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イーリスの箱庭  作者: うのざき
プロローグ
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1/7

試作品 01番

1ページあたりが短かったのでまとめました


いつからそこにいたのかはわからない。見渡す限りの白の世界でぽつんと私が立っている。白以外を何も感じずただ私が存在している。

私は立っていると表現したが果たして本当に立っているのだろうか。地に足がついているのだろうか。ただ白がどこまでも続いている。

動くことさえできずにただ私が白い空間に存在している。

ここに存在する私。なんのためにここにいるのか。どこからやってきて、何をしようというのか。

理由があったのだろうか。


何もわからない。わからないけれど、私はこの白い世界にただ存在している。


           *


白い空間。そこに私が存在していると認識してどのくらいたっただろうか。


それは唐突にやってきた。視界の端で動くものが見えたと思った次の瞬間、何かが天からが降り注ぐ。


黒色をしたそれらは細かい粒子のようであり、大きな塊のようでもあった。正体のわからないものが一面の白を塗り潰していくことに恐怖を感じるのに私はぴくりとも動けない。


やがて私の足下にもそれがやってきた時に気がついたのは今まで感じていなかった匂いだった。



私は知っている。これは土の匂いだ。


           *


白い空間を突如降り注いだ土が足下を埋め尽くした。見渡す限り白が続き、無限とも思われた空間にゆるやかな傾斜を作り視界に変化をもたらした。

嗅覚も思い出させた。


感覚が研ぎ澄まされていく。水の音がどこからか聞こえてくる。音は少しずつ近づいてくるのがわかった。

気がつけば目の前に小さな川が現れる。水が流れ真っ白だった空間が動き出した。


川のせせらぎが聞こえ、たっぷりお日さまの光を浴びた土の匂いがする。


私が存在をはじめたあの瞬間とは何もかもが違っていた。


           *


土が降り注ぎ川が流れたことで私は次の変化を待っている。大きく何かが変わるはずだ。目の前をじっと見つめただ待ち続ける。


一切のまばたきすらを許さず待ち続けていると目の前に大きな影が伸びる。影は幾重にも重なり光を遮断していく。

まっすぐ前を見続けていたはずだったのに辺りが樹々に覆われいつの間にか森の中に私は立っていた。

黒一面かと思われていた地面は苔むした岩や小石が転がり、草木が伸び、川のせせらぎが聞こえ、柔らかな光が差し込むあたたかな森へと姿を変えている。


真っ白だった空間を忘れ、私がこの場所へ存在した瞬間を忘れ、ただただ立ち尽くしているしかできなかった。


           *


立ち尽くしているだけの私の目の前で次は色とりどりの花々が咲いていく。色彩豊かに変化していき、小道までが視界の端へと続いていく。

美しい花々が咲き誇り小川には木でてきた小さな橋までかかっていた。


白ひとつだった視界が草木や花々、苔や岩、そして流れる小川で鮮やかに彩られていく。

切り株が現れまるでそこへ腰かけてこの美しい森を眺める幸せを強要するかのようだった。

それでも私の足は動かない。



ただ目の前の変化を受け入れるのに精一杯で立ち尽くすことしかできなかった。


           *


立ち尽くすだけの私の目の前でまたも変化が訪れる。柔らかななオレンジ色の光が漏れる小屋が出現した。

先ほどから私はずっと目の前を見ているのに気がつくと新しいものが存在しているのだ。色とりどりの花には小鳥が蜜を啄ばみにやってきて、実のなる木にはリスが登っていく。


先ほどまでは存在していなかったはずだ。

……先ほど?一体私はいつと比べているんだ?

急に不安が押し寄せてくる。どのくらいここで立ち尽くしているのか、いつからここにいたのか。


わからない。


白の世界が彩られ命が吹き込まれていく。なのに私は何もわからないで立ち尽くす。

小鳥やリスが目の前にいて、そして………


そしてそのまま。よくよく見れば花の蜜を啄ばむ小鳥も木に登るリスも私も同様動かないではないか。

そういえば私は目の前の景色に囚われているが背後はどうだ?頭上は?


わからない。こんなにもわからないではないか。


変化し続けるこの空間で何もわからないまま、一瞬なのか永遠なのかわからないまま、ただ私は立ち尽くし目の前の光景を、変化を見守り続けるしかないのだ。



それでも私は存在している。

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