第五十三話 第二夜
その日の夜。
私達はあの仮面男が来るのを待っていた。
フレイは未だベッドに寝たままだったが、その下でウンディーネが待ち伏せをしている。
時刻は二十三時五十九分、仮面男の姿は見えない。
いつでもスキルを発動できるように構えていた私の手が少し緩む。
……ちょっと考えすぎだったかな?必ずしも来るわけじゃないし、言っていることも若干奇妙な感じだったし……
私はベッドの上にある窓ガラスを覗き込んでいたが、休憩に一旦姿勢を戻すことにした。
時計の長針と短針が十二時の方向を示す。
「一旦休憩にしよう。夜は長いんだ。十分くらいなら___」
その時、鐘の鳴る音が空から聞こえてくる。
置き時計にあるようなごく普通の音だが、辺りによく響く音だった。
私の中に妙な疑問が走る。そしてそれを共有するためにも、私は声に出そうとした。
「……この城、鐘なんてあった?」
その時、突如として私の背後で金属音が鳴り響く。
振り返ると、そこには仮面男が持つ大きな金色の何かの形をした物にサラマンダーが当たって抑えている姿があった。
「あんたほんっとに卑怯ね……!不意打ちだなんて、舐めた真似してくれて……!」
私はサラマンダーが抑えている隙を狙い、後ろから『時空転移』で石柱を弾き出す。
しかし、石柱は金色の物に当たり貫いたかと思うと、そこに仮面男は居なかった。
「なっ……!?どこに消えて……」
「ブラボーブラボー!けけけ……まさか今のを防げるとはなぁ?」
振り向くと、背後には黒いスーツを着て、仮面をつけた男、仮面男が両手を叩いて拍手をするような動作を見せていた。
「動くな!ウンディーネ、お願い!」
私は相手を言葉で制しながら、ウンディーネに指示を出す。
ウンディーネはすぐさまフレイのベッドのしたから飛び出し、仮面男の動きを纏わりついて拘束する。
「フレイ……今ならいける。二人であいつのスーツの中に隠れるんだ」
私は子機の方に意識を回し、カーテンの上にいたフレイに合図をする。
フレイは黙ったまま頷くと、カーテンを踏み台にしてそこから飛び上がる。
私も続け様に飛び上がり、仮面男の懐に飛び込む。
空中で若干の軌道修正を行い、私達はスーツの胸元へと入り込んでいった。
「しかし……どうしたもんかね、もう今日はネタ切れだ。他の所で出しちまったからなぁ……
けけけ、ではまた次の夜の帳まで!ま、見られるのはあと五、六回が良いとこだな。
けけけけ!」
それだけ言い残すと、仮面男は私たちを乗せたままそこから霞のように姿を消した。
「……はぁ、結構危なかったね。ちょっと寝ようかな……二人も休んだら?」
私の言葉を聞くと、二人はベッドの下、棚の上に戻る。
そうしてウンディーネがベッドの下から顔を出した。
「まだ見張りは続けておくわ。いつ来てもおかしくないから」
ウンディーネがそう言うと、サラマンダーも棚の上から刀身を覗かせ呟くように言い始めた。
「サツキ、あんたは寝てなさいよ。私達は寝る必要ないんだから。仮にも病人なんだからね?」
私はそう言われて、ベッドに横になる。
どっと眠気が押し寄せ、私は倒れるように眠るのだった。
翌日。
私は昨日の仮面男の言葉を反芻し、どう言うことかと考えていた。
他の所で出した。それは一体……?
「サツキさん!起きていますか!?」
そんなことを考えていた時、緊迫した様子でエルゲがカーテンを開けて私を訪ねてきた。
「エルゲ……?どうしたの?そんな急いで」
「それが……城内の人々がいきなり倒れまして……」
エルゲは荒い息を吐きながら言った。