【5‐4】 デッドエンド・フラグ
この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。
つまり、この物語はフィクションです。
【5‐4】 デッドエンド・フラグ
午後10時35分。
帝都・長崎は騒乱に包まれていた。
「悪い! ちょっと借りるぞ!」
「だ、誰だよ!? お前は」
啓介はようやく気絶から復活した鶴神を降ろすと青色のバイクに跨ろうとしていた青年を押しのけた。
地面に転がった青年は批難の声を挙げる。
しかしそんなものに構っている暇など啓介には無かった。
「大丈夫大丈夫! 後で返すから!」
「はぁ!?」
「鶴神、乗れ。俺にしがみ付けよ。あぁ、大丈夫だって。必ず返すから」
啓介は青年の首を右手で突いて黙らせる。
白目をむいて気絶した青年を心配する鶴神をおいて啓介は青年に告げた。
「まぁ、返ってくる頃には廃車だろうけどな!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
理奈は停電したホテル内部にいた。
「ったく…」
暗闇でよく辺りが把握できないが、理奈は着替えているようだ。
カチャカチャとベルトを外す音や布の擦れる音が聞える。
「ゴミ共の返り血浴びたままじゃ外には出れないし…」
理奈はカッターシャツと学生服のスカートを脱ぎ捨てると別の服を取り出す。
現在、このホテル内には理奈以外に人が居ないので勝手に強奪してきたのだ。
「早くしないと啓介が…」
理奈は着替えを完了させると部屋のベランダから飛び出してホテルの庭へと着地する。
2階から飛び降りた理奈は選択を間違えた時のゲームプレイヤーのような顔をして呟く。
「ハイヒールは間違えたわね…」
理奈は赤色のロングドレスの右裾を掴むと思い切り引きちぎる。
ビリビリと音をたててドレスから価値が失われていく。
「これならまだマシか」
動きやすい、と呟く理奈だったがその格好はどう見ても常人には有り得ない格好だ。
深紅のロングドレスで右足の部分は裂けており、ふとももが扇情的に見える。
理奈としては返り血を浴びても大丈夫という理由で深紅のドレスを選んだのだ。
「とにかくアシを確保しないと」
理奈は腰に巻いた2つのベルトに架けられた日本刀を触ると走り出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ようやく繋がりましたぞ!』
「はぁあ!? テメェ仮にもハッカーだったんだろ!? ジャミング程度で苦戦してんじゃねーぞ!」
啓介はバイクで市街地を爆走しながら右耳の通信機に罵る。
「申し訳ございません」
「いや、アリスが謝る必要は無いから!」
右肩に乗ったアリスが謝罪する。
「っていうかもう1人のコイツは誰!?」
「初めまして、メアリーと申します」
啓介の頭にしがみ付いているアリスと全く同じ服装をした緑髪の人形は挨拶する。
凌はフヒヒと笑うと解説し始める。
『栂村氏は現在、帝都・長崎で逃走中なのですな?』
「あぁ、そうだよ! でも振り切れてないんだよ!」
啓介は後ろを振り向く。
信号無視上等で街を走り抜ける啓介を隊員達は追いかけてくる。
かなり跳ねるホッピングに乗ってるのかと叫びたくなるように車の屋根と屋根をジャンプして啓介たちを隊員は追いかける。
「ホラー映画じゃねぇんだよ!」
『ソイツは暗部で開発された“超技術”の1つですな。特殊なテープを巻いて筋肉増強を図るブツでござる。ただし生体部品というものでしてな、一度つけたら身体に融合してしまって二度と取り外せない“負の超技術”なのでござる』
「解説してないで俺に対処法を教えろ!」
啓介は赤信号を無視してドリフトしながら右折する。
『対処法はないでござる』
「はぁ!? 使いすぎると疲れるとかそういう制限無いのかよ!?」
『ないでござる。強いて言うならば、あの超技術は巻いた部分の筋肉に対するグルコースやらカルシウムイオンやらの量を自在に調整できる技術なのでござる』
「わかりやすく言え!!」
『そのエネルギー源は身体の中のものですぞ? テープからエネルギーが出ているわけではないのです。つまり─』
「他の筋肉部分の力を余計に吸ってるってことか!?」
『そういうことになります。恐らく腕と足に巻いているでしょうからその部分以外なら弱いはず』
しかしそれは弱点でもなんでもない。
啓介はバイクを運転している身であり、戦闘など行えない。
「クッソ…振り切れねぇ!」
『仕方ありませんな。栂村氏、アリスにリボルバーを』
「は?」
啓介が対応するよりも早く、アリスは啓介のホルスターからリボルバーを取り出す。
「え、ちょ…」
『アリスに狙撃させれば問題は無いでしょうな』
「いやいや!」
ピョンピョンと跳ねているあんなバケモノをどうやって狙い打つのだと啓介はツッコミを入れる。
『今から拙者は日本政府のデータベ-スに潜入して神仙組に関するデータを漁ってみるでござる。アリスなら拙者のサポートなしでも大丈夫ですぞ?』
「いやいや!」
啓介が否定した瞬間、銃声が聞えた。
「すごい!」
鶴神が啓介にしがみ付きながら後ろを振り向いて驚いた。
「マジかよ!?」
アリスの狙撃により、隊員1人が減っていた。
「メイドたる者、これくらいは当たり前です」
「初めて聞いたよ! っておいいいいい!」
啓介は目の前に迫るトラックを見て仰天する。
明らかにコチラを跳ね飛ばす気で突進してきている。
「やばい、よけらんねぇ!」
ブレーキをかけても止まれないと判断した啓介は左手で鶴神を抱えるとバイクを踏み台にして飛び上がる。
そのジャンプでトラックを飛び越える。
「うわあああああ!」
トラックとバイクが正面衝突し、爆発を起こす。
爆風と吹き飛んだ瓦礫で啓介は大きく吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がる啓介だったが鶴神を必死に守った。
5メートル程吹き飛ばされた啓介は呻き声を上げながら立ち上がる。
「うぐっ……」
「大丈夫ですか?」
「あぁ…大丈夫。鶴神、大丈夫か?」
啓介は鶴神の肩をゆする。
「ん、栂村さん! 頭から血が…」
「大丈夫だって」
啓介は鶴神を見ると「よしっ」と短く呟き、立ち上がる。
「アリス、鶴神を連れて逃げて欲しい」
「承知しました。しかし、ドコへでしょうか?」
『アリス、稲佐山の方へと逃げてくだされ』
「承知しました」
アリスはお辞儀する。
「ど、どうするんですか…?」
「鶴神、お前は今からアリスっていうこの人形を頼って山の方に走るんだ。いいな?」
「栂村さんは…どうするんですか?」
「俺は…」
啓介は鶴神の両肩を握ったまま頭だけを後ろに振り向かせる。
炎の奥に武装した隊員たちが大量に見える。
「ここで食い止める」
「し、死にます!」
『大丈夫ですぞ。拙者が命懸けでサポートさせていただきますが故』
啓介は立ち上がると日本刀を取り出して抜刀する。
そして鞘を投げ捨てる。
「頼むぞ。…俺とお前はHDDの消去を任せるほどの仲なんだから」
『…承知しているでござる。神仙組のデータベースは解析完了しておりますし、問題ありませんぞ』
「で、でも!」
「大丈夫。ここは俺に任せて先に行ってくれ」
『全く…死亡フラグの名言ではないですか』
「死亡フラグをあえて立てることによって死亡フラグを回避する高等技術だよ」
『そうですか。…では、拙者も言わせていただきましょう。お前だけにイイ格好させれるかよ!と』
凌の声を聞いた啓介はフッと笑う。
そしてメアリーを頭に乗せた啓介は深呼吸すると叫んだ。
「さぁ、お遊戯の時間だぜ!! クソ共が!!」