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近づく二人
カインは一歩ずつ室内に入り、リリスの前に立ったまま言葉を選ぶように沈黙した。
「リリス……あの森で、異変が起きている」
その告げられた言葉に、リリスの瞳が鋭く光った。
「祭壇の封印が揺らいでいる。根が再び動き始めているのを感じる」
彼女の言葉に、内なる葛藤と覚悟がにじんでいた。
「それだけじゃない。侯爵家の周囲にも不穏な噂が広まっている。俺たちの動きを警戒し、目を光らせている者がいるらしい」
リリスはその言葉を飲み込みながら、ゆっくりと頷いた。
「無闇に動けないことはわかっている。けれど、放っておくわけにはいかない」
カインは視線を落とし、切実な想いを込めて続けた。
「……頼む、ひとりで行くな。あの森の中には、まだ何かが潜んでいる。君を失いたくないんだ。どんな理由があっても、俺は君の傍にいたい」
リリスはふっと微かな笑みを浮かべ、静かに答えた。
「ありがとう。あなたの言葉、無駄にはしない」
その瞬間、扉の外から侍女の足音が近づき、二人に時の流れが迫るように感じさせた。
二人の間に結ばれた覚悟は、静かに邸宅の空気を満たしていった。




