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リリアナはお休み中
先程起こった騒動の説明をさせるため、サブリアとスリミナを呼び出した。
王太子殿下の執務室には殿下を前に緊張した二人の侍女と、近衛のライトニングと私の五人のみ。お休みになられているリリアナ様にはお部屋の前に護衛を二人ほど付けている。
「デレク、リリアナの護衛は二人で問題ないのか?」
「はい、お部屋の前には勿論ですか、お部屋に渡る廊下にも配備しております」
殿下の視線が目の前で直立不動になっている二人の侍女に動いた。
「それで・・・」
殿下は先程起こった中庭での出来事を聞きはじめた。
二人のご令嬢が中庭で喧嘩を始め、精霊たちが怒り、リリアナ様が止めに入った!なんて事だ。殿下をチラリと覗き見ると、今まで見たことがない様な表情をしていた。
これは、非常にまずい。精霊達の怒りも合わさり、我が国の侯爵家と伯爵家が消滅させられるような事が……
「ほう、それで精霊達をリリアナが取り成して事を終えたのだな。」
「「は、はい」」
「それでは精霊達も納得していないだろうね、勿論、私もだけどね」
「「「「……」」」」
サブリア、スリミナにライトニング、そして、私も声を出せずに黙って立ち尽くしていた。
「リリアナには、この話はしたの?」
「はい、先程お話しいたしました」
「それで、リリアナの様子は?」
殿下の威圧にサブリアの顔色はさらに悪くなっていった。
「はい、リリアナ様はこの国の愛し子様の事を気にされておりました。それから……王太子殿下のご婚約者様の事を……」
ピクリと殿下の眉が上がった
「婚約者?おかしな事を言うね、生まれて一度たりとも婚約者を持った事などないのだが、リリアナが私の初めての婚約者のはずだが」
サブリアは殿下の視線で殺されそうです。
「い、い、いえ、婚約、者、こ候補のこと、で、ございます、し失礼いたしました」
「デレク、私に婚約者候補などいたのか?会ったこともない」
「はい、殿下が幼き頃より定期的に参加しておりました、王宮で開かれていたお茶会に参加されていた令嬢達が、候補者でございました」
「あーあれか。だが、その中の誰一人として婚約者にした覚えもないが、何故リリアナの口から私の婚約者などと、話が出るのだ?」
「中庭での事です。セリーナ侯爵令嬢がリリアナ様を姉の婚約者を奪った悪女と申しました。その事を気にされておりました」
ガタンと椅子を倒して殿下は怒りを顕にして立ち上がった。
「な、ん、だ、と、リリアナを悪女と」
殿下の纏う空気が変わった、サブリアとスリミナは恐怖のあまり震え出し、やっとのこと声を出して発言しているようだ。しかも内容は殿下の怒りを増長させる爆弾だった。
「平民の愛し子が王太子殿下を騙した、と」
「平民の侯爵家に対しての無礼な行いを許さない、とも」
二人は次々に投下していった。あの場で直接リリアナ様に対しての暴言を聞いていた二人は許せなかったのだろう。
「セレフォス侯爵家とコルネル伯爵家を呼び出せ。陛下の元に行く」
扉を乱暴に開き出ていく殿下の後を慌てて追った。その際に近衛に陛下の謁見を取り付けに走らせた。
「殿下!お待ちください。ウェズリさまー」
開け放たれた扉の中では、サブリアとスリミナが抱き合い震えていた。
「「怖かったー」」
ライトニングは残された二人の肩に手を置き労った。
「無事に済んで良かったな」
そう残しウェズリ殿下とデレクを追って部屋から出て行った。
怒りのまま、陛下を訪れるのかと思えば、殿下の向かった先はリリアナ様の部屋でした。
扉をノックするも中からは返事がなく、殿下は静かに扉を開けて中に入って行った。私も後に続いて中に入った。
「なぜ付いてくる」
「当たり前です。今は婚約中とはいえ、二人っきりになどさせられますか」
「ちっ」
舌打ちしましたよ。
精霊の光が殿下の周りに集まってきた。殿下には精霊が光ではなく小さな子供の様に見え、少しは声も拾えるがあまり良く聞き取れないと言っていた。私は光の状態でしか認識出来ない。ただ色まではわかる。緑、青に橙の三色が見えている。
(光が殿下に体当たり?)
「ああ、すまなかった。リリアナに謝りに来たんだ。通してくれ。側に行かせてくれないか」
困った顔で光に触れている
「精霊達が皆、怖い顔で私に文句を言っているようだ。リリアナを守れなかったと怒っているのだな」
そう話すと、殿下はリリアナ様が横になっているベットに腰を下ろし、そっと髪に触れ顔を覗き込んでいた。
「……私の愛するリリアナ」
頬に口付けをしている。
(これぐらいは大目に見ましょう。これ以上は許しませんが)
「んんっ、殿下」
リリアナ様から離れ、静かに立ち上がった。
「私の唯一無二の存在であるリリアナを傷付ける者は、何者であっても許しはしない」
(殿下から怒りのオーラが)
「父上の所へ、いや、陛下の元に行くぞ」
「はい。」
精霊の光が殿下と共に付いてきている。
「あの、殿下、精霊も付いてきてますが?」
「そうだな、精霊もまだ怒りが収まらないのだろう」
殿下がニヤリと笑う。
(笑う殿下が魔王の様に見えます。うちの王子様が魔王に乗り移られてしまった)
「愛し子様、魔王を止めてください。愛し子リリアナ様」
両手を胸の前で組んで祈った。
「何を言っている?早く来い!」