第七十三話 獣の如き無生物
機兵達は驚くべき素早さだった。
平野を進行するエブルビュート軍に対し、その何倍もの早さで飛び上がる。
一定の距離になると、関節をしなやかに扱い空中へ身体を移動させた。
それは、狩りをする肉食動物の如く。
人間大のサイズと金属のような重みを併せ持つ機兵のダイブは敵の戦車を瞬く間にひしゃげさせた。
それが数百、まさに鉄球が降り注ぐようなもの。
衝撃波だけで何人もの兵士が倒れ込んだ。
地に降り立つと、機兵達は目を赤く光らせる。腕部から爪を展開し、辺りを一掃する。
一撫で、それだけで目視半径30メートルの兵士を草ごと削り取る。
「これ……見た目は人ですけど……」
「なんか……獣みたいじゃない」
敵を噛み砕き、地を揺らし、敵は悲鳴を上げる。
「な……なんだこいつら……!?」
「焦るな!王が用意してくれた爆弾を用意しろ!」
そのような声が聞こえて来るとともに、こちらへいくつも黒い玉のようなものが飛んでくる。
「っ……!『機械仕掛けの神』!」
私は壁を形成し、攻撃を防ぐ。
爆弾、と呼ばれたそれは激しい爆裂音を発し、私たちよりも前の地面を抉り取った。
「くっ……!」
私はふらつき、そこで倒れかけてしまう。
マナを消費してしまったために、マナ切れが近づいていた。
「フレイ!あんたが倒れたらあいつら全員溶けるのよ!?一番それは避けたいのよ!」
確かに……サラマンダーの言う通りだ。出来るだけ使わないように……と、そう言うわけにも行かなそうだ。
すぐさま次の爆弾が飛んでくる。きっと相手方はいくつも用意しているのだろう。
私がやらないばかりには……!
「そうも言ってられません……!切れるかどうか怪しいですが……!」
爆弾が近づいて来るとともに、私は空中に自分のマナを集中させる。
しかし。
「貴方ばっかり闘う必要もないのよ。サラマンダー、そのなまくら刀身使うわよ」
目の前に出てきたウンディーネが、爆弾を受け止める。
ウンディーネはそれだけではなく、サラマンダーを敵の方へ投げる。
ブーメランのような軌道を描くサラマンダーは首をいくつも切り落としこちらへ戻って来る。
「すごい……!」
「一か八かだったわよ。二度とやらないでよ……!」
サラマンダーはウンディーネへ恨めしげな声をウンディーネへ向けるが、ウンディーネは素知らぬ顔で近くにきた機兵を引き留める。
「ちょっと待ちなさいよ。これ、あっちに投げてくれない?」
「……」
機兵は少し頷くと爆弾をボールのように上空へ投げ、海老反りの姿勢から足で弾き飛ばす。
何倍もの素早さで飛ぶ爆弾は着弾する瞬間を見るよりも前に、衝撃でか兵士達の頭付近で爆破した。
このままいけば勝てる……!