第八十四話 逃亡
「な……なんで……?」
その言葉を誰よりも早く上げたのは私だった。
まったくもって意味不明な行動。でも、私の身体はそれを勝手にやっていた。
当然、ホークアイや芦名も驚いたような表情を見せる。
「これはまた……サツキさん、一体どうされたのですか?」
ホークアイは切り落とされた自分の腕を持ち、切断面同士を押し付ける。
すると、即座に切断面は結合し、動きを確かめるようにホークアイは手を握ったり開いていたりした。
「こ……これは……そんなつもりは……」
どのような言葉を出せばいいかわからなかった。
勝手に身体が動いた、気づいたらやっていた、そんな事では済まされないだろう。
頭が混乱する。
頭蓋骨の中で何かが渦を巻く、そんな感覚を覚えていた時。
「『侵入者発見、侵入者発見、ただちにエリア内にいる者は対策に向かうように』」
「……侵入者か、ホークアイ、『煌光』と『契心』を向かわせてくれ」
そのアナウンスを聞くと、ホークアイと男は何かを操作してこちらへの注意を無くした。
な、なんでいきなり……私は……どうしたら……?
その時、私の肩を誰かが叩く。
後ろを振り向くとそれは芦名だった。
親指を扉の方向に向け、手と口で逃げろ、と伝える。
「で……でも……!」
「さっさと行ってこい、今ならお前も自分のことを思い出せるかもな」
私が小声で話すと、芦名も小声で話した。
……ここにいてもまた怪しまれるだけだ。一旦芦名の指示を聞いて……
私は静かに後退り、ホークアイ達から徐々に距離を取っていく。
後ろへ、後ろへ……
距離が十分に取れたところで、後ろへ振り向き私は走ってそこを出て行った。
どうしてこんなことに……!?私の身体が私の考えどおりに動かない……
私はホークアイ達の指示を聞いていれば良いのに……
兎に角……何かをして信頼を取り戻さなくちゃ……!
でも……どうやって……?
そんなことを考えながら走り続けていると、唐突に曲がり角から人の姿が現れた。
その髪は赤く、腰にはダガーのようなものを挿している。
「くそっ……見つかっちまった……ってまさかお前……サツキか!?」
なんでこの男は私の名前を……!?
そう言えば、前にもこんな事があった。あの女の子も、私の名前を呼んで……
「良かった!お前がいてくれたんなら百人力だな!さっさとこんなところ出て……っていうか、フレイはどこに行ったんだ?」
こんなところ出て……?もしかして、こいつが侵入者なのか?
「お前を……」
「あ?どうした、サツキ?」
「お前を倒せば……私はもう不安にならないで済む!」