表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第2章 私の愛した幼馴染
14/60

【2‐2】  通行禁止

この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。

つまり、この物語はフィクションです。


【2‐2】  通行禁止



 五月五日。

 啓介とアリエルは神戸へと向かう高速バスに乗車していた。

 ちなみにアリエルが数刻前に車内で「よくよく考えると初めてだよね。二人で遠いところにお出かけするの」なんて無邪気な顔で啓介に言ったものだから啓介の顔が真っ赤になったりもしたのだが、啓介の赤面も時間が経ったのでだいぶ収まったようだ。

 アリエルは窓側の席で外の景色を楽しそうに眺めている。

 啓介は通路側の席で背もたれに倒れながらアリエルを眺めていた。


「(まぁ、こんなに楽しんでくれるなら浪費しても構わないかもな)」


 啓介はそんなことをぼんやりと考えながら行き先について持っているだけの記憶を掘り起こそうとする。

 元々、県外から出ることなんて数えるくらいしか経験の無い啓介にとって神戸は未開の地だ。

 歴史や地理の授業で何度か名前を聞いたことがあるくらいである。


「ねぇ、啓介。神戸ってどんな場所?」


 記憶の採掘作業がアリエルの質問で中断され、啓介は意識をアリエルへと戻す。


「何て言ったんだ?聞いてなかった」

「だから、神戸ってどんな場所?」

「(調べてなかったのかよ)」


 啓介のパートナーとなって以来、人間界の常識について色々と熱心に調べていたアリエルだったが、未だに土地に関する情報にまでは十分に手が回っていないらしい。

 勿論、啓介も実際に行ったことなんてないのでネットやテレビで得た情報しか知らないのだが。


「神戸。日本国の兵庫県の県庁所在地として機能する大都市であり、日本全国に十二箇所しかない『帝都』の一つだな」


 地理の授業で教師が言っていたことをそのままアリエルに伝える。


「『帝都』?」

「えーっとな…確か二〇〇七年に新日本政府が始動させた『不死鳥計画』ってヤツで生み出された日本を代表する巨大都市のことをそう言うんだ」

「日本を代表するくらいに大きいの?」

「第三次世界大戦の末期に日本で革命が起こったこともあって終戦後かなりゴタゴタしたらしい。それで新日本政府が東京に集約されていた政治機能や他の機能を全て分散させたんだ。その分散先が十二箇所の帝都」

「ふーん」


 アリエルは熱心に啓介の話に耳を傾ける。


「帝都ってのはそれぞれ何かに特化されているんだ。例えば、今から向かう神戸は『学問・研究』に特化された都市だから別称で『学園都市』って呼ばれていたりする」

「つまり、勉強に特化されているって訳だね?」

「そういうこと。他の帝都も…仙台だと『工業』に特化された『工業都市』だし、福岡だと『経済』に特化された『経済都市』だ。那覇だと『観光』に特化された観光都市、広島だと『軍事』に特化された『軍事都市』ってな」

「ほうほう…。でも神戸に中華料理の町があったよね?」

「そりゃ、学問に特化されているだけであって他の機能もある程度はちゃんと充実しているさ。神戸は帝都になる前から観光地として有名だったらしいし」


 啓介はアリエルの質問に答えていく。


「ふぅーん…。で、気になったんだけどなんで、日本政府はそうやって何かに特化された街を作って他の街をほったらかしにしたの?」

「それはだな…ん?」


 啓介はアリエルより向こう側の窓に目を向ける。

 アリエルもつられて窓へと視線を向ける。


「おぉっ……」

「綺麗だね」


 海だ。

 二人の乗っているバスは淡路島から神戸の間に架かる橋を渡っていた。

 徳島と淡路島を結ぶ橋の時はアリエルがバスに対してはしゃいでいたこと啓介自身も車酔いに耐えていたのでお目にかかる機会を逃したので二人ともその景色に見惚れていた。


「(年に合わないんだろうけど…こういうデカい橋から見る海って初めてだから少し興奮するな)」


 啓介もアリエルも黙って景色を眺めていた。

 他の乗客たちも景色を見ているようだ。


「(なんかこういうの見てると今日、コイツと来て良かったなって思うな)」


 啓介は気が抜けていた。

 仕方が無いだろう。

 アリエルは超絶美少女だし、今日はゴールデンウィークであったし、休日であったし、初めて見た景色であったし──

 あの日のようなことがあったのもあの日だけだ。

 彼の頭からは完全に超能力のことが消え去っていた。

 それはアリエルも同じであり、彼女も完全に油断していた。

 だから──



「ピンポンパンポーン、只今より当車両は行き先を神戸から“地獄”へと変更しまーす♪」



 忍び寄る魔の手に気づくことができなかった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 啓介は何が起こったのか理解できなかった。

 海に見惚れているといきなり自分達の前の座席に座っていた男が立ち上がって…


「よぉ、元気にしてたかな?新人クン」


 赤色の髪に唇につけられたピアス。

 身長は180センチくらいで、年齢は…大学生くらいだろうか。

 服装はパンクな雰囲気を感じさせる。

 そして服装や雰囲気に似合う凶暴そうな顔つきだった。


「(まさか──)」


 啓介は心に溢れていた幸せな感情が急速に冷えていくのを感じた。

 そして、すぐさま目の前の男を排除することを決めた。


「平和ボケしすぎてたなァ…オメェ」


 しかし、啓介は右手で顔面をガッと掴まれるとそのまま後ろに押された。

 アリエルが何かを言おうとした瞬間、男は楽しそうな叫び声を発しながら啓介の頭で窓ガラスを突き破った。

 最後尾座席にいた啓介は後ろの窓ガラスごと男によって外へと押し出される。


「(がッ───!!)」


 啓介はバスから叩き落され、コンクリートの地面に叩きつけられてゴロゴロと転がっていく。


「さァて、楽しいお遊戯の時間だ!」


 男もバスから飛び降りて床に伏せている啓介の前に降り立つ。


「いやいやいや…超能力者二人相手に善戦した新人だって聞いてたから…ちっとは期待したんですけどねェ」


 啓介はフラフラと立ち上がる。

 窓ガラスに叩きつけられた際にガラスで切ったのか左耳と後頭部が切れて出血していた。


「いッてぇ………」


 袖を捲くっていたので両手の腕の部分の皮膚はボロボロに破れており、痛々しかったが啓介はチラリとだけ見ると慌てもせずに放っておく。

 額を右手で押さえながら啓介は男の顔を見る。


「いきなりのこと過ぎて脳の処理が追いつかないってか?」

「うるせぇ…。十分に目の前の現実を直視してるっつーの」


 刺客が現われた、という現実に啓介は最悪な気分へと変わる。

 あの時、あの八坂が再び刺客が現われる的な発言をしていたことを啓介は思い出していた。


「お前、あの時の二人組みの仲間か?」

「まっさかァ!俺とアイツ共は完全に敵対組織!敵討ちする義理なんざねぇーよ!ギャハハ!」


 啓介は去っていったバスのことを思い出す。

 今頃お騒ぎになっているかもしれないが、こんな超非現実な戦いに一般市民を巻き込むわけにはいかないので放っておいてもらいたい。

 むしろ、アリエルのことが心配だった。


「…まぁいいさ。刺客だか何だか知らないけど…俺の幸せになる予定だった休暇を邪魔したってことで地獄送りで許してやる」

「オイオイ…お前、俺が誰だかわかってんの!?小上位能力者(LEVEL5)だぜ!?」

「知るか」


 また新しい単語が出てきたが啓介は気にも留めない。

 恐らく強さのレベルを表しているのだろうが、啓介はどうでもよかった。


「(邪魔するならぶっ飛ばす)」


 啓介は左手の指をワキワキと動かす。


「(残っている超能力はあの時のゴツイ男の風の能力が四回。これをアイツの超能力の解析及びコピーに回して回りにある物を使いながらアイツの能力と残った風の能力で倒すしかない)」


 ほぼ一月ぶりになる超能力の発動なので無事に発動できるか少し心配だったが、啓介は左手で拳を作ると男に向かって走り出す。


「うおおおお!!」

「おッ、やる気か?」


 交通量が多い橋の上での戦闘だ。

 車には十分に気をつける必要がある。

 啓介は男が右手を挙げたのを見て右足を前に押し出して急ブレーキで止まり、その勢いを使って身体を右に回転させて左足を使って炎の能力を発動させる。


「だあぁっ!!」


 啓介の蹴りから生み出された火球は男の身体を目掛けて突進する。


「悪ぃな。俺にそんなものは通じねぇ」


 男は向かってくる火球に向かって右手を振り下ろす。

 すると火球は真ん中でスパッと綺麗に真っ二つになって男の左右を通り過ぎていく。

 そして橋のガードレールを突き破って消滅した。


「…なんか恐ろしいものをみた気がするな」


 啓介はポツリと呟き、後ろから走ってきた車をかわす。

 クラクションを鳴らされたがそんな心配をしている暇は無いと啓介は頭を切り替えた。

 そもそも、あの火球に反応できるなんて人間の動体視力を超えている。

 いや、超能力者なので確かに人間以上の動体視力は有するのだが、あの二人組みでさえ反応できなかった暴風をあっさりと対処してしまうとは。


「……で、オマエはこんなもんで俺を倒せるとでも?舐められたモンだぜ!この不知火紅蓮(しらぬいぐれん)様もよぉ!」

「ソウデスネー」


 適当に返事を相槌を打って啓介は考える。


「(憶測だが“斬る能力”か?あと、指定した物を斬るというよりは…腕自体が剣みたいな物であって…それを使って斬っているだけみたいだな。でも、“かまいたち”のような能力にも見えなくも無いんだよな)」


 啓介は右手で目の前のもをなぎ払うような動作をして炎の能力を発動させる。

 右掌から放たれた火球は周りの風や空気を取り込むように回転しながら大きくカーブして不知火の左側面へと突っ込んでいく。

 しかし、不知火は左腕でガードするように風の弾丸を受ける。

 すると、火球は真っ二つに裂けて消滅した。


「ハッ!同じ手をちょっとばかり変えたからって俺に敵うとでも──」

「思っていますよ」


 啓介は不知火が弾丸を斬った瞬間に炎を使った酸素の燃焼爆発によって凄まじいスピードで不知火の懐へと潜り込んでいた。

「テメェがどんな能力を持ってるのかイマイチわかんねぇけど…どうやら勝てなくはなさそうだな!」


「ぐっ…ぁあ──!!」


 啓介は左ストレートを不知火の腹に打ち込む。

 何かを潰した様な感触がしたが啓介は気にせずに右ストレートを続けて叩き込む。

 啓介は身体を捻らせて左肘を不知火の顎に打ち込んでトドメに右足の踵で不知火の首を狩り飛ばした。

 不知火は橋のガードレールを巻き込んで橋の外へと吹き飛ばされて落ちていった。


「思ってたより、身体が無茶な戦闘に馴染んできたな…」


 啓介は自分の左手を見る。

 最初の時の皮膚が破れた傷の修復が始まっていた。

 ハイスピードカメラで皮膚の再生を見ているような気分だと啓介は気味悪くなって目を背ける。


「(アイツの能力に関しては色々と推測があり過ぎて使用できるかどうか微妙だな)」


 能力も後一回しか使用することが出来ない。

 刺客がどれくらいの頻度で来るのか、刺客がどんな強さを持っているのかは知らないが少しでも手数を増やすためにもアイツの能力を知っておきたいというのが啓介の考えだった。

 啓介は橋の隅に移動して車との事故を防ぐ。


「色々と考えたけど…やっぱり一番有力なのは──」


「“身体が刃になる能力”って知ってるか?」


 聞きたくない声が聞こえた気が、した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ