第四十四話 精神攻撃
「何か奇妙には感じなかったかの?いきなり冷たくなった仲間、見破られるはずのない嘘」
ミヤビは続け様に語って行く。
「くふふ……全部妾がバラしってやったのじゃ。お主が何者なのか、どんな事をやる気なのか、とな。
“あいつは世界を滅ぼす気じゃ。別世界から転生してきたあいつは国を全て消す……”。
くふ、くふふふ。もちろん信じてはおらんかった」
そんな……フレイはあの時知っていたっていうのか……!?
冷たかったのは私を疑っていたから……!
「じゃが……必要なのは猜疑心なのじゃ。お主の周りには誠実な人間が多い。
そういう馬鹿にはこれがよく聞くのじゃよ。くふふ」
不気味にミヤビは笑う。
私はミヤビが許せなかった。自分の仲間を馬鹿と呼ばれたことが。
私はマグマから自分の身体を作り上げミヤビに向かい合う。
「ふざけるな!私達の絆を絶って、疑いを作って……!そういう姑息なやり方は反吐が出るんだよ!」
私は身体と服を再構成し、マグマから飛び上がる。
飛び上がった先のサラマンダーを掴み取り、更に天井を蹴ってミヤビへ斬りかかろうとした。
しかし。
「反吐が出るのはこっちじゃよ、偽善者が」
「が……かはっ……」
私の刃はミヤビには届かず、腹部を石の柱に貫かれていた。
腹部には大きな穴が開き私は正に串刺しだったが、肉体を液体に変え地面に落ちる。
身体を作り失った部分を地面の材料で再構成し、私は荒い息を吐きながらミヤビを睨みつける。
「姑息?今そう申したか?……くふふ、何度も言うがの、お主はやっぱり偽善者じゃよ」
ミヤビは玉座を降り私を見下す。近くまでミヤビは来ていたが、隙だらけの体勢は私を完全に舐めきった証拠だった。
「お主に妾が倒されたらどうなる?当前じゃが、この国は終わりを迎えるであろう。
それだけではない、メルヘリックは貿易において機械の生産のラインを担う国なのじゃ」
生産……?そうか!『時空転移』で現代のものをこちらに寄越してこちらの世界の資源で大量に作る……
ヘイハチの国の機兵も元はここで作られていたのかもしれない。
「一国で資源集めから生産までやってのける機械都市とは比べものにはならんが、それでもメルヘリックは東側の国にとって大切な国なのじゃ。……エヴァーはあまり分かってくれんが」
ミヤビはひとり自分自身の国について語った。その目は一瞬物憂げな色をしていたが、再び不気味に笑い出す。
「さて、お主自分たちはもう戻れないと言って仲間を引き止めているようじゃが……実際ちがうじゃろ?
こっちの世界の人間を巻き込んで寂しさを紛らわせているだけ。戻れないのはお主だけじゃよ」
ミヤビは私に向かって不安を煽るように言葉を投げかける。
私はそれに激昂し、再びサラマンダーを抜き斬りかかろうとする。
「ちがう……ちがう!『炎閻獄炎柱!』」
私はマナを流し込み獄炎の火柱を燃え上がらせようとする。
だが、サラマンダーは輝きを途中で失い、技は空振りに終わってしまう。
「な……なんで……」
私は切り掛かった後にそのまま床に倒れ伏してしまう。
体全体に力が入らず、筋肉が弛緩したような感覚になる。
「マナの扱いは精神に非常に影響する。それはお主もよく知っておろう?
そんな歪んだ精神状態でスキルを使えると思っていのかの?」
そう言うと、ミヤビは私の頭を舐るように踏む。
痛みすら鈍く感じるほどにまで私の意識は昏倒していた。
「やっとマナが切れたのぉ……お主はマナが体に十分に戻るまで指一本動かせないのじゃ。
最も、その前に妾が始末するのじゃがな」
そう言うとミヤビは赤く光る魔法陣を自分の顔の両脇に展開する。
魔法陣には中心に円が描かれ、五芒星や六芒星がいくつも重なっていた。
中心から少し覗く石の柱は先端が尖り、私にその矛先を伸ばしていた。
灰色の処刑道具は私を串刺しにするのだろう……。
意識が朦朧としているせいか、やけに心は落ち着いている。
私が死んでしまえばヘイハチの国はきっと負けてしまう。
だが、フレイやウンディーネ、スラ吉は逃げられるだろう。それだけでも私の救いになる。
「ではさらばじゃ。哀れな神々の踊り子よ」
ミヤビの声とともに柱は私の方へと飛び出す。
ああ、これで少しは報えるかな。
その時だった。突如私の目の前に白い壁が煉瓦を割り現れ、柱の動きを妨げる。
白い壁に刻まれた模様、鎧のような兜のような、まるでつぎはがれたようなそれは。
「『機械仕掛けの神』……!?」
間違いは無かった。だが何故?何故ここにいるのか。
疑問が頭の中に巡る中、開いた穴から青い物体が凄まじいスピードでミヤビへ突撃する。
「全く……スライムが行けって言うから来てやったのよ。感謝して欲しいわね」
それはウンディーネだった。ミヤビへ一撃を加えるとこちらへ跳ね返ってくる。
間髪を入れず、新たな物体が飛んでくる。
「ぐっ……!まさかお主が来るとはの。なかなかの腕前じゃ……」
ミヤビと鍔迫り合いをするその姿、見間違えることは無かった。
「フレイ……!?なんで!君は……!」
私の声に返答する暇が無いほどフレイは押されていた。
ミヤビは転移させた大ナタのような物で押し切ろうとしていた。
「じゃが……やはりあのサツキを疑っているのであろう?くふふ……本当に可愛くて愚かなエルフじゃの……。正直に言ってみるといい」
「くっ……!」
フレイはマナで形作られたダガーを折られてしまい、私の方へと吹き飛ばされた。
フレイ達でも敵わないのか……!?
「くふふ……心の弱い者は負けるのがこの世界の道理。それがただの戦いであろうと」
またしても、私は絶体絶命に陥ってしまった。
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