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第四十七話 乾杯?

「では……!メルヘリックの王討伐を祝して、かんぱーい!」


 そう言い、私は握ったグラスから軽やかな音を出す。

 口に入れると、芳醇なブドウの香りが口から鼻にかけて広がった。


 今は夜。城に戻った後、ささやかながら景気付けに葡萄酒で乾杯をした。

 本来なら士気を上げるために大大とパーティーを開くべきかもしれないが、あまり食料は無駄にできない。


 というか、まず私達が単独で解決していっているので士気を上げるというなら私達だけで十分なのだ。


「その……すみません、フレイさんは飲んでも大丈夫なのですか?」


 エルゲは少し訝しげに聞いてくる。確かにフレイは身体も小さいので、そういう物が気になるのも仕方が無いが……


「何度も言わせないでください!私は55歳です!飲んで大丈夫ですよ!」


 そう言い、フレイは葡萄酒をあおろうとする。

 しかし、私はそれを手で止めて首を横に振る。


「フレイ、未成年飲酒が駄目なのは身体が未熟だからなんだよ……年齢がどうであれ、フレイは身体が未熟だ」


 そう、こればっかりは歳がどうとかではなく、普通は飲んで良いわけじゃない。


「駄目……なんですか?」


 フレイは物悲しい顔をしてこちらを見つめる。

 それに対して私は顔に笑顔を見せ、フレイの頭をわしわしと撫でる。


「良いに決まっているだろう!酒一杯くらいどうってことないさ!さ、ぐいっと一杯!」


 私は葡萄酒を飲ませるとは思えないノリでグラスをフレイの口に近づける。

 フレイはそれを飲むと、目を輝かせ……るとまでは行かず、少し微妙な顔をする。


「んー……あんまり美味しくないですね……ひっく」


 フレイはグラスを口から離すと赤い顔をしていた。

 

「……もしかして酔った?こんなちょびっとで?」


 私はそう言いながらグラスに入れた葡萄酒を飲み干す。


「よ……よっれまへんよ……こんらちょびっとで……」


 いや酔ってる酔ってる。呂律も回っていないし……


「ま……まらまら……もういっぱ……ぐぅ……」


 寝た。寝ちゃったよ。速すぎるでしょいくらなんでも。

 床に倒れてフレイは昏倒している。ここまで酒に弱いとは思っていなかったが、これはしばらく飲ませない方が良いな……。


「エルゲさん。ちょっとフレイ運んで来ますから。おーい、ウンディーネ。頭の方持ってよ」


 私はフレイの両足を持って、樽いっぱいの葡萄酒をかっくらっていたウンディーネに声をかける。


「んぁ?何よせっかく飲んでるっていうのに……これだけ飲んでからね」


「残り結構あるでしょそれ。後で戻ってくるから早く持ってってば」


 私がそういうと、ウンディーネはぶつくさ言いながらフレイの頭を持った。






「くぅ……くぅ……」


 フレイをベッドまで運び、私達は一息ついて夜の空を眺めていた。

 今日も月は満月だった。夜っていうのはなにかを考えるにはうってつけの時間なので、私も少し考えにふけってしまう。


「サツキ、ちょっと良いかしら?」


 私が満月を朧げに眺めていると、横からウンディーネが話しかけてくる。


「ん?なにさ」


 私が横を向くと、ウンディーネもこちらを向いていた。


「あなた、何か言わなきゃいけない事があの子にあるんじゃないの?」


 ああ、そうだった。フレイに転生してきた事、それを伝えなくちゃいけない。

 私はウンディーネの淡い紫色の眼を見てゆっくりと話す。


「……そうだったね。じゃ、先に二人に話しておこうかな。フレイに話すときに言葉がつまらないようにね。

 えー……その……うん。二人は転生って知っているかな?」


 二人というのはウンディーネとサラマンダーだ。サラマンダーは酒も飲めないので暇そうに鞘の中にいたので、今も私の腰に差さっている。


「転生……?何よそれ。初耳だわ」


 サラマンダーは胡散臭そうに声を漏らす。

 理解されない事は分かっていたので、私は苦笑をして説明をする。


「要するに別世界から送られて来ることだよ。いや厳密には違うかもしれないけど……。

 とにかく、私や王がその転生をしてきた人間、転生者なんだよ」


 ウンディーネはもっと分からなくなったようで眉を吊り上げて唸っている。


「うーん……?ちょっとよくわからないんだけど……」


「要するに違う世界の人間なんでしょ。こいつ私よりも賢そうだけど実際は私の方が理解度あるから」


 サラマンダーは呆れた声を上げて鞘から飛び出す。


「まあ……そんな感じ。でも信じてくれる?」


 難しいだろう。説明するならば理解の範疇外。私達が四次元がなんだとか十一次元がなんだとかそういう物だろう。


「いや普通信じられないわよ……うーん……いや、やっぱり平たく考えることにするわ。あんたは只者じゃない。そういうことで良いわね?」


 サラマンダーは一応自分がわかるように考えてくれたようだ。

 ウンディーネはどうだ……?


 私はウンディーネの方を向く。すると、ウンディーネの顔には影が刺し悩ましげにしていた。


「……ウンディーネ?」


 突如、目の前に鳥のようなシルエットが現れた。それは私へ目掛けて飛翔し、クチバシが向かって来る。


「なっ……!『時空転移』!」


 私は向かってきた物をどこかへ飛ばそうとしたが、そのままシルエットは私へ突撃した。


「がっ……!」


 私は後ろへ飛ばされドアに叩きつけられる。


「ミヤビちゃんもカスミも倒しちまってよぉ……俺お前が許せねえよ……敵討ち、させてもらうぜ」


 鳥のシルエットに見えたそれは、男だった。クチバシの奥から顔を一瞬覗かせ、その身体を引き裂く。

 着ぐるみだったらしく、その中には黒いスーツだけの姿があった。


 ……休む暇もくれないのか。

 夜の帳は降り続け、舞台は深夜の空へと変わっていく。

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