第九十六話 ホークアイ対芦名
「そらよっ！」
マントが再び翻り、その虚空から様々な物が飛び出す。
炎、雷、溶岩。そのどれもがマントから現れるわけがない物だった。
三つのエネルギーは一つとなり、ホークアイの体を焼き焦がそうとする。
しかし、ほくそ笑むホークアイの体をそれらは通り抜け、壁を溶かすだけだった。
「は……！？い、今確かに目の前に……！」
私は、今ホークアイが居た場所を指がそるほどに強く指し、狼狽するばかりに口を開けていた。
「いやはや……やはり評議会にいる方なだけはあります。どんな友人であろうと、あなたは殺すことを厭わないと言うわけですね？」
ホークアイは芦名の目の前に立っていた。服にはシワの一つもつかず、シルクハットも傾居ていなかったことに、余裕が残っているように感じる。
「誰が友人だ……！てめぇみたいなやつを友人にした覚えはねぇ＿＿＿」
「なるほど？でしたら私も久しぶりにあなたと遊ばせていただきましょう」
雷がホークアイの立つ地面に迸ると同時、ホークアイは芦名の横にいた。
腰はかがめ、手はかぎつめのように構えてすでに攻撃の構えへと入っている。
「ちぃっ……！てめぇ！」
銃弾のようなホークアイの殴打が芦名へと向かう瞬間、激しい激突音と光が生じる。
私の視界は光に埋め尽くされ、聴覚はその音に遮られる。
「何も見えない……！」
しばらくして、目の前の景色が明瞭になる。
そこには、まるで一時停止したかのように固まった芦名とホークアイが居た。
その間に、鉄板がいくつもガランガランと音を立てて落ちていく。
「……まあこれは挨拶代わりです。さすがといった所ですかね」
「いけ好かねぇ野郎だ……！」
芦名はとても分厚い盾を持っていた。しかし、一点が激しくへこみ、使い物にはならなくなっていた。
「え……というか、これ……」
下に落ちている鉄板、そしてあの盾、もしかして……
「もしかして……割ったっていうの！？これ全部！？……あ、あり得ない！」
「……サツキさん、私を馬鹿にしているのですか？あなたでしたらこれの五倍はパワーがあるのですけどね……」
五倍……って、そんなわけ……いや、これも記憶の中にあるのか？
私はそんなことが……？
「……自分の身体についてだけは知っているのに、実力は知らないのですね。
今使えるのはこの前使った二つか三つ、ですか？まあ良いでしょう。すぐに全部使えるように再教育＿＿＿」
「よそ見してんじゃねえぞ馬鹿が！」
こちらへ顔を向けているホークアイを芦名はガントレットのような物で殴り飛ばす。
首が百二十度近く回転したホークアイは自分自身の頭を掴むとゴキっと音を立てながら元の位置に戻した。
「不意打ち……ですか」
「なんだ、キレたのか？」
芦名はホークアイを少しおちょくるようにして口元を笑わせる。
「いえいえまさか、構いませんよ、構いません。むしろこれくらいが良い……」
にこやかな笑みを浮かべ続けるホークアイに不気味さを感じたのか、芦名は少し辟易する。
「全く、これだから嫌なんだよ、てめえの『研鑽』は……！
耐久度、攻撃力、果てはマナの貯蔵量まで！少し限界を超えるところまでやって、自分の体を成長させるスキル。……筋トレみてーなやり方、と言っちまえばそれまでだが、そういう訳じゃない……」
確かに芦名のいう通りあの首の曲がり方、切断された腕の再生、今まで何度もその『研鑽』をしたことが見て取れる。
死にかければ死にかけるほど強くなると言うべき、か……。
「そう、その通りです。ですが貴方の『無限』も厄介極まりない……
ですので、利用させて頂きますよ。貴方が思い出させてしまった記憶を」
ホークアイはそういうと、自分のシルクハットを私の方に投げ捨てる。
シルクハット……？
「お前、まさか……！」
「サツキさん！このシルクハット、見覚えはありませんか！？貴方の思い出した記憶の中で！」
シルク……ハット？……あのシルエット、あれは……まさか……
「お前……なのか……！？」
あれから、私のところに女の子が来て、そこから私は……いや、あの女の子は……
「ぐっ……！」
思い出そうとした瞬間、また痛みが走った。頭が割れ、脳に直接響くような痛みにまた私は叫びを上げる。
「サツキっ！てめぇ、これが狙いか……！」
「ふふふ……貴方との戦いを終わらすためには、彼女の思い出そうとする意思を消すことがいいと思いましてね。さあ、味わいなさい。その激しく辛い痛みを……！」
「ああああっ……！グゥァァァッッ！」
