第九十四話 サツキの疑問
あれからしばらく、私はお咎めなしだった。
芦名が何かしてくれたのか、それとも元々私に議長とやらが興味などなかったのか。
ともかく私は特に対応が変わるようなこともなく、今は石で作られた部屋にいた。
暗く、牢屋のような部屋だ。しかし、横を見ると何処から出したのか場違いな安楽椅子に座って揺れている芦名がいた。
1日のうち何回かきて調子を伺ってくる。
実際、私の体に問題はない。しかし……
自分自身でもわからない行動を私はいくつも起こした。
だが私は生まれてこの方一度もそんなことは無かった、今回が初めてだったのだ。
つまり、何か異常な事が起きている。少し……彼らに疑念を持っているのだ。
「芦名、一つ聞きたいんだけどさ」
「あ?なんだ?」
安楽椅子から首だけこちらに向け、芦名は私へ返事をする。
「何か……変な気がするんだ。私はホークアイにあった時の記憶がないし、どうしてこんなことになっているのかもわからない。まるで、知性を持たない動物みたいな……自分が人間じゃない気がするんだ。
……わかる?」
自分でも変に難しく行ってしまった気がする。しかし、芦名はまるで待っていたとばかりに安楽椅子から立ち上がる。
「……やっと、現状に疑問を持ったか。知りたいって思わなきゃ俺だって教えてやれない。
だったら教えてやるよ。お前の仲間、フレイ、サラマンダー、ウンディーネを」
「フレ……イ……?あぐっ!」
唐突に、頭に激痛が走る。頭蓋骨が割れそうな痛みに、私は床に倒れて悶える。
「ううぅぅ……あああ!」
「お、おい!大丈夫か!?……ちっ、あいつら変な細工つけていやがったか……思い出そうとすると頭が痛む。今の段階に入った時の予防線ってわけだ……」
芦名がまた変なことをぶつぶつと呟いている。しかしそれを聞いている暇はなく、私は痛みを耐えるばかりだった。
しばらくして、痛みは止み、私は疲弊しながらも椅子に座った。
「……芦名、これどういうこと?」
「今はまだ、お前が完全に不自然を理解することはできないってことだ。
でも、安心しろ。確実にお前は次の段階に入っている。……そうだな、思い出すのがダメっていうんなら……」
理解できない……か。
私が不思議に思っているのは、今の現状に至るまでだ。何故家にもいず、ここにいるのかも分からない。
それを知りたいのだが……。
「よし、だったら、お前のつけているこれについて説明してやろう」
芦名はそういうと、私のローブについている黒い鷹の意匠が施されてバッジを指で摘んで見せた。




