第五十七話 穴
私が声を上げると同時に、銃弾の弾幕が降り注ぐ。
私とフレイはお互いに合図を送り、天井へと飛び上がった。
私達を狙い撃つように打たれていた弾丸は私達の小ささのために大きく外れ、ウンディーネへと向かう。
しかし、半液体のウンディーネに銃撃や斬撃は通用しない。
銃弾はウンディーネの淡い蒼色の身体をまるで水を通り抜けたかのように、鈍い音は一つも立てず貫いた。
数多の数放たれていた銃弾は気付けば全てが壁に当たり、私たちにはダメージを一切与えられていなかった。
「なっ……!」
男達が驚愕や畏怖の表情に包まれる中、天井にいたフレイと私はすかさずそれぞれが二人の男の背中に回り込む。
男が後ろを向くよりも先に手に力をため、適切な力加減で首へ手刀を繰り出す。
ちょうど良い力だったらしく、私がうしろに回り込んだ男は首に衝撃を叩き込まれると同時にその場で地に膝をついた。
フレイの方からも倒れる物音が聞こえたので、恐らくは倒せたのだろう。
仲間二人が倒れたことにうろたえながらも、最後の一人の男はこちらに振り返り私へ銃を向けた。
臆しない心意気には感心するけど、後ろには気をつけたほうがいい。
ウンディーネが隙を見計らい、すでに男の影を覆う位置まで来ていた。
男は数センチ首をウンディーネの方に向けたようにも見えたが、その姿を見るよりも前に気絶する。
不意打ちと一瞬で仕留めることこそが隠密において最も重要。
後はバレないような場所に……おっと。
「フレイ、その人どうしちゃったのさ」
私はフレイが倒したと思われる男を指で指してフレイに聞く。
男は背骨があり得ない方向に折れ曲がり、上半身と下半身が逆90度になっていたのだ。
「その……蹴ったらこうなってしまいまして……」
フレイは作り笑いを浮かべて目を逸らした言い訳の表情、を顔に出して頭をかく。
男はまだ意識があったのか、小さな唸り声を上げて悶絶している。
叫ぼうにも背骨の激痛で叫べないのだろう。
その痛々しい姿に、ウンディーネは珍しく同情をするような顔を浮かべる。
まあ私も同じくそんな顔をしているのだろうけど。
「見ているだけで痛いよ……とりあえず」
私はそう言いながら近づく。手には手刀を構え、先ほど食らわせ体力と同じ攻撃を男の首筋に与えた。
予想通り男は気絶してくれたようで、今度は一寸も動くことはなくなった。
……死んで……ないよね?
私は少し不安になり男の手首へ自分の小さな手を押し当てる。
手首からは私が加える圧力に反発するような血管の動きが感じられる。
周期的な動きから、脈はあると言うことが分かったので胸を撫で下ろす気分だった。
「……よし。じゃあこの背骨を……」
海老反りを続けているような男の背骨の曲がっている部分に私は狙いを定める。
今度はさっきの数倍の威力で。しかしこの痛みで目覚められたらそれはそれで面倒だな……。
「ウンディーネ、一旦口押さえといて。鼻はちゃんと開けておくんだよ」
ウンディーネは他人の口を触ることが不快なのか、ぶつくさと呟くが素直に私の指示を聞いて口を押さえてくれた。
「じゃ、行くよ。せーの!」
私は自分に合図を送るように構えた手刀を振り下ろす。
打撃力ではハンマーやトンカチをゆうに超えるその一撃は、背骨の曲がり角にジャストで当たる。
当たった瞬間、私は振り下ろすのをやめ、即座に振り上げた。
これ以上食い込ませると今度は180度曲がりかねないので。
「ぎっ!」
男は小さな呻き声を上げたが、一瞬味わった痛みで再び気絶したようだった。
背骨は折れているには変わらないが、一応見た目の痛々しさは消えた。
「じゃあどっか溝探さないとね……こう言う時に『変化』があると便利なんだけどなあ……」
変化なら壁を幼稚園児が使うような油粘土に変えて成形もできる。
その後に気道でも作っておいて閉じればすごく楽なのだ。
……というか、ここは一体何なんだ?どこか不自然というか……
「そうね……どこにあるかしら……って何あれ……?こっち見てるんだけど……」
ウンディーネは周りを見廻し歩き出そうとしたが、そこで何かが目に留まって動きを止める。
「ん?どうしたの……?ってあれは……」
ウンディーネの見つめる先には四角い形状をしたレンズの見える物。壁に取り付けられていたそれはコンビニでも会社でも見る物だった。
「監視……カメラ……!?」
突如として、監視カメラの上部に取り付けられたガラスのような物が赤く光出す。
「なんかヤバイ気がする!ウンディーネ!フレイ!警戒して!」
その瞬間、床に突如穴が開く。
そのまま私達は穴に落ちていった。




