37
「永久機関て・・・、他の艦も大概だったけど、これは本当にどうかしているね・・・」
ヒュペリオンについての一通りの説明を終えると、ミランダは頬を引きつらせてそう評した。
Ωランクの魔石を動力とし、ジエンドクラスの魔物と対抗しへる戦力を持ち、魔素吸収魔力返還による無限動力機関を持つ。間違いなくヒュペリオン一艦で世界を征服も、殲滅も出来る。
今まで隠していたヒュペリオンの本当の性能を説明したのだが、流石にミランダも想定外だったらしく、完全に引き攣っているし、声も震えている。それでも、その程度で済んでいるんだからやっぱり大したものだ。
一緒に話を聞いていたほかの皆は、仲良く腰を抜かして虚ろに視線を彷徨わせている。完全に呆然自失、言葉も出ないようだ。
気持ちは判る。俺だってどうかしてると思うよ。
だけど、見付けてしまったのだから仕方がない。
「俺も同じ気持ちだよ。判ってると思うけど、この事は絶対に秘密だから。洩らしたらどうなるか判ってるよね?」
俺の言葉にミランダも、それまで呆然としていた皆もハッとなって全員で激しく頷いている。
洩らしたら俺を敵に回す事になるし、そうでなくても、ヒュペリオンの持つ余りの危険性は十分過ぎる程理解できただろう。
ジエンドクラスの魔物など、十万年前にカグヤが造られてから一度も現れた事がない、伝説上の魔物等しい、レジェンドクラスの魔物ですら、今までの歴史の中で、魔域の活性化中に数える程度の数が現れたただけだ。
現状、最大の脅威がES+ランクの魔物だと考えれば、この発掘品の数々がどれだけ危険な代物か判るだろう。
まあ俺自身、このままで済むとはカケラも思ってないけれども、なんとなくだが、間違いなく遠からずレジェンドクラスの魔物に遭遇するだろうと確信している。
それも装機竜人が使えない状況で、生身で戦う事になるに決まっている。
それで晴れて俺もレジェンドクラスの仲間入りと・・・。
シナリオが透けて見えるようだ。
まあ、今の俺に本当にレジェンドクラスの実力もあるかも不明だし、そうなるのは少なくても俺がレジェンドクラスの実力を手に入れてからだと思うが、
「それにしても、こんな秘密を明かしてくれるなんて、随分と信用してくれたみたいだね?」
動揺がら脱したミランダが茶化してくる。
彼女にしても、ここまで重要な秘密を平然と明かしてくるのは意外だったのだろう。
「それこそ、今更だよ。貴方は信頼できるだけの実績と誠意を見せてくれたんだ。当然、俺も同じだけを返す。それだけの事だ」
感謝には感謝を、信頼には信頼を返す。
それに足る人物だという事ぐらい。短い付き合いでもハッキリと解る。
「なんだかこそばゆいね。でも、キミに信頼されるのはわるくない気分だよ」
はにかんだような笑みは初めて見るが、思わずドキッとしてしまうほどに無防備で、魅力的だった。
なんだろう。彼女の魅力に魅了されつつある気がする。
ついでに、短い期間だけのはずだった彼女との関係が、随分と長いモノになるのが確定した気もする。別に悪い気はしない、むしろ歓迎している自分がいるのだけど・・・。
我ながらなんだろうね?
「おお、ミランダさんがノックアウトされた」
ユリィが何か変な事を言って、俺とミランダ以外の全員が頷ていてるのがひじょーに気になるのだが、ミランダの顔も若干赤いような気がするのは気のせいか?
「何を言っている。それより、キミたちも信頼して話したのだから、くれぐれも秘密だぞ」
立場上、ユリィとケイは本当は国に伝えなければいけないのだけども、今回は心配ない。
伝えたらどうなるか判らない様な無能では彼女たちはない。
「言われなくても判ってますよ。それにしても、アベルって無自覚たらしなのね」
何か事実に反する非常に不名誉な事を言われた気がする。
誰がたらしか? 生まれてからこれまで、モテた記憶もないわ。
「まあそんな訳で、これ以上、こんな危険物をこれ以上しょい込むつもりは更々ないから、もう二度と遺跡探索はしないつもりだから、その辺りもよろしく」
こちらにも異論はないだろう。ぶっちゃけ、今回の発掘品だけでも明らかに過剰過ぎる。こんなものが二度三度と繰り返されたら、それだけで間違いなく社会が崩れる。
なので、これまでの転生者達の賢明な判断に倣い。俺ももう十万年前の遺産に係わる気はない。
カグヤに行く気は満々なので、それだけは別だけども、既に辿り着く手段を手に入れている。ヒュペリオンでいずれは行けるので、手に入れられたのは幸いだ。
手に入れてなかったら、カグヤに行くのを諦めるか、行く手段が見付かるまで遺跡を周らなければいけなかったのだから、それに関しては本当に幸運だったと思う。
「でも、アベルさんはいずれカグヤに行くんですよね?」
「勿論行くさ。ヒュペリオンならば行く事が出来るのだから、見逃す手はないし、俺は行かないといけない気がするから、いつか必ず行くつもりだよ」
都合よくヒュペリオンを手に入れられたのも、単に運が良かっただけでなく、カグヤに行くように仕組まれているだけの気もするが、だからといっていかないなどという選択肢はない。
「カグヤには比べ物にならない程の危険物がたくさん残っている気がするんですけど・・・」
「それは確かだろうね。でも、何が残っていたとしても、持ち帰らなければ問題ないから」
不安は判ると納得する。地上の遺跡でこれ程の危険物が残されているのだ。当時の魔動ギ技術の粋を集めて造られた結晶であるカグヤに、どんな常軌を逸した危険物が残されているか?
不安に感じない方が無理だろう。
だけど、残された遺産を使うか使わないからこちらの自由だ。
その時、必要とするのならば使えば良いし、必要ないならばやがて必要とする時まで封印したままにしておけばいい。
「十万年前の人々も、別に後の世界を混乱させるためにこれらの遺産を残した訳じゃない。万が一にもカグヤの封印が弱まった時などの為に、絶望的な状況を打破する切り札として、保険として残したんだ。それならば、後は俺たちが本当に必要になった時に使わせてもらえば良いし、必要としなければ封印したままにしておけばいい、いずれ必要とする者の為に、それだけの事だよ」
カグヤによって確かにネーゼリアの危険は取り除からた。だけどそれは、危険から遠ざかった世界の弱体化を招く事は目に見えていた。
現に、今のこの世界の戦力は十万年前とは比べ物にならないほど弱体化している。
それは当然の事だし、世界を守るために必要不可欠な事でもあったけれども、もしもの時、万が一の事態が発生した場合には成す術も無く蹂躙される可能性もあった。
だから、今の社会を、状況を造り上げた彼らは、もしもの時の保険として遺産を残したのだ。
後に続く転生者への、俺達えのオマケの面もあるけれども・・・。
自分たちの経験からも、世界に危機が迫った時、或いは世界が大きく変革する時に転生者が現れるのだから、助けになるように残された遺産が、万が一の時の保険であるのも間違いないハズだ。
「まあ、その世界を守るために残された遺産で大混乱してる訳だけど、それも当時の人たちと俺たちの感覚が違い過ぎるからであって、別に困らせようとしてた訳じゃない」
当時の世界ですら規格外だったチート転生者達の感覚と、弱体化した今の世界の常識が全く合わないのは当然だ。まあ、社会全体が敵の脅威が減った事によって弱体化して、過剰な戦力が余計な混乱しか生まないとか、自分たちが使っている兵器が下手をしなくても世界を亡ぼしかねないとかは判っていたようだけど、当時の社会でごく一般的に使われたいたようなものまで、今の世の中では圧倒的にオーバースペックで、シャレにならないバランスブレイカーになるとまでは予想しなかったのだろう。
というか、本気で十万年前の世界はシャレにならない。
今ですら、前世の二十一世紀半ばの地球をはるかに凌ぐ文明と技術を誇っているのに、それすら比較にならないレベルっていったいどんなだ?
ちょっと想像もつかないんだが・・・。
「ああ、それは納得だわ。多分、私たちと一般人との間の感覚のズレと同じようなモノが、当時と今ではあるんでしょうね」
ミランダのシミジミとした感想に、なるほどと全員が納得する。確かにその通りだと思うけど、それで納得するのもどうなんだと思わなくもない。
まあ、前世の常識的にも、例えば、俺が生きていた二十一世紀と江戸時代では、常識も感覚も全く違う。
時代劇などで放映されるのは、現代人の感覚に合わせてかなり大らかな表現にされたもので、実際の当時の文化や風習などは、現代に生きる身には理解しがたいものが多いし、逆に、当時の人たちから見れば、現代人など外国の人間よりも理解しがたい未知の野蛮人に映るだろう。
ある意味ではそれと同じような事だ。
あまり深く考えずに、理解できないのも当然と諦めるのが一番だろう。
「それにしてもカグヤか、確かに行けるのに行かないなんて手はないわね。今から楽しみだわ」
「行くにしても何時になるかは判らないからな。ヒュペリオンがあるとはいえ、宇宙が危険なのは変わらないんだから、シッカリと態勢を整えて行かないと、自殺しに行くようなものなんだから」
宇宙の様子が全く分からない以上、未知の領域に飛び込む事になるのだ。俺とミランダが要るとはいえ、それで万全とは言い切れない。むしろ、全く話にならない可能性すらあるのだ。
万全に万全を期すに越した事はない。
いや、流石にジエンドクラスの魔物がうようよしているなんてありえないから、ヒュペリオンがあれば楽勝だと思うが、カグヤの探索は最後の楽しみ、クライマックスに取っておくべきだろう。まだまだ地上も参加国しか回っていない、楽しみは幾らでも残っているのだから、それらを存分に楽しんでからでも遅くはない。
まあ、早々に行かなければならないような事態になったなら躊躇わずに行くけれども・・・。
出来ればそんな楽しくない、ロマンの無い事態にはならないでもらいたいものだ。
「まあそうだね。それに、楽しみは取っておかないと、私も二百五十年も生きてるけど、まだまだ楽しい事や知らない事は沢山ある。それらを味わい尽くしてからでも遅くはないからね」
そんな一大イベントをすました後じゃ、せっかくの未知との遭遇や新しい発見もつまらないモノになってしまうかも知れないしとのミランダの意見は正しく正しい。
カグヤに行くのは、ネーゼリアを思う存分楽しんだ、味わい尽くした後でも遅くはないはずだ。
「まあね。それにまだまだ情報不足だよ。今回の遺跡は特に厳しい防犯装置なんかは設置されていなかったけど、カグヤにはどんな仕掛けが設置されているのか判らない。行ったらその場でアウトの可能性もあるかなね。出来ればもう少しカグヤについての情報を調べてからの方が良い」
これについては、ワザワザ未発見の遺跡を周る必要はない。既に発見されている遺跡の重要施設には、転生者にしか動かせないし判らない仕掛けがあるハズだ。多分、その中に様々に情報が残っているだろうから、それらを調べて行けば、自然と多くの情報を得る事が出来る。
「とりあえず今はまず、キミたちの修行だよ。いろいろ説明したけど、重要な情報を手にしたキミたちはそれだけ重要性が増した訳だ。つまり、身に降りかかる危険も増すのだから、それに対抗し、身を守る力を付けなくてはいけない」
俺の説明に全員が「あーーー・・・・」と声を揃えて頬を引き攣らせる。
俺と一緒に居るのは、つまりそう言う事だと諦めてもらうしかないし、俺は別にヒュペリオンとかの性能についての説明を聞くのを強要はしていない。話を聞くのを選んだのは彼女たち自身なのだから、自業自得と諦めてもらうしかない。
そんな訳で、彼女たちのみの安全の為にも強くなってもらおう。




