第八十一話 説得
「『死神』じゃ……無いです!彼女は……サツキ、サツキという名前が、ちゃんと、あるんです!」
私の言葉に、その場に居た全員が唖然とした顔をする。
何を言っているのか、という意味合いでなのかもしれない。
それでも、私は言葉を続けた。
「サツキは……森で捕まっていた私を助けてくれました!
連れ去られた時も、身体が動かなくなった時も……サツキは仲間想いで、誰かを助けたいと思っているんです!」
「そ、そんなの他人の俺たちに関係な___」
「ここに来た敵の軍勢を倒したのも!それも、全部……!」
その言葉を言おうとした瞬間、私の肩を後ろから誰かが握りしめる。
振り返ると、それはエルゲさんだった。
「フレイさん……彼らは……彼らは……!」
白い手袋がじんわりと汗ばみ、歯を食いしばって悩んでいるその表情は、何か葛藤をしているようだった。
「エルゲ……さん?どうしたんですか?一体何を……」
私の疑問に答えようとしたのか、エルゲさんは口を少し開いたが、言葉は出てこなかった。
ここに来て……そんなに葛藤をする事が……?私たちにも伝えられないような……
……だったら、それを助けるのも仲間というものだ。サツキがしていたように、私も……
「……大切なのは、自分が正しいと思ったことをする事です。自分で正しく無いと感じていることを選んでも、後に残るのは後悔と辛さだけですから」
「……!」
単純な言葉で、綺麗事に聞こえるかもしれない。
でも、これが私の伝えたいことだ。心をそのまま、真っ直ぐに……。
すると、エルゲさんは緊張で大きく開いていた目をゆっくりと閉じ、少し深呼吸をした。
そして、今度は決意したように目を開かせると、私たちよりも前に立ち。
「諸君!よく聴け!私はあの軍勢を追い返したのは我が君、ヘイハチ様と語ったが、実際はちがう!
我が君は彼女達を助けるために散った!」
そのエルゲさんの言葉に、周囲がどよめき立つ。
そうか……サツキはほぼ私たちとしかいなかった。城内が問題なく運営されていたのも、エルゲさんがそこを隠していたからだったのか……。
再び、彼は息を大きく吸い込む。
「考えてみろ!我が君がそこまでして助けたいと思った御仁!
それに、現に私達がここにいられているのもそのお方……サツキ殿あってこそだ!違うか!?」
その言葉を聞き、人々は静まり返った。
誰も何も言えず、ただその場に立ち尽くし、顔を俯かせていた。
「……一応、話は済んだみたいね。エルゲ、悪いんだけど何か通行手段を貸してくれない?」
ウンディーネは階段に歩を進め、頭だけを後ろに向ける。
「でしたら、車庫に一台機動車があります。……最後のお見送りです、お連れしましょうか?」
「車庫というのは……外にあるんですね?」
「え……?はい。そうですね」
以前私達がここに連れてこられた時、ほんの少しだったがアレが倉庫の中に入って行ったのを覚えている。
恐らくそうなのだろう、と思っていたがやはり当たっていたようだ。
「分かりました。では……行きましょう」
私はそう言い、階段をツカツカと降りて行く。
城の人々は未だに私のことを恐れているのか、私の通り道を開けるようにして横に避けて行った。
それに続くようにしてウンディーネ、サラマンダー、エルゲさんと歩いていき、扉がその重い二枚の板を横に避けていく。
開くとともに差し込む太陽は、この旅路を祝福し、サツキの行方を保証してくれる暖かな光か、はたまた私たちの心を焼き、渇きに苦しませる灼熱か。
王は倒され、同盟は崩れ、この国の行末は世紀末と化すのかもしれない。
その時は、私達が立て直してみせる。決して誰もサツキを恨まないように。
「ここを……こうして……はい、準備完了です。七十二時間は動き続けることが出来ますが……」
「問題ないわ。十分足りるスタミナよ。でも……あなた本当に大丈夫なの?私達が言うのも憚るけど、王が消えちゃったのを告げたのは不味かったんじゃない?」
ウンディーネはエルゲさんの用意した機動車を弄りながら話をする。
確かにあれでは国中が混乱に陥るかもしれない。彼に子がいたかは知らないけど、次の王が誰になるか……
「ああ、それでしたら……私が王になりますよ。我が君がくれたこの身体に誓って、この国を守ってみせます……ふふ、こんな強引なやり方、彼女を思い出してしまいます」
エルゲさんの一言に、少しではあったがその場に笑いが漏れた。
「……あ、そう言えばウンディーネ、先ほどは途中で終わってしまいましたが行き先、とはどこですか?」
私の質問に、ウンディーネは待っていたとばかりに顔をほくそ笑ませる。
「それはね……精霊島国と呼ばれていたフェアラウスと同じく島国、豊潤なマナと美しい宝石達が眠る島、火山島国オリゲウスよ!」
*
「あー……暇、だなぁ……」