73:交易防衛都市インヴァクス
13世紀末スコットランドの通貨システムに近いですが、作品内のシステムだと思ってもらえると助かります。
素材:銀
クォーターペンス(1/4ペンス)
ハーフペンス(1/2ペンス)
1ペンス
※ペンスは単体、ペニーは複数形
1シリング=12ペニー
20シリング=1ポンド
深い霧が立ち込める早朝の道中、その存在を誇示するかのように霧の上に建つ城が見える。
地球で言えばちょっとしたマチュピチュや竹田城のようだ。
「そこで止まれ。」
橋を守る衛兵に止められる。別に悪いことをして止められてるわけじゃない。橋を渡る前に通行料、街に入るのに入場料といった具合に料金を徴収されるだけだ。
事前にフォルフリッサさんから教えてもらっていたから落ち着いていられるが、何も知らなければ無駄にキョドっていたかもしれない。
スコットランドで言えばインヴァネスであるこのインヴァクス、歴史を調べても橋の前で料金を徴収されるのか?街の入口で取られるのかなど判らなかった、歴史知識は確かにチートだけど歴史書に載って無いことにはテンパってしまう。
「ん?あんた何処かで…あぁカウトール家のお嬢さんじゃないか、久しぶりですね」
「あはは~そ、そうですね。ちょっと久しぶりですね~」
もうかなり久しぶりだと判ってるんだけどね。理由は分からないけど本人が隠したいのなら詮索はしないけど。
「邪魔だガキ、払うもん払ったらさっさとどきやがれ!」
「うわっ!」
いきなり突き飛ばされた。
「ウォルターの旦那、相手は子供だぞ少しは手加減してやれよ」
衛兵はウォルターと呼んだ恰幅の良いおっさんに声を掛けた。
「ふんっ、子供だから気に食わん。おい小僧、ここから先は大人の仕事場だ、ままごとならハイランドに帰ってからするんだな。」
(いやなおじさん…)
レテウス君の言う通りずいぶんと横柄な態度のおっさんだ。こちらがローデル家の代理の代官だと言ったらどんな顔をするのだろうとも思ったが、相手も何処かの代理だった場合揉め事が大きくなるここは…
「それは失礼いたしました。一応こちらも代理でして商いをせずに帰るわけにはいかないのです。ご容赦を」
子供から出る言葉に聞こえなかったのだろうウォルターという男も衛兵もぎょっとした顔をするが、ウォルターという男は俺の肩をバンバンと叩き
「そうかそうか小さいのにそんな手伝いをしなくちゃならんとは、ハイランドはまともな商いを知らぬと見える。」
いちいち嫌味なやつだ。
「初めてですのでよろしければ商いについてご教示頂ければ幸いなのですが…」
ほうっ!と感嘆したかと思えばニヤリと嫌らしい笑顔を浮かべたウォルターが口を開く
「それで、坊主。お前はその牛を売りに来たのか?」
「牛と、それから鉄と革製品です」
「鉄だと?ハイランドの鉄をか」
ウォルターは鼻で笑った。
「いくらで売るつもりだ?」
「一本三シリングほどで考えています」
一瞬、男はきょとんとした。次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。
「三シリング!おいおい、坊主、冗談はよせ!田舎もんが掘り出した沼鉄を、そんな大金で誰が買うんだ?」
レテウスは淡々と話を聞き反論することはなかった。ただ男がどこまで話すのかを待った。
「いいか坊主!まともな鉄でも、10ポンドで2シリングが相場だ。覚えておけ!お前のような子供が商売をするなら、まずは相場を知ることだな」
男は満足げに胸を張った。
「まあ、ハイランドの田舎じゃ、そんなことを教えてくれる商人もいないのだろうがな」
「なるほど。勉強になりました」
(この人きらい)
まあまあ、でもお陰で相場がわかったし嫌なやつには変わりはないけど上手く喋らせればこうやって情報を引き出せるのさ
(でもいやだ)
レテウス君を心の中でなだめつつ、頭を下げた。
ウォルターの罵りなどまるで無かったかのように振る舞う子供が気に入らないのだろう
ペッ!
唾をレテウスの足先に飛ばすと強引に馬車を引いて行ってしまった。
「あの方は偉い身分なのですか?」
衛兵に聞いてみる。
「ウォルター・リード、身分は大したことはないんだが商人としてコネが有る。面倒くさい奴さ…おっと今のはここだけの話で頼むよ。」
「大丈夫です。口が軽いと商人としてまずいですから」
「助かるよ」
「おーい、終わったぞ。数は六十八頭と馬車が一台で合ってる」
「ということは…ちょっと待ってくれ」
「牛一頭がハーフペニーで34ペニーだから2シリング10ペニーで、荷車が馬込みで3ペニー、人が15人で7ペニーと半だから、合わせて3シリング8ペニーと半ですね」
「…お、おう。合ってる…数えるの早いな」
「これでも代官補佐ですから」
そう言って笑顔を返せば
「そうだった」
衛兵さんも笑顔を返してくれて、さっきまでの嫌なムードも晴れた。
「橋の向こうでも街の入場料を取られると思うが悪く思わんでくれ。どこにでも悪知恵の働くやつは居るもんで泳いで渡る命知らずが居る所為なんだ」
「お金ケチって死にそうですね…」
「冬は稀なんだがな、居ないとは言い切れないのさ」
水温を考えれば自殺行為だ…まあ、そんな行為をするやつにろくな奴は居ないだろうし、実際居るからこういった制度になってるんだろう。仕方がない
橋はいくつもの橋脚が組まれているが木製で怖い…主に牛が六十八頭も居るせいだ、牛追いであるドローヴァーたちも判っているのだろう。牛を密集させず長い列の様な形に変えて進む
橋が相当長く感じるには怖いから…とういうだけではなく実際に長い、この文明レベルでこれだけの距離の橋を掛けるのだ、それだけインヴァクスという都市が要所ということなのだろう。
案外橋の料金と街への入場料が別々というのは橋のメンテナンス料に当てられてるのかもしれない、向こうの世界の日本でいつまで経っても高速料金が取られ続けるみたいに…
「霧が晴れますよ」
木製の橋が怖くて下ばかり向いていた俺にフォルフリッサさんが声を掛けた。
「うわぁ…」
初めてのバーグだから驚いてみせたが内心では
(にいに、木の柵しか見えないよ…)
レテウス君も同じ感想だったみたい、橋の終りが見えてきたが防御用のパリセイドでびっちりと都市全体が囲われている。見えるのは屋根ばかりで中の様子は分からなかったが、家々からは煙突が伸び、あちらこちらから煙が立ち上る。
防御用のパリセイドなのだが、それがかえって中がどうなっているのか好奇心をそそられる。なにせ歴史で学ぶことは出来ても実物は向こうの世界では見ることが出来ない代物だ。歴史好きの血が騒いでしまうのも仕方がない。
橋を渡り切ったがその正面には街の入場門は無く、100m程ずれた所に門があった。これは効率よりも防御を重視したからなのかもしれない。ただの勘だが
橋の入口と同じくチェックと入場料を払い、いよいよインヴァクスの街へと入った。
さっきはパリセイドの所為で味気なく見えたインヴァクスだったが、街の中はまだ朝も早いというのに活気のある喧騒に包まれる
「すごい」
「でしょう!」
フォルフリッサさんはこれが見せたかったのとでも言う感じが顔に出て、ハミッシュやグレンガルト・トゥアからやってきた面々は
「人が牛みたいにいっぱい居ますよ…」
目を丸くしたり、ぽかんと口を開けて驚いていた。
ドローヴァーやケアンたちはやっとひと息つけるといった安堵や前払いの影響で買い物がしたくてうずうずしているようにも見えた、一先ずお疲れ様です。
新参者で信用の無い自分たちは、今回は教会に教えを乞うだけでなく教会が利用している商会にお世話になるつもりで紹介状まで書いて貰ってある。
村には無い色々なものに目移りしてしまいそうだが、俺達は商会を目指すのだった。
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