第五十八話 まやかしの病
「いったぁ……って、結構浅い?」
上を見上げると、私やフレイならすぐ戻れるほどの六、七メートルほどの高さだった。
しかし、地面から熱を感じる。靴を介してだが、確かな熱さだ。
「あっつ!ちょっと何よこれ……!この床熱いわよ!これじゃ私……!」
「蒸発して無くなる。そうだろ?」
突如上から声が聞こえる。その声の正体は仮面男だった。
愉快そうに笑い声をあげる仮面男はこちらを顔の見えない顔で見下ろす。
「いつからそこに……!?」
「監視カメラに化けていたんだよ。お前らを捕まえるためにな」
化けた……?どうやってやったっていうんだ……?
何かモヤモヤが残る。どこか辻褄が合わないような、でもそれが何なのかはわからない。
「サツキ……私の身体が減っていって……」
ウンディーネの身体からは白い煙が出ている。僅かに身体の先端が消えていることからもそれを伺えた。
「ちょっ……!ま、待ってよ!今サラマンダーを……!」
私が意識を本体に戻そうとした時、仮面男が唐突に声を出す。
「残念だがその穴は特殊な構造でね、『魂がそこから離れることは無い』のさ!」
なんだと……!?
「さあどうする?お前らのうち、そこのスライムを捨てて逃げることだって出来るんだぜ?
逃げちまった方がいいと思うけどなぁ?」
仮面男は小馬鹿にする様に私達を煽る。死なないためにはウンディーネを捨てることが正解かもしれない。
でも、私にはそんなこと……。
「やってみたらいいじゃないですか」
「……え?」
それはフレイの声だった。心の中に渦巻いていた焦りが少し小さくなったような気がする。
「正体も掴めていない、何が本物なのかもわからない相手なんですよ?
あの男の言うことが偽物か本物か、決めるのはサツキじゃないんですか?」
何を根拠に、と言うにはフレイの言葉はどこか信じられる気がした。
「……確かにその通りだ。自分の信じたいものを信じる。……言われてみれば前から大切にしてきた事じゃないか」
私は夏の風のような爽快感を覚え、気づけば大胆不敵と捉えられるほどに笑っていた。
「な……何を言って……!俺の言葉が真実に決まって___」
「何が本当かは私が決める。だから私の心の中で、再定義しよう。
お前の言うことは嘘だ。私はお前の言葉を信じない!」
その時、視界が唐突に入れ替わる。
そこは病室、サラマンダーがすぐ近くにいた。
「戻ってこれた……や、やったぞ!すぐにでも___」
その時、私の言葉がはたと止まる。
何故私はここに戻ることができた……?トリガーは……さすがに間違えようがない。
私があの男の言葉を否定したからだ。
つまりは奴のスキルの正体は……そうか、そう言うことか……!
「サラマンダー!『時空転移』だ!」
「オッケー!行ってくるわ!」
サラマンダーの言葉に私は手を突き出して返す。
「いや、私もだ」
景色は暗い穴の中、私は『時空転移』でウンディーネとフレイの場所まで戻ってきていた。
しかし、私の足元には小さな私が転がっている。
「よく頑張ったね。後は私が蹴りをつけよう」
私は手で自分自身の分身を救い上げ、『変化』で自分の身体へ戻す
「サ、サツキ……!?病気は一体どうしたんですか……!?」
フレイは小さな体で私を見上げながら驚愕の表情を浮かべる。
「あんなもの、最初から無かったのさ。ウンディーネ!ここにはサラマンダーがいる」
私は手足にあたる場所が消えかけ、ぐったりとしたウンディーネに声をかける。
「サラマンダーは炎、つまり熱だ。だったら、どうしてウンディーネはサラマンダーと一緒に入れるの?」
「た、確かに……熱で溶けるなんて私今まで無かった、というかあり得ないわ!」
それと同時に、ウンディーネの姿が輝き始める。
気付けば、ウンディーネの身体は元に戻っていた。
「そ、そんな……!」
「もう茶番に付き合う気は無いよ。本気の私の力で挑もう」




