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ユリィ視点です。

「甘い。連携するならば確実に相手の隙を付くように動く。それと攻撃から次攻撃へ移る動きに無駄が多い、もっと動きを最適化しろ」

 

 八人がかりで挑む私たちを、当然だけど平然といなしながら、アベルは此方の動きの問題点などを的確に指摘してくる。

 一対八の模擬戦。何度目かになるこの修行の有用性は身に染みて分かっている。

 判ってはいるけど、余りの厳しさ、過酷さに悲鳴をあげそうになる。

 圧倒的強者との戦闘経験はこれ以上ないほどに有効で、何よりもまず心が、精神がこれ以上ない程に鍛え上げられていく。

 私たちでは八人がかりで挑んだところで全く相手ならないのは初めから解っている。判ってはいるけれども、それでも、少しは彼に認められるような一撃を繰り出せないかと、全身全霊をかけて臨んでいるけれども、頂は余りにも遠く、全てを賭けて、限界を超えて臨んでも届く気配すら全くない。

 修行に関しては彼は厳しくて、滅多な事では褒めてくれない。

 本当に別人のように厳しくて、容赦のない課題を出してくるけれども、確かに全てが理論的に計算されていて、全く無駄のない、強くなるために最適なトレーニングだった。

 それは解るのだけど、とにかく厳しくて辛い。彼自身は、これの何倍、何十倍もの過酷な訓練を続けて来たらしく、それであのデタラメな強さをと納得してしまいもするけれども、この程度はこなせて当たり前だと思っているようなのが微妙に不服なのだけど・・・。

 スパルタなのは良いけれども、それならもっと褒めてくれてもいいのにと思ってしまう。 

 思わず零してしまったこの不満は、私だけじゃなくて八人全員が持っている、彼に対する不満の一つだ。もう一つの、最大の不満は言うまでも無く彼の鈍さについて、これについては長期戦でじっくりと攻略していくしかないとみんな諦めているけれども、

 それはともかく、確かに、彼自身まだ十二歳の子供で、弟子を取って育てるのも初めてなのだから、どうしたらいいのか判らなくて試行錯誤の所もあるだろうけれども、もう少し褒めて伸ばすのを覚えた方が良いと思う。それだけが、師としての彼への唯一にして最大の不満。 

 本当に、もう少し褒めてくれてもいいと思う。

 まあ、滅多に褒めてくれないからこそ、たまに褒めてくれた時の嬉しさは凄いのだけども・・・。

 

 と違う、今はそんな事よりも集中しないと、全ての神経を一点に集中して、アベルの動きを捉え、味方の動きを予測して、自分の最適な動きを導き出す。

 そうやって繰り出した最高の一撃も、当然アベルには届かない。容易く躱され、いなされ、相殺されてしまう。逆に無造作に繰り出される攻撃はどれも鋭くて、私たちは辛うじて防ぎ、相殺していく事しか出来ない。それも、私たちが辛うじてどうにか出来るように計算されているからで、そうでなければ、私たちはとうの昔に沈んでいる。

 本当に、私たちに常に限界以上を出し切るのを求める、これ以上ない過酷で厳しい訓練だよ。 

 不意を突いてはなったハズの魔法はいとも容易く相殺されて、逆に本当にギリギリの魔法が飛んでくるのを辛うじて相殺する。

 魔法攻撃は相殺が基本。避けるのは論外だし、どうしようもない場合以外は防御障壁で受けるのも下策。それが彼の教えで、実際、魔法は避けたところで追尾して来るので無駄だし、命を守る防御障壁を削るのは出来る限り避けた方が良いに決まっている。

 相殺できるのなら相殺して、同時に反撃の魔法を返すのが理想。

 理想と解っていても早々できはしないのだけれども、アベルは当然のように求めてくる。だから、厳しすぎるっていうのに・・・。


 だけど、実際に彼の、アベルの弟子になって私たちは驚くほどのスピードで強くなっている。

 このままいけば、私もケイも数か月後にはSクラスになっているかも知れない。最低でも数年、長ければ十数年はかかるハズだったのが、あっと言う間になってしまいそう。

 本当に彼には驚かされてばかりいる。

 気が付けばSクラスの中でも特に有名にミランダさんが当然のように一緒に居るし、そんな彼女を私たちの同じように無自覚の内に魅了してしまっているし。

 十万年前の伝説上の人物たちが使っていた、全く未知の言語を当たり前の様に理解しているし。

 その中でも特に、何よりも驚いたのは彼の専用艦として、私たちも当然使っているあのヒュペリオンの余りにも異常な性能。

 ・・・まさか、アレ一つで世界を征服するのも殲滅してしまうのも自在だなんて思いもしなかった。

 正直、彼は良く私たちに真実を伝えたと思う。伝えてくれたことは嬉しいけれども、よっぽど深く信頼する相手でなければ伝えられないハズなのだから、だから、私たちに教えてくれたのは素直に嬉しかった。

 それにしても、結局、残りの空中戦艦はどうするのだろう?

 ヒュペリオンが余りにも衝撃的過ぎて忘れてしまいそうになるけど、テンペスト級と言われる残り四十一艦も十分過ぎる程に危険な代物だった。

 あんなモノが出回ったら、それだけで大混乱になってしまう。どうしようもない危険物。

 そんなモノが当たり前に運用されていた十万年前の世界は、本当に想像を絶するけれども、そんな危険物が手元にあるのが当然だと感じてしまうアベルも何なのだろうと思う。

 どうしようもないほどの危険物なのに、きっとアベルがその内どうにかしてしまうと根拠も無く信じている自分がいる。そして、多分、確実にその通りになると思う。


 本当にどうかしていると思う。

 こんな想像を絶する人物と一緒に居る事になるなんて、本当に人生は判らない。

 

 私がアベルと一緒に居る事になったのは、そもそもは私たちの興味本位から。

 私とケイはそれぞれエルフとドワーフの王族に生まれ、その責務に縛られた人生を過ごしてきた。

 別にそれを不満には感じない。民を守るための剣であり、盾である事は王家に生まれた者の責務。

 この世界は魔物によって常に滅びの危機に晒され続けている。その危機を打ち破り、存続し続けるためには、誰かが戦い続けて世界を魔物の脅威から守り続けて行かなくてはならない。

 それは絶対に誰かがやらなければいけない事。そして、誰もが、きっと誰かがやってくれると逃げて、戦おうとしなければ、世界は簡単に魔物たちに蹂躙され、私を含む全ての人の命が容易く失われる事になってしまう。

 その程度の事は、誰に言われるまでも無く始めから解っていた。だから、私は私自身を守るためにも強くならなければいけなかった。強くなって魔物と戦わなければいけなかった。王族に生まれた者は義務としてその責務を負う事になるけれども、生きる為に必要な事と割り切って、私は自分に課せられた責務から逃げようとは思わなかった。

 だけど、逃げるつもりも放り出すつもりも無くても、戦いの為だけの、国を守るために魔物を討伐するだけの生き方に堅苦しさを、息苦しさを感じていたのも事実で、それに、国を守るために戦う義務だけならともかく、王族にはそれ以外にも数え切れない程の義務や責務が課せられていて、更に、気が付いた時には望んでもいないのに、派閥なんて厄介な柵までできていたりして、何時の間にか誰かの思惑に乗せられて動かせられてたのする。本当にウンザリする日常に成り下がってしまっていた。だから私は、同じ思いを感じていたケイと一緒にほんの一時の自由を手に入れる事にした。

 国を出て気ままに世界各地を回りながら、見聞を広め、国にいたままでは築けない人脈を得る。

 当然、旅をしながらも魔物の討伐は続けて、実力も茶実に付けていく。

 本当の意味での自由とは程遠くても、今まで雁字搦めの柵の中で生きてきた私たちにとっては、十分過ぎる程に自由な、息抜き出来る状況だった。

 魔物の討伐も、王家に生まれた者の責務としてではなく、旅の費用を稼ぐために、自由に行動していくためにお金を稼ぐために討伐する。初めての、新鮮な体験だった。

 とは言っても、そんな息抜きもそうそう何時までも続けられない。

 そろそろ二人の気ままな旅も終わりかと思っていた矢先に、アベルと言うレジェンドクラス候補のとんでもない人物が現れた。

 突然現れた新星の動向は、どの国にとっても注目の的だったし、またヒューマンがおかしな事を仕出かすのじゃないかという懸念も当然あったから、だからといって排除なんてできないのだから、当然、とりあえず人を送って人となりを調べようとなったのも自然な流れ。

 さて、誰を送ろうかと言う段階になって、私とケイは真っ先に名乗りを上げた。

 モラトリアムの最後を飾る最高のビックイベントに思えたからもあるし、純粋にどんな人物なのか興味があったからでもある。

 国としても、王族の私たちが行くのは、パイプをつくる上でも最適だと判断されて、思いのほか簡単に私たちがいく事に出来たのは幸いだったと思う。

 もしあそこで揉めていたら、遺跡探索やミランダの仲間入りなんてビックイベントを逃していたのだから、さんな事にならなくて本当に良かったと思うけれども、同時にいろいろ大変でもあった。

 どこの国にもバカはいる。

 私たちの国にも、権力闘争に現を抜かして現実を理解しないバカが居たから、ヒューマンだからなんて言うつもりは無いけれども、アレはあまりに酷かったと思う。

 まさか、自分で自分の首を絞めているのにすら気付かないなんて・・・。

 アベルとミランダさんの、どこにでもバカはいるから、取り返しのつかない事を仕出かし前に退場してもらうのが肝心とは至言だと思う。

 それに、確かに疲れもしたけれども、バカのあしらい方や、排除の仕方を勉強できたのは何よりの収穫だった。これで、国に戻っても以前の様に勝手に派閥をつくった奴らに踊らされる心配も無い。逆に適当にあしらって、邪魔なら排除するくらいの事は簡単にできると思う。

 アベルやミランダさんと接して、常識の通用しない、常軌を逸した人物たちとの付き合い方も知る事が出来たし、私たちは短時間で人としても大きく成長できたと思う。

 

 だから、興味本位からだったアベルとの関係を、私たちは今はとても感謝している。

 だけど、その関係もはじめは思いもしなかった方向に変わってきているし、思っていたよりもずっと長い付き合いになるのも決まっている。

 なんでこうなったのだろうとも思わなくもないけれど、不満はないし、後悔もしていない。

 私自身、まさかこうも簡単に魅了されるなんて、心を奪われるなんて夢にも思わなかったけれども、好きになってしまったものは仕方がない。

 メリアたちについては仕方がないというより、当然だと思う。魔域の活性化なんていう非常事態を共に切り抜けたのもあったし、アベルに心を奪われるのもごく自然な流れだと思う。だけど、私たちはどうして彼を何時の間にか好きになってしまったのだろう?

 キッカケになるような事も無かったはずなのに、気が付いたら彼の事が気になっていて、知らない内に心を奪われていた。

 これが、心を操る魔法を使っていたのならば判るけれども、彼はそんなものは使っていない。

 そもそも、精神操作や、他人を思うがままに操る魔法は確かに可能ではあるけれども、使用は絶対に許されない禁呪で、万が一にも使われた時には世界中に知れ渡るように特殊な術式が展開されていて、いくらES+ランクの彼でも、気付かれずに使うのは絶対に不可能。

 だから、これはは私たちが知らない間に彼に魅了されていたという事。

 私はケイも今まで異性に興味を持ったことも無かったのに、恋愛なんてしないまま、義務として決められた相手と結婚するだろうと思っていたのに、何時の間にか、出会って間もないアベルに恋をしていたなんて信じられないけれども、何所か納得してしまっている自分もいる。

 王族という立場からすると色々と不味かったりもするのだけども、何かそれもアベルならどうとでもしそうな気もするし、今はこのままでもいいかと思っている。

 どのみち、私たちがいくら想っても、肝心のアベルが気付いていないし、鈍感にもほどがあると思うけれども、今はこの曖昧な関係を楽しむのも良いかも知れない。


 自分がそんな事を当たり前の様に考えているのが不思議でならないし、本当に信じられないくらいに楽しい。

 王族の使命と義務に縛られた退屈な日々がウソの様な充実した日々に、自然と笑みが零れてくる。

 心の奥底から溢れ出て来る想いを力に変える様に、私は今迄で最高の一撃をアベルに放つ。

 勿論、その程度じゃ彼には届かない。容易く相殺されてしまうけれども、私は満足している。


「よし。それじゃあここまで」


 模擬戦という名の全力戦闘。修行の終わりを告げる声に、緊張の糸が切れた体が制止する間もなく崩れ落ちる。

 体に全く力が入らない。座り込んでいるのすら億劫で、このまま寝転んでしまいたい誘惑にかられる。

 今まで気付きもしなかったけど、全身汗だくで、座り込んだ地面に汗が水たまりの様になっている。 

 汗でべっとりの体が気持ち悪いけれども、顔の汗だけでも拭き取る気力すら残っていない。

 何時もの事だけども本当にキツイ。いつかは慣れる事があるのだろうか?

 Sクラスになっても同じ状況になってる未来が見えるのだけど・・・。


「お疲れ」


 アベルがタオルで顔を拭いて、冷えた飲み物を渡してくれる。

 ありがとうと返そうとしたら、いきなり頭を撫でられた。

 突然どうしたのだろう。子ども扱いしないで欲しいと思うけれども、不思議と悪い気はしない。そんなだから、天然たらしなんて言われるのだと判っているのだろうか?

 まあ、いいけどね。



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