第八十二話 芦名
ホークアイについて行った後、私はここがどこかも知らされず牢のような場所に閉じ込められていた。
とても薄暗い場所で、太陽の光は見えない。石の壁で両脇とと後ろは固められ、鉄格子がはめられている。
まあ……いわゆる一般的な牢屋というわけで。出ること自体は簡単だったが。
『ここで待っていてください。あなたについて色々と話しておかなければいけませんので』
……こう言われてしまったので結構な時間ここで待っている。……もう十数時間は待った気がする。
そんなことを考えながら硬い床に寝転がっていると、何かが軋みながら動く音が聞こえてきた。
「お待たせしましたか?では、行きましょうか」
その音はホークアイが牢の扉を開ける音だった。
「行くって……どこに?」
「ここの案内にですよ。多少は知っておきませんと、迷うことになりますからね」
なるほど、やっとここが何処なのか説明してもらえるようだ。
だったら早くここから出て、暇つぶしにでも___
「馬鹿言うな、その前にテストがあるだろう」
しかし、唐突にホークアイの頭が下に押し付けられる。
頭を下に押し付けていたのは手だったようで、押し付けられたホークアイの真上に男の顔が見えた。
長身ではあるがそれと共に痩身に見える。ボロボロのマントを身につけて首元からは青いスカーフが見え隠れし、風貌は暗殺者のような雰囲気だった。
「おっと……そうでしたそうでした。しかし、テスト、といってもも彼女はもう私たちの仲間です。
あまり手荒な真似はしないでくださいね」
ホークアイのその言葉を聞きながら、男はうんざりした顔をして、マントの中から明らかに保存量を無視した木製の机と椅子二席を出す。
「お前はテストをなんだと思っている。あー……なんだ、お前ここ座れ」
お前……というのは多分私のことだろう。こっちを指差して、その後にあの椅子を指さした……あれに座れ、ということなんだろう。
私は言われるがままその椅子に座ると、机を挟んで私の目の前に男が座った。
またマントから紙とボードを出し、嫌そうに私の方を見る。
「えー……お前の名前はなんだ?」
「……?中西沙月」
私がそれを言うと、男はペンを持ち紙に何か丸を付けるような動作をする。
しかしそこでホークアイが割り込んできた。
「こう言う物は自分も会話をしたほうがしっかりとした結果が出ると思うんですけどねぇ……
こんなただの一方的な質問では……」
「分かったわかった……あー……その……だな、俺は東城芦名っつぅんだ。
最も、今のお前が聞いてもわかるわけ……」
トウジョウ……アシナ……転生者か……?いや待て、転生者ってなんだ?知りもしない単語がいきなり出てきた……。
でも、その名前は知っている。確か……
「……確か、住宅街で二十七人を殺した殺人鬼の名前、白昼堂々と家に入っては殺して、それで死刑判決を下された……」
私の言葉を聞き、その男は目を見開いて驚いた顔をする。
……うん、確かに死刑になったあの男と顔はそっくりだ。というか、あの男なのだろう。
「おや……あなたそんなことをしていたのですか。しかし、たかがそれくらいの数殺しただけで死刑とは、いったいどんな国なのですかね……」
ホークアイは別の部分で驚いているようだが、男は先程とは打って変わって何かを紙に書き込んでいるようだった。
「なるほどな。そういうわけか……ナカニシ……サツキ。お前も随分と大変な目にあっているみたいだ……」
男は笑いもせずに同情するように私へ目を向ける。
「……どういうこと?」
「お前と俺が共通で体験したこと、で、そっから先の記憶が全部抜け落ちてるってこった。
最も、今のお前じゃ理解することも……」
「コミュニケーションは結構ですが、無駄話は別の意味で結構ですよ。
質問を続けたいのなら続けて構いませんが」
男の言葉を遮り、ホークアイは淡々と続けるように促す。
しかし、男は椅子から立ち上がり、マントの中にそれを入れて行った。
「いや、もう十分だ。さっさと行くぞ」
ホークアイはそれを聞くと細い目を少し開かせ、微笑をして私たちよりも先に出て行った。
それを見計らったように、男はこちらに顔を近づけ、私の耳元で聞こえるか聞こえないか程の声で話す。
「俺はお前の事について多少は知っているが、世間の考えるお前は本当のお前じゃないってことも知っている。実を言うと、お前をあいつらの所に戻してやりたいって思ったりもしている。
まあ……仲良くやろうや」
あいつら……?誰のことだろうか。まあ、思ったよりもラフな雰囲気で良かった。
「改めて言わせてもらうが、俺は東城芦名。元王の一人だ。よろしくな、『死神』……もといサツキ」




