったからでしかない。

 だからこそ、私は自分が彼らに対して興味や関心を持つとは夢にも思っていなかった。

 本当に、何時からこんなにお節介になったのだろう?

 他人の弟子のフォローとか、死なないように気を配るとか、私自身、自分でやっていながら違和感しか覚えない。それくらいおかしな事をしている。


 本当に、私はどうしたんだろう・・・?


 それも、昨日になるまで自分がおかしいのにも気が付かなかったのだからどうかしている。

 昨日、ケイの行動に触発されるように負傷者の治療にあたって、ようやく自分がおかしいと気が付いた。

 私は他人の治療など自分の意思でするようなタイプじゃあない。むしろ、目の前で死にそうな人間がどれだけいたとしても、何の関心も持たずに無視するのが私だ。私ならば助けられると判っていても、何の係わりも無い赤の他人が死にそうになっているからといって助けようなどとはカケラも思わない。

 それなのに、昨日の私は気が付けば自分から負傷者の治療をしていた。

 彼らと私には何の関わりも無い。

 彼らは単に同じ戦場に居るだけの存在だ。そんな何の関係もない他人を自分から治療しているのが信じられない。その時に成って自分がおかしいと初めて気が付いた。

 アベルに興味を持ったのは別に問題ない。むしろ興味を持つなという方が無理な程に規格外で騒がしい人物なのだから。そんな彼が弟子にしたこの子たちに興味を持つのもまあ自然なのかも知れない。

 どの道アベルと一緒に旅をするのなら、彼女たちとも一緒になるのだから、多少は円滑な関係を築けた方が良いかなと思わなくもないし、実際に、多少の興味を引くに十分な子たちだった。

 だから、私としては珍しいほどにスムーズに彼らと打ち解けられていたのは自分としても嬉しい誤算だった。

 それは良い。私は一度懐に入れた相手には寛容なタイプだし、ある意味、アベルの代わりに師匠の代わりをしているのも特に問題はない。

 だけど、見も知らない他人に自分から治療をしているのはどうだ?

 明らかに私らしくない。それこそ異常事態だ。

 本当にどうしたんだろうと一晩中真剣に悩んだけども、結局、答えは出なかったので、とりあえずは答えが出ないのなら考えるだけ無駄だと投げ捨てて、単なる気紛れだろうと結論づける事にした。


 それに、私の事よりアベルの事だ。

 アベルもまた、あの時私と同じように自然と負傷者の治療に動いた。

 ケイに触発されただけかも知れないし、そうではないかも知れない。どちらにしても良い傾向だ。

 他人に全く興味を示さない彼が、見も知らない他人の為に自分から動いたのは大きな一歩だと思う。このままいい方向に変わっていけばいいのだけど、どうなるかはまだ分からない。

 これからもどう変わっていくか見守っていかないといけない。

 まったく、本当に世話のかかる子供だと思う。

 どうして自分と同じタイプの人間の世話なんてしないといけないんだと思うけれども、気が付けば自然としてしまっているのだから仕方がない。

 これも、自分で気が付かない内に変わってしまっていた、異常事態というか変化の一部なんだろう。


「時間です。ミランダさんよろしくお願いします」


 考え事をしている内に時間に成っていた。


「それじゃあ行くよ。みんな集中して」


 声をかけると共に八人を連れて魔域内部に転移する。

 転移と同時に構築していた攻撃魔法を放ち、一気に魔物を殲滅する。

 遠見の魔法と転移魔法の合わせ技による奇襲攻撃。これは極めて効果的で、絶大な効果を発揮するけど過信してはいけない。特に、魔物の中にも同じ合わせ技を使える者がいるのを肝に銘じていないと、シャレに成らない所じゃない被害を出す事になるから気をつけないといけない。

 とりあえず転移直後の危険を排除した所で、集まってくる魔物の相手をしながら保護対象の様子を見る。

 八人ともちゃんともう戦闘に入っている。まず、サブ・ウェポンの拡散粒子砲でザコのA・Bランクの魔物を一掃しつつ、Sクラスの魔物を牽制する。牽制にほんの少し動きが止まった所に、魔竜砲で確実に打ち倒す。無駄のない堅実な戦い方だ。

 機体性能もよく把握していて、効率よく運用している。これなら問題ないだろう。


 彼女たちの乗っている装機竜人のメイン・ウェポンは魔竜砲と近接戦闘用の兵装の二つ。その他にも多数の兵装を搭載しているけど、それらはあくまでサブ・ウェポンに過ぎない。

 元となった魔物のブレスよりもさらに強力な砲撃を放つ魔竜砲とレジェンドクラスの魔物との戦闘用に造り出された魔剣。どちらも圧倒的な性能を誇る強大な兵器と言って良い。

 元々、装機竜人はその二つをメインに戦う兵器ではあるけれども、この機体の場合は威力の桁が違う。

 魔竜砲の威力もそうだし、そもそも、対レジェンドクラス用の兵装というのが常軌を逸している。

 普通の装機竜人が使う近接兵装は、Sクラスの人型の魔物が持っていた魔剣などをベースに錬金術で造り出したものだが、この機体の持っている剣や槍などはそれらとは比較に成らない程の性能だ。

 あの剣の詳細を解明できれば、私が持つ剣もレジェンドクラスに対抗できるレベルの物が造れるかもしれない。

 本当にあの機体は常軌を逸した技術の塊、宝の山だ。


 話が逸れた、サブ・ウェポンによる牽制と魔竜砲の掃射を巧みに繰り返して確実に敵を倒している。

 極めて堅実な戦い方だ。もっとも、何時までもそのままでいさせてくれるほど甘くわないけれども、転移魔法を使える魔物が一気に目前に迫ってくる。

 だけど、状況の変化にも冷静に対応できている。魔竜砲から剣に切り替えて応戦する。強力な魔剣は防御障壁後魔物をは真っ二つに切り裂く。

 うん。改めてスゴイ威力の魔剣だ。

 転移による接近を許した事から、砲撃戦から近接戦に戦況が変わったけれども問題なく戦えている。

 元々、魔法による遠距離戦闘を基本とする生身での戦いと違って、装機竜人での戦いは近接戦闘がメインになる。

 何故かといえば答えは簡単で、魔竜砲での砲撃戦は条件が揃っていないとなかなか出来ないから。

 要するに魔竜砲は強力過ぎる(一撃で直径数十キロに及ぶクレーターを生み出す)上、魔法の様に細かな調整が出来ないので、無闇に使うと周辺に甚大な被害をもたらしてしまうし、フレンドリーファイヤ、所謂同士討ちを招きかねないので、無闇矢鱈と使えない。

 アベルみたいに単騎で広大な戦場を一手に引き受けるのならそんな心配はないんだけど、アレは特殊なだけで普通は出来ない。

 そんな訳で、装機竜人だけでなく、装機竜も装機人も基本は近接戦闘がメインになる。

 機体に乗っての戦闘がメインの竜騎士は当たり前に慣れているけど、彼女たちの様に普段は生身での戦闘をメインにしているとその違いに慣れなくて、結構危なかったりする事もあるのだけど、どうやら問題ないようでなにより。

 まあ、これもアベルの地獄の特訓のたまものだと思う。

 本当に良くついて行けると感心するくらいハードだし、その分的確で、短期間で信じられないペースで強くなっているのだけど、いずれ無理が祟ってしまうんじゃないかと少し心配になる。

 まあ、彼の事だからその辺りの事も計算に入れているんだと思うけど・・・。


 また話が逸れた。

 何時の間にか辺りを埋め尽くすように湧いて来るザコの魔物を殲滅する機体と、Sクラスの魔物との戦いに集中する機体に分かれて確実に戦いを展開している。

 それが正解。

 慣れない内は、有象無象のザコに気を取られてSクラスの魔物に集中できなくてやられてしまう事が活性化中にはよくある。

 だから、二手に分かれてそれぞれザコとSクラスを相手にするのは最も堅実で効率的な戦い方。

 どれだけ強固な機体と強靭な防御障壁に守られていて、生身での戦いよりもはるかに安全だといっても、一瞬の油断が命取りになるのに変わりはない。堅実かつ確実な戦い方を心がけるに越した事はない。

 転移で背後に現れ袈裟懸けの斬撃を繰り出してくる魔物を、逆に一撃で仕留めてみせる。アレはアリアかな? 動きに無駄のない的確な行動だ。そのまますぐに倒した魔物を回収する。

 うん。それも基本通り。

 装機竜人は強力な半面、運用に相応のコストもかかる。

 いうまでもなく最も高いのは消費したエネルギーの、動力の魔石の魔力の回復で、フルチャージには数百から千リーゼ以上は確実にかかる。

 その出費を抑えるためにも、倒した魔物は出来る限り回収するのがベストで、それには近接戦闘がメインなのは有利な働く。

 それでも、魔域の活性化中の戦いの中ではそうそう回収なんて出来るモノじゃないんだけど・・・。

 ついでに、彼女たちの機体の補給は私とアベルが倒して回収した魔物の魔石からやるから、その辺りはあまり気にしなくていいのだけど、基本をしっかり意識するのは大事だろう。

 それに、そうしてこまめに回収していけばそれだけ収入になるし、中には絶品の食座になる魔物もいるから、狙えるなら狙うに越した事はない。


 と、そろそろメリアたちはエネルギー切れかな?

 魔域の外に向かって後退を始めている。

 行きは私の転移魔法で一緒だけど、帰りまでは送り届けられない。

 彼女たちの魔力で装機竜人を動かせるのは精々二時間が限界。余裕をもって、一時間半くらいが経過したら撤退を始めないと、戦場で動けなくなって的になってしまう。

 ユリィとケイの二人は、Sクラスに成って転移魔法を使えるようになったから、ギリギリまで戦って転移で戻ることも出来るのだけど、二人以外はそうはいかない。


 それにしても、撤退の判断も的確に出来ている。彼女たちがこの活性化中に戦うのはこれが最後だけど、最後まで問題なく、キチンと戦えていたのは本当に見事だと思う。

 因みに、どうして最後かは勿論、月のモノが始まるから。

 別に全員そろって始まる訳じゃないけど、始まった子から順に抜けていくよりも、全員一緒に休みに入った方が良いだろうとの判断で、明日から彼女たちはお休みになる。


 正直、今のあの子たちの実力なら、月のモノが始まっても魔域の外での戦いなら問題なくこなせるとも思うけど、万が一の事もあるので念のため。

 他にいくらでも命懸けで戦っている人がいるのに、身内だけ甘やかすのもどうかと思わなくもないけど、あの子たちもこれまでに十分に戦っているし、私たちだってこの戦場に最も貢献しているのだから、多少の我儘くらいに文句を言われる筋合いはない。

 それに、あの子たちに万が一の事があるとアベルの方が危険だと思うし、あまり危険な事はさせない方が良いと思う。


 正直、アベルがあの子たちをどう思っているのかはよく判らない。

 本人自体が、自分の恋愛感情とかを全く把握していないように思えるから、むしろ判る方がおかしいのだけど、彼女たち自身、自分の想いを正確に把握できているのかも微妙な様子と合わせて、なんとも奇妙な関係に成っていると思う。

 ・・・気が付けば、その中に私も入っている気もしないでもないけど、

 こんな感情を抱いたのは一体どれくらい振りだろう?


 気が付けば今の環境を心地よく想っている自分に驚いてしまう。

 少なくてもここ百年はずっと一人でいるのが当たり前だったのに、気が付けば多くの仲間と共にいるのが自然になっている。

 アベルやあの子たちのことを自然に気にしている自分の変化に驚くしかない、或いは、呆れるしかないのかな。


 まあ、今はそんな事はどうでも良い。

 ユリィとケイの二人も後退して見守りも終わったので、一気に魔力と闘気を全開に開放して、ストレス発散も兼ねて全力で魔物の殲滅にかかる。

 うん、やっぱり私も一人の方が楽なハズなんだけどね・・・。



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