第七十五話 グングニルとホークアイ
「『絶対聖域』」
私の言葉に反応するように、「輪」が回転し出す。
すると、ヨシタツを中心に魔法陣が現れ、檻を形成していった。
もちろんこれも『機械仕掛けの神』の力の一部だ。
「面妖な真似を……!雷撃で撃ち落としてくれるわ___」
でも、これで終わりではない。
私の背後で輝いていた輪が、その姿をいくつもの光に分離させる。
光は全て私の元へ集まり、形を創造した。
それは横幅が人間のおよそ三人分、縦幅がおよそ十人分の……槍だった。
「最大出力、『神滅槍ッ!」
神滅槍は超スピードで地上に閉じ込められた将軍へ直進する。
空気を唸らせながら飛んでいくその槍は、全てを貫かんとする勢いだった。
「オノレェッ……!『雷撃』ぃぃぃっ!」
刀もそれに負けじと、より一層雷を迸らせる。
ヨシタツの振るうその一撃は斬撃の姿のまま雷だけが神滅槍とぶつかり合おうとする。
その時、数刻の間動きが止まった。
しかし、次の瞬間には雷は打ち消され、檻ごと砕き、潰した。
「なんとか……倒せた……」
私の目の前には気絶したエヴァー、そしてカゲンと呼ばれた男が居た。
「あぁ、もう倒せたのですね?もう少し時間のかかるものとたかをくくっていましたが……」
「!?」
振り返ると、そこにはもう何度か見た、そして見たくもないシルクハットの男が居た。
「ホークアイ……!?なんの真似だ!?ここではスキルを使えないのに……」
「スキルは、使えないんですね?『アイス』」
ホークアイが一言呟くと、私の両脇に氷が張り巡らされる。
「なっ……!」
「概念に干渉したようですが……詰めが甘かったですね。
さて……私が何故ここに来たか……理由としましては、あなたと少しお話がしたくなりまして」
話……?なんでいきなり……
気づかないうちに手が凍らされている……動きを見せるのはまずいかも……。
「……言ってみなよ、何を話したいんだ?」
「ああいえ、単なる世間話ですよ。最近、次々と国が壊滅していく謎の現象が起きているんです。
まだ合計しても二、三程度ですが……その壊滅した国の住民や兵士が揃って同じ姿の人間を見たと言うんです。白いローブを着た黒く長い髪の女を見たと。……ふふふ、まあもちろんのことあなたなのですが」
……
「その噂が大陸全土に広まり、今や浅かれ深かれ、誰でも知っている存在……『死神』と呼ばれています」
死神……そんな風に呼ばれていたのか……。
「ふふふ……まあ……当たり前のことです。あなたはその国の実態など知ることもなく、ただ淡々と支配者を殺していったのですから。
なんの地位も持たない人間が支配者を倒せば、その後に残るのは無秩序です。
力の弱いものが虐げられ、強きものが奪う世界……そんな事になっているんです」
無秩序……?私が回収した転生者達が消えた後に残るのはそれだけ……?
……落ち着け、私は何のためにこの世界に来た?回収するとかそう言う事じゃなくて、もっと深いところ……そうだ、世界をあるがままに戻すためだ。
「私は……世界を元の形に……」
「元の形?元の形とは……なんですか?」
なんで……そんな不思議そうな顔をするんだ?当たり前じゃないか……世界には……
「世界には……転生した人間のいないままだった頃に……!」
「転生……というのは分かりませんが、要するにあなたは今の支配階級を根こそぎ無くしたいと?
では……一つ聞きましょう。遥か昔、人間がマナも使っていなかった頃とスキルや魔法を使う文明的な今。
この二つはすごく違いますよね、つまりあなたの論理でいくのなら……遥か昔が元の形というわけですね?」
何を言っているんだ……?それは進化の過程であって全くの別物……
「違う!まるで話を理解していない!」
「理解していないのは貴方ではないですか?確かに支配階級が増え、一部は超常的な進化も遂げました。
ですが……これも歴史の一部です。貴方は今を嫌っているようですね。しかし、全ての人間が今この状態を受け入れているのです。いつか世界もまた安定する時が来ます。
それも待たないで、世界を破壊する。あなたはそう言っているのですよ」
そんなこと……そんなこと……
「そんなこと、あるかぁっ!」
私は炎魔法を両手に発動し、氷から体を解放する。
すかさず殴りかかったが、すぐにかわされ前のめりになったところを下に蹴り落とされた。
「ぐっ……!」
「あなたと私は、色々と対立する部分がありますね。すぐに感情的になって、自分の周囲のことしか知れない……いつまでもそうしていては、気づかないうちに破滅しますよ」
「私は……みんなと戦ってきた……!お前の言葉に惑わされることなんて……」
「んー……しかし、死んでいますよね?あなたの友達は。あなたと一緒にいたせいで、彼女達はこのような運命を辿ったのでは?」
くっ……!確かにそうかもしれない。私がいち早くエブルビュートに向かっていれば皆んなは……
……いや、そもそも……私がいなければ皆は平和だったんじゃないのか?
フレイは森で、サラマンダーとウンディーネもフェアラウスで……
何もやらない方が……良かったんじゃないのか?




