第七十四話 将軍
しかし、その時だった。
目の前にいた機兵が真っ二つになり、地面に落ちる。
地面に転がる騎兵は淡く光り、消滅した。
「機兵が壊された……!?」
「……まあこうなるのは予想していたわ。こんだけの大軍引き連れて来るってことは多分全勢力……つまりいるのよ、将軍が!」
粒子となって消滅した機兵、その先には人がいた。
黒い甲冑を身に纏い、顔を保護する目的と考えられる防具にはカマキリの腕のような飾りがつけられていた。
顔以外は見えなかったが、恐らくは壮年の男。持っている刀はサラマンダーと似た形状だった。
「……拙者は、元はヘイハチ殿にお仕えしていたものにござる。
主君への裏切り、と申すやもしれぬが……これも全てはヘイハチ殿のため……『縮地』ッ!」
次の瞬間、男は私の目の前で剣を構えていた。
剣先が私の方へまっすぐと突き進み、首を切り裂こうとしたその時だった。
「お……お主は……」
「ヨシタツさん……我が君に名を与えて貰ったあなたが、なぜエブルビュートへ……」
私の目の前にエルゲが立ちはだかっていた。刀身を片手で握りしめ、凄まじい威力だったのか手にはめていたショーティーが裂け、機械の腕が露わになった。
「ぐっ……!ヘイハチ殿は……拙者に様々な剣術を教えて下さった……!しかし、鍛錬のみでは拙者の力量は一向に成長しなかったのでござる……!」
「語るな……!主君を裏切った者がッ!」
一喝するエルゲに男は剣を引き抜き、後ろへ後ずさる。
「あの……どう言うことなんですか……?」
唐突な敵の登場に私の頭はこんがらがっていた。
「ああ……すみません。大したことではないですよ。
……フレイさん、先程機兵が倒されたので分かるとは思いますが、あの男に私は敵いません。
手を貸してはくれませんか?」
「それって、つまり……」
今私の中にあるマナは底をつき、現状では『機械仕掛けの神』を使用することは出来ない。つまり、それは。
「はい、機兵を回収する事は出来ますよね?マナを再分離して……自分の武器として」
確かに可能だ。『機械仕掛けの神』で何度でも私のマナは分離もできるし結合もできる。でも、それは……
「今他の敵と戦っている機兵達が居なくなる、つまりこちらへの攻撃も……!」
その時、私の肩に何かが触れる。後ろを振り向くと、静かに微笑むウンディーネがいた。
「任せときなさいよ。確かにあの機械達は凄かったけど……かと言って、私達が役立たないってわけじゃないのよ?」
……私達がサツキを助けていた時も、サツキはこんな気持ちだったのかも知れない。
仲間を信じて、全身全霊を振るう。それこそ……
「それでこそ、仲間ですね。分かりました!一斉解除します!」
私は自分の正面に両手を突き出す。白く光る魔法陣が現れ、機兵達のいる場所まで広がっていく。
魔法陣の中に入ると、機兵達は一瞬で形を失い、光になる。
そうして集まった光が私の背後へ集まり、後光の如く、私の後ろで輝く。
「全身全霊、これが私の全てです!あなたを倒せばこの軍隊は倒したことになる、そう思っていいんですね!」
「話はすみましたかな?その考えで大いに結構!エブルビュート国将軍義竜!いざ尋常に勝負!」
その言葉を叫ぶとともに、先ほどと同じように一瞬でこちらへ距離を詰める。
しかし。
「『自在光剣』!」
その突きが決まる前に、光り輝く剣が攻撃を防いだ。
一本ではなく、何本もの剣で。
「ぐぬっ……!」
「まずはその鎧からです!『無限連撃』!」
私の後ろで輝く光の輪から光が飛び出す。
ヨシタツの頭上で止まったそれは何十本もの剣を射出する。
その数はまさに無限と表現できる量。最早目視で数えられないような数、何千本だったか、何億本だったか。
落ちて突き刺さった剣達は積み上がり、まるで塔のようだった。
しかし、それを避けていたのか、ヨシタツは横でうずくまっていた。
「ぐぬっ……ぬぅ……!なんと言う力……!ならば……!」
起き上がるとともに、鎧が崩れ落ちる。
そして、握りしめる刀には電撃が走り、黄色いオーラを纏っていた。
「『雷撃』ィッ!」
ヨシタツは刀を地面に突き刺すと、その中心からバチバチと音を立てて雷が駆け巡る。
「くっ……!」
避けるため、私は地面から足を離す。しかし、むしろそれに対してヨシタツはニヤニヤと顔を歪めていた。
「雷撃は貴君のためではなく……あの者どもへッ!」
走り抜ける雷撃、そこが盲点だった。
その先にはウンディーネ達がいた。
「皆っ!」
「撃てーッ!」
一瞬の隙を見せてしまった瞬間、私の方へ何重もの弾幕が降り注ぐ。
しまっ……!
「させないわよ!」
目の前に突如ウンディーネが現れ、銃弾をサラマンダーと共に弾き飛ばす。
「ウンディーネ!?」
「任せときなさいって言ったでしょ……?サツキがいない今、あんたが頼りなんだから!
これが終わったら、またみんなで旅すんのよ!」
私はウンディーネの励ます声に少し胸を撫で下ろした。
「ちぃっ……!」
恨めしげにこちらを見るヨシタツに、私は突撃していった。




