第七十八話 行先
サツキが出て行って、一晩たった。
エヴァーが討伐され、城の人たちも喜び、国中も湧いているようだったが、私たちの心は沈んでいた。
……何故、サツキは評議会に行ってしまったんだろう?
私が頼りなかったから?それとも私が用済みになったから……?
どちらにせよ、良い話では無い。サツキにとって私はそれくらいの……
「沈んでいる場合じゃ無いわよ、フレイ。水飲む?」
私の頬に冷たい物が押しつけられる。
ヒヤリとした感触に驚きながらも当てられた方向を見ると、そこにはコップを持ったウンディーネがいた。
私は一言礼を言い、渡されたコップに口をつける。
氷も入っていないのによく冷えている……ウンディーネの力?
「少し……不安だったんです。サツキが私達の前から居なくなってしまったのは私がもう要らないということなんじゃ無いかと思って……」
ウンディーネは私の言葉に耳を傾けながら、自分も水を飲む。
「まあ……確かにサツキは消えてしまったけど、少なくともあなたのせいでは無いと思うわ」
「それは……どうして?」
私はウンディーネの意外な言葉に半ば驚きながら、おずおずと聞く。
「サツキの様子、見るからに変だったでしょ?私達の事を覚えていなかったり、ローブが黒色に変わっていたり……ホークアイ、あいつが確実に一枚噛んでいるわ」
言われてみると、確かにサツキはいつもと違っていた。というより、本質は変わっていなかったけど、人間性が消えてしまったような……
「でしたら、早速評議会にいきましょう。サツキに会って、もう一度記憶を……」
「それは駄目よ」
私の提案をウンディーネは途中にも関わらずキッパリと断る。
平然としたまま、またウンディーネはコップを傾けた。
「え……?ど、どうしてですか?評議会にサツキがいる事はあの魔法陣からして確実なのに……」
「フレイ、確かに万全な状態ならそれも良い案だったかもしれないわ。
でも今はサラマンダーもただの刀同然で戦力が少ない。それに、サツキも居ないわ」
っ……ウンディーネの言う通り、サツキが居なくては王同然の力には勝てない。
それに……敵はサツキなんだ。
「例えるなら……そうね。サツキや王の強さは2、私達は1としましょう。
サラマンダーが居ない間、合計して私達は4、相手は2か3、それくらいだったわ。
でもサツキが敵になって仕舞えば二対二、それにホークアイまで来る可能性もあるのよ」
確かに無謀、行ってもすぐにやられてしまう。
だったら……どうすれば……
「でね、ここからは私とサラマンダーからの提案よ。
サツキはいないけど……元々するはずだった旅の続き、少しだけ進めておくの」
旅の続き……確かサラマンダーの状態を治すため……あっ!
「マナティクスを崇拝する島へ!」
「そう!マナティクス様の所まで行って、サラマンダーの肉体を戻してもらうの。
最悪マナティクス様を崇拝してはいるもののなんの力も持たないところに行ったら、この計画はお蔵入りよ。だから、もう行先は決めているわ。それは……」
「それは……?」
その時、唐突に扉が開けれれた。
「フレイさん!ウンディーネさん!大変です!城の家来達が『死神』がいた、と言って暴動を!」