新たな使者
これまた短いです。
老神官は祭壇の前からゆっくりと後退し、杖を土に突いた。深く息を吐き、わずかに首を振る。
「……これ以上は、私の役目ではない」
その声音に、エヴァは真っ直ぐな眼差しで応えた。
「あなたがこの森に何を守り、何を託してきたのか――私たちは、それを背負う覚悟を持たねばなりません」
カインはリリスの横に立ち、剣の柄に手を置く。その瞳は冷静だが、奥底で闘志が火を灯していた。
「まだ終わっちゃいない。本当の真実は、これから俺たちが引きずり出す」
――その瞬間。森を撫でていた風が、ふっと途切れた。葉擦れの音も、鳥の囀りも消える。静寂を裂くように、低く湿った声が奥から響き渡った。
闇を纏う黒衣の影が、木々の間から現れる。半面の仮面が月明かりを受け、白く鈍く光った。
「老神官の役割は終わった。だが、この国の運命はこれから試される」
リリスは無意識に息を詰めた。
「……あの飢えが、再び息を吹き返した。封じられたはずの根が――地の底で蠢いている。お前たちが“選ばれし者”ならば、今こそその証を示せ」
エヴァはリリスの肩に手を置き、穏やかだが力強い声を落とす。
「恐れていては何も始まらないわ。知るべきことは、まだ山ほどあるのだから」
カインは剣を握り締め、影を睨みつけた。
「この森を、国を、守る。たとえ試練がどんなに過酷でも」
影の使者は唇の端をわずかに歪め、深い闇の中へと消えた。その気配だけが、三人の胸に冷たく刻みつけられる。
リリスは二人を見上げ、静かに呟いた。
「……終わりじゃない。これからが、本当の試練」
三人は短く視線を交わす。森の闇が、彼らを試すように口を開けて待っていた。そして、迷いのない足取りで踏み込んでいった――。




