ウサギのぴょん太がやって来た
ニコニコ保育園の園庭には、今日も元気な声が響いています。
住宅街に囲まれた保育園では近所に気をつかうこともありますが、
まわりにほとんど家のないニコニコ保育園では、そんな心配はいりません。
ゴールデンウィークが終わり、田んぼも田植えでにぎやかになってきたある日、
農家の方が一羽のウサギを寄付してくれました。
子どもたちはあっという間に集まってきて、おじさんを囲みます。
「わー、ウサギだ!」「かわいい!」「目が赤いよ!」「耳ながーい!」「鼻がひくひくしてる!」
園庭はたちまち大騒ぎです。
「この春生まれた赤ちゃんが、ちょうど乳離れしたんだよ」
農家のおじさんがそう言って籠を差し出すと、
中から小さな子ウサギが、つぶらな目でこちらを見上げていました。
園長先生がお礼を言ってウサギを受け取ると、おじさんは軽トラックで帰っていきました。
園長先生が子どもたちに向かって言います。
「今、農家の方がウサギを寄付してくださいました。みんなで交代でお世話しましょうね。
給食で出た野菜の残りを餌にしますが、足りないときはおうちの方にもお願いしようと思います。
お便りに書いておくので、家の野菜くずなどがあったら持ってきてください。」
すると、桃組のコウマくんが手を挙げました。
「先生、名前はどうするの?」
「そうね……みんな、どんな名前がいいと思う?」
「ぴょん太!ウサギはぴょんぴょん跳ねるから!」
「えー、女の子かもしれないよ!ウサ子!」
「ぴょん子がいい!」「ぴょん吉!」「ミミー!」
またまた大騒ぎです。
園長先生は困ったようにほかの先生たちを見まわしました。
すると、桜組のアキナ先生が言いました。
「園長先生、保育園には“ウサギのぴょん太”っていう絵本がありますよね。
あの名前を使って、“ぴょん太”にしてはどうでしょう?」
「アキナ先生から“ぴょん太”の提案がありました。みんな、どうかな?」
子どもたちは少しもめたあと、
「じゃあ、ぴょん太でいいよ!」
と、ようやく意見がまとまりました。
ウサギ小屋の前はしばらくにぎやかでしたが、
ほとんどの子はすぐにほかの遊びへ行ってしまいました。
……ただし、コウマくんだけは違います。
コウマくんは今日も園庭の隅でクローバーを摘んできて、
ぴょん太にそっとあげていました。
そこへ、給食のカリン先生が野菜くずを持ってやってきました。
「先生、どうしてぴょん太はピョンピョン跳ねないの?
アオトくんが“ウサギのくせに跳ばないのはおかしい”って言ったんだ……」
コウマくんは悔しそうにぴょん太を見つめます。
「そうか……ウサギ小屋は狭いからね。外なら跳ねると思うよ」
カリン先生はやさしく答えました。
でも、コウマくんはまだ納得できない顔で、
またクローバーをあげていました。
次の日、事件が起きました
自由時間になると、園庭は大騒ぎになりました。
ぴょん太が園庭をピョンピョン跳ねまわり、
そのあとをコウマくんが全力で追いかけています。
「わー!」「待ってー!」「こっち来た!」
園児たちも次々と走り出し、園庭は大混乱。
ぴょん太は驚いたのか、さらに速く跳ねまわります。
先生たちも駆けつけてきました。
「待てー!」「あっち行った!」「えっ、こっち!?」
ぴょん太を捕まえようとして転ぶ園児、
つられて転ぶ先生まで出てきて、もう大変です。
やっとの思いで、フユミ先生がぴょん太を抱き上げ、
小屋に戻すことができました。
桃組のナツキ先生に連れられて、コウマくんは園長先生の前に立ちました。
「コウマくん、ぴょん太を小屋から出したの?」
園長先生は少し厳しい声で聞きます。
コウマくんは下を向いたまま黙っています。
「コウマくんが出してるの見たよー!」
という園児の声も上がり、またざわざわ。
「コウマくん、返事をしなさい」
園長先生の声はさらに厳しくなります。
それでもコウマくんは黙ったまま。
そのとき、カリン先生が静かに口を開きました。
「ごめんなさい。
私がコウマくんに“外なら跳ねるかもね”なんて言ってしまったんです……ごめんなさい」
園庭は一瞬で静まり返りました。
すると——
「園長先生、ごめんなさい……みんな、ごめんなさい……ぼく……ぼく……」
コウマくんは突然、大声で泣き出しました。
言葉の続きは泣き声になってしまい、聞き取れません。
それを見ていたノドカちゃんも泣き出し、
ほかの園児たちもつられて大泣き。
園庭はまた大騒ぎです。
ナツキ先生は後ろからコウマくんを抱きしめ、
やさしく頭をなでました。
しばらくして泣き止むと、園長先生が言いました。
「コウマくん、みんなに謝れて偉かったね。
でも、もうしちゃだめだよ」
コウマくんは、しゃっくりをしながら小さくうなずきました。
そして次の日
翌日も、コウマくんは飽きずにクローバーを摘んできて、
ぴょん太に何か話しかけています。
そこへノドカちゃんが来ました。
「何をお話してるの?」
「昨日の夜、カレーライス食べたよって言ったんだ!」
コウマくんは元気よく答えます。
どうやら、動物が大好きなコウマくんだけは、
ぴょん太と“お話”ができるみたいです。
きょとんとしているノドカちゃんに向かって、
「わかったよ」と言うように、ぴょん太の鼻がひくひく動きました。




