20:ハイランドの流儀
< 父さん、もうすぐソラスたち着く >
判った、慎重にね。
随分と速いな、もしかして乗せてきたとか…
< もちろん乗せてきたわ、これくらいどうってことないもの。それにわたしあの子たちの仇を絶対に逃がすつもりはないから >
ものの数分後にはソラス達が現れ、サヴィル先生はなにか言いたげだったが話を聞いてくれた。
ヨゾとマザは短剣と弓を持参してきたが出来れば短剣を使う事態になって欲しくない、四歳の自分を棚に上げて言うのはなんだが体格差が歴然、魔法を使えない二人は圧倒的に不利だ。
実質自分とサンヴィル先生クラウ・ソラスの二人と二頭で十人は…
「一度ここから下がって相談しましょう。魔法を使えるのは貴方だけとは限らない。」
その発想が抜け落ちていた。そうだもし向こうにバレていたら一人と一頭、十人相手にクラウは逃げられても俺はクラウから落ちたらもう逃げられない、背筋を冷たいものが走る。
「はい」
場所を変えて作戦を立てる。
盗まれた牛が二頭だったから勝手に五人程度と思い込み、魔法使いも想定していない自分に腹が立つ、事前に調べておいた人数と頭と思われる人物について報告する。
「この数では不利です。レテウス様のお考えを教えてください。」
これは判る。先生は怒っている。一言相談していれば人員をちゃんと構成できて今の状況は起きていなかった。きっと急いだが故に先生もヨゾとマザだけを連れて急ぐしか無かったんだ。
俺は馬鹿だ…怒りに身を任せ魔法が使えることを過信して皆を危険に晒してる…
「すいませんでした…ごめんなさい」
「宜しい、作戦立案は?」
「先生のご意見が聞きたいです。」
「レテウス様の情報が確かであれば我々は圧倒的に不利です。一箇所に固まっていて各個撃破も難しい…」
「はい…」
「そうなると通常まず敵の頭を撃つしか無いでしょうね。」
「通常という事は別のやり方があるのですか?」
「ええ勿論、そのためにはクラウかソラスの力が要ります。お願いできますか?」
「「くぅ」」
< 当然、何すればいい >
< 仇を討ちに来たんだもの >
小さく鳴く二頭
ー
ーー
ーーー
見張りが代わり頭が横になりそこからしばらく待つ、レテウスは頭の魔力の波を見ることに集中する
漏れ出る魔力の起伏が安定した
ソラス今だ!
< 行くわね >
ソラスは牛たちに殺気の籠った魔力を盛大にぶち当てた、恐怖でパニックになった牛たちが突如暴れ出す
ブモォ!ブモォォォォ!
「おい落ち着け!静かにしやが」
不用意に近づいた一人が牛の角で突き上げられ宙を舞う
着地と同時に聞こえちゃいけない音がした
「なんだ奇襲か!」
頭が飛び起きる
ここだ!
「カシラァ!牛が!牛が急に!頭?」
飛び起きたはずの頭が微動だにしない
突如として空に火球が現れ暗闇を照らし隠れていた盗人たちを照らし出し理由がわかった
微動だにしないはずだ…上体を起こしたまま彼の首から矢が生えていたからだ
「ひぃぃ!」
尚も暴れ続ける牛にまた一人、今度は全体重の乗った蹄が深々と突き刺さる
「ぐぅぇ」
恐怖で何も考えられない盗人たちは這々の体で逃げる、方向も判らずただただ暗闇へと突き進む…が何も見えない暗闇で弓に撃たれた
「助けて、どうか命だけは!」
もう戦意など起きるはずもなく命乞いの声が響く、だが声を上げた者からクラウの顎の餌食になりソラスが今度は邪魔にならぬよう牛たちを落ち着かせる為に穏やかな魔力を当てる
仲間たちの声が消え、上空に有った光も消え、不気味なほどの静寂が訪れたそこで自分以外全員死んだのだと理解する
「頼むぅ頼む!お願いします。何でもしますから…」
「ギブが…ギブの両親がそう言ったら、お前たちは見逃したのか?見逃さないよなぁ」
明確に伝わってくる殺意に盗人の脚はガタガタと震え
「へ…」
気づいた時には既に右脚を矢に撃ち抜かれていた
「ギャアアア、痛へ!いてぇよぉ!?」
次は左脚、歩くことも出来ず恐怖から逃げたい一心で這いずる盗人の右手が撃たれ地面に縫い付けられる
「もう止めてくれ」
「だぁかぁらぁー」
左手も縫い付けられもう泣くことしか出来ない盗人、静寂の中ギリギリと弓を絞る音が聞こえ
「レテウス様そこまでです」
「……解った、わかりました」
足音が近づき盗人は初めて自分を貫いた矢の持ち主を知る
「こ、子供…」
見た目も声も子供のはずなのに得体のしれない者にしか感じられない
「お前に出来ることがまだ一つ残ってる」
「!?」
「雇い主…これを命じたのは誰だ?」
「カ、カウトール家です」
「そんな事お前に聞かなくても判る、この方向の先にはカウトール家しかないんだから」
「ひぃ」
「誰だ」
「カウトール家のムーボ様です」
「氏族長ですね」
サンヴィル先生が教えてくれる
「ほう、そうか」
「これでみのが…」
盗人の眉間に矢が刺さる
「見逃すわけ無いだろう」
盗人の耳に最後に残ったのは身も凍る声だった
「レテウス様終わりました。これでギブ…ギルバートも家族も報われる事でしょう、ヨゾ、マザこちらに来なさい」
二人の顔色は血の気が失せて酷い顔だった
「やりましたねレテウス様、ギブ達に…ギブの妹にも胸を張れます」
「張れないよ…」
「え?」
頭と呼ばれた男の衣類を弄る、やはり持っていた
「入りこまれた時点で俺達の負けだったんだ」
「それは…」
「先生、ソラスと一緒に二人を連れて叔父上に報告に行ってもらえますか」
「レテウス様?貴方はどうなされるのですか」
「もう少しやらなきゃいけないことが有ります。朝までには帰りますから」
「それは無理というものです。せめて何をなされるのか言っていただきませんと」
「お願いします。必ず帰りますから」
これ以上は言葉もなく無言の意地の張り合いが続いた
「はぁ~貴方は聡いのに頑固過ぎる、これは欠点です」
「はい」
サンヴィルが折れる、しかし
「ですがお約束は絶対にお守り下さい。貴方が帰らねばデイビッド殿に殺され妻が未亡人になってしまいます。ヨゾとマザもです。努々お忘れなきよう」
「かたじけありません」
三人とソラスが山を下るのを見届け
「クラウ行くよ。全速力でお願い」
< 絶対に間に合うから任せて >
アレを見つけた時点で行って帰ってこれるかクラウとソラスには聞いてある
俺は不自然な体勢で死んでいる頭に近づいた
ーーーーーー
濃い朝靄が立ち込める村の広場には村中の者が集まっていた、その中には知らせを聞いて急遽やってきたデイヴィッドの姿も有った
「帰ってこねば…解っているな」
「はい、生まれてくる子の顔が見れないのは残念ですが致し方有りません」
村人たちは
「どうか精霊のご加護をレテウス坊っちゃんに」
「坊っちゃんは我らのために出向かれたのだ、正義は坊っちゃんに有る!無事に決まっている」
次第にざわめきはじめる村人たちに
「静かに!誰か来る」
誰かが大きな声をあげ
音を聞こうと静まり返る村人たち
朝靄の中から確かに何かが聞こえてくる
「どうか坊っちゃんでありますように」
ポツリと村人が呟いた
白い朝靄に映る小さい黒い影と狼の影に村人たちもデイヴィッドたちも確信する、中にはまだ姿もろくに見えていないのに影だけで涙ぐむ者まで現れた
「みんな、ただいま」
ウォォォォォォ!
「良くぞご無事で」
「レテウス様万歳!」
「おら達が不甲斐ないばかりにレテウス様にばかり…」
言葉を続けたくとも涙で言葉が出ない者や目の下にはっきりと分かるクマをこさえたレテウスを抱き支え様とする者
だがそれを手で制しデイヴィッドの下へと歩きを止めないレテウス
真っ直ぐに叔父の目を見て
「叔父上、申し訳ございませんでした、如何様な処罰でもお受けいたします…」
そう言い切った所でレテウスに限界がやってきた、倒れそうになるレテウスをデイビッドが抱きかかえる
眠りに落ちたレテウスを腕に抱えデイビッドはあらん限りの声で言い放つ
「お主らの願いを叶えた小さき勇者に祝福を!」
「「「「勇者に祝福を」」」」
レテウスは眠りの中であったが、それは確かに村人たちの心を掴んだ瞬間だった
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なお目が覚め体力が戻った頃、レテウスは広場でボコボコの上、二度目の公開処刑に晒されヨゾとマザもボコボコになり三ボコトリオが復活し尊厳破壊に泣いたのは言うまでもない




