【5‐3】 アサシン
この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。
つまり、この物語はフィクションです。
【5‐3】 アサシン
理奈は小さく息を吐く。
「善良な市民を寄って集って殺そうとするなんてアンタ達、それでも政府の人間?」
「冗談を。アナタ方は善良な一般市民ではありませんよ。大犯罪者だ」
「私と啓介のこと言ってんじゃないわよ。この子のことよ」
理奈は目線で目の前の憎たらしい男に説明してあげることにした。
「そうですな。…確かにその方は一般市民だ。だからこそ、我々が保護しに来たのです」
「大犯罪者には任せておけませんって? 冗談じゃないわ。アンタ達みたいなロリコン共にこんな少女渡したらどうなるか想像に難くないわ」
いい加減本音を吐きなさいと理奈は最後に付け加える。
月島はふぅとタバコの煙を吐くような感じで息を吐くとニヤリと笑う。
「…我々としては見過ごせないのですよ。ギルドが最上位能力者を回収してしまうことが」
「何か問題でもあるのかしら? ギルドと日本政府は協力関係にある。別に敵対しているわけじゃあるまいし」
「これ以上の政府内でのギルドの権力向上は阻止したいという理由もありますが、我々はもっと別の理由でこの場にいるのですよ」
「……」
理奈は嫌な予感がしたのか舌打ちをする。
「我々は政府に対してクーデターを行うのですよ。その為にも、そこの少女が欲しいのです」
月島の言葉と同時に周囲の隊員たちが一斉に武器を構える。
日本刀から拳銃にサーベル、槍、弓…と非常にバリュエーションが豊かだ。
「本来なら突入時に不意打ちでアナタ方を殺すことも出来たのですが、我々はここで戦力を減らしたくないし、平和的に解決させたい」
「…私達がアンタの気持ち悪い交渉に応じるとでも?」
理奈は知っている。
レベルの高い超能力者の扱い方を。
暗部で行われる非道な人体実験を。
「別にアナタ方が仲間になってくれても構いませんよ? ギルドよりは待遇を良くできますよ?」
「断る」
啓介が言葉で月島に攻撃する。
理奈は意外だったのか目を丸くする。
「ヘッドハンティングしたいならもうちょっと条件を良くしてくれねーとな」
「…残念です」
「悪いけど、アンタ達のプロポーズには応じれないらしいわよ? 我が幼馴染は」
理奈は軽口を叩く。
月島は目を瞑ると両手を広げて説明する。
「ここにいる隊員は30人中25人が超能力者です。更に外で待機している隊員300人中144人も超能力者。…勝ち目があるとでも?」
「暗部に生きているなら知ってるはずでしょ? 最上位能力者1人当たりの戦闘力」
理奈は交渉を蹴り飛ばす。
「残念だ。…ならば、ギルドに対する忠告としてアナタ方には“死”をプレゼント致しましょう」
「No Thank youなプレゼントだなオイ」
「…消えなさい、子供達」
その言葉と同時に火蓋は切って落とされた。
「「うおおおおおおおおお!!」」
隊員が武器を使おうとした瞬間、理奈は高電圧の電撃を四方八方に撃ち込む。
啓介は身を屈めて鶴神を抱き抱えると窓へと向かって走り出す。
「悪いな!」
啓介は持っていたコーラのペットボトルをキャップを外して窓際いる隊員達に向ける。
コーラが勢い良く噴射し、隊員達の顔にかかる。
「ぐあああ!!」
「よっと!」
啓介は身を再び屈める。
すると啓介の後ろから理奈が飛び込んで啓介の前に居た隊員たちの身体を斬りつけた。
「啓介!」
「死ぬんじゃねーぞ!」
啓介はガラスの割れた窓から勢い良く飛び出す。
「逃がすな!!」
月島の声が聞こえた気がするが啓介は重力に従って下へと落ち始める。
「ひぃいいいいいいいい!!」
「きゃああああああああ!!」
啓介は真下にあるプールへと思い切り飛び込む。
プールの水が派手な音を立てて飛び散った。
「(…やべぇ、ケツの骨折れたかも)」
啓介はバタ足で水面へと浮かび上がるとびしょ濡れの鶴神を片手で抱えてプールから上がる。
鶴神の白いワンピースが濡れて扇情的な格好になっていたが、啓介は気にせず鶴神を両手で抱えなおすとホテルの外へと走り出す。
「いたぞー!!」
「ちっ!」
啓介は目の前から走ってくる隊員を見ると鶴神を見る。
「身体丸めてろ」
「へ? きゃあああああああ!!」
啓介は鶴神を思い切り前方の少し上へと放り投げると目の前の隊員たちへと突っ込んでいく。
電撃を左手から放った啓介は隊員たちを黒焦げにして黒焦げ死体の隙間を縫うように走っていく。
「(間に合え!)」
啓介はリボルバーで生き残っている隊員達の眉間を打ち抜くとスライディングするように鶴神の落下地点へと滑り込んで見事にキャッチする。
「あっぶねぇえ!!」
「ひゃぅぅ…」
鶴神は目を回していたが啓介は気にせずに走り続ける。
後ろから銃声や怒号が聞こえるが、啓介は気にせず走り続ける。
「(能力がなくなった今、あの能力者共と渡り合える気がしない! 鶴神がいる状態で戦うなんてむちゃくちゃだ)」
理奈なら可能かもしれないがと思い、啓介はホテルのほうを見上げてみる。
するとほぼ同時にホテルの屋上部分が爆発した。
客の悲鳴があちこちで聞こえており、ホテルマンたちが慌てている。
「って、アイツの心配してる場合じゃねぇ!」
啓介は前から走ってきた隊員のサーベル攻撃をリンボーダンスの様にかわすと右足で隊員の足を蹴り飛ばして地面に転がす。
両手が塞がっているので戦えない啓介は攻撃をかわすしかできないのだ。
「くっそ!」
「危ねぇな!」
啓介はジャンプして別の隊員の槍をかわすと隊員の顔面を踏みつける。
「死ねぇ!」
「!」
啓介は真横から飛来してきた氷の弾を紙一重でかわすと再び外へと向かって走り出す。
「(目的地はナシ! 成功条件は鶴神を守りきる。まさに無理ゲーだなオイ!)」
体力が切れてしまえば啓介の負けだ。
それでも啓介は逃げるしか方法が無いのだ。
宛てもなく逃げるしか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちっ!」
理奈は柱の影に飛び込んでロケットランチャーの砲弾を回避する。
爆発と同時に理奈は爆煙の中へと飛び込んでいく。
「ふっ!」
煙の中でも理奈は相手の動きを電磁レーダーで察知できるので理奈は刀や槍による攻撃を楽々とかわすと居合術ですかさず首を切り落とす。
「(どれだけ湧いてくるのよ!?)」
理奈は廊下を全速力で走り抜け、ホテルの中央部分にある巨大な玄関ホールへとたどり着く。
「!!」
理奈は目の前に突如飛来してきた手榴弾を反射神経で掴むと自身の後ろへと放り投げる。
ほどなくして後ろから爆発音と断末魔が理奈の耳を震わせた。
これで後ろからの追っ手は全員始末完了だ。
螺旋状の緩やかなスロープを使って下から隊員たちがドタドタと走ってくる。
理奈は舌打ちするとベルトに装着している腰の後ろにある道具ポケットから黒い直方体の箱を取り出す。
それをスロープへと投げつける。
「(これで完了)」
理奈が両手で耳を塞ぐと同時に爆発音が箱から放たれ、スロープがガラガラと崩れ落ちていく。
爆発に巻き込まれた隊員たちの身体は四散する。
「よしっ!」
理奈は柵を踏むとそのまま天井部にあるシャンデリアの元へと飛び上がる。
天秤の様に配置された1つの鎖で繋げられている2つのシャンデリアのうちの1つに理奈がぶら下がったことにより、シャンデリアが急速に下へと落下し始める。
「っ!!」
シャンデリアが1階に激突する寸前で理奈は手を離して地面へと転がりこむ。
シャンデリアが派手な音を立てて豪華な装飾を飛び散らせる。
「待てぇ!!」
理奈は起き上がるとふぅと嘆息してホテルの入り口へと歩き出す。
後ろから隊員たちが銃を撃って追いかけてくるが理奈は見向きもしなかった。
「ぎゃあああああああああああ!」
数秒後に隊員達の悲鳴が聞えてきた。
もう1つのシャンデリアが頂上部まで上ってしまった事により、落下してきたのだった。
理奈は真っ暗になった玄関ホールを一度だけチラリと見ると息を整えて呟いた。
「私に勝ちたいなら核兵器でも持ってきなさい」




