山が呼んでいる ー貴婦人の乗馬ー
コメディでごめんなさい。腐女子でごめんなさい。
ちゃんとノーマルなお話にするから。
おつきあいしてね。ね。
滞在2日目
本日の予定 リオーズ火山のカルデラ湖まで遠乗り
ピクニックランチ
夕方 自由行動
夜 温泉街探訪(外食)
*王子・クレア・イーゼ師は、リーズ川上流視察(別行動)
「なぜ、我々は、朝5時に、歩かねば、ならんのだ。」
そりゃ、徒歩で川の上流へ行くからです。
王子と侍従の方々、クレアと、私イーゼは、山登りスタイルでリュック型布袋を背負っております。頑丈な登山靴はクレアの別荘で借りました。とがった石がごろごろしています。
王子も無論、大きな布袋をかついでおります。
「ここからは一列だぞ。水は休憩以外飲むな。余計疲れるからな。進むぞ。」
山育ちのクレアは、颯爽としております。私たちと同様男性用登山ルックなのに、なぜアスリートのように見えるのでしょう。なぜ王子は森の熊さんに見えるのでしょう。
リーズ川上流には、小さな湖があります。山地の奥にありますので、普通の山道は通れません。よって、馬車はおろか馬も使えないのです。片道約4時間。川まで馬車を出してもらっただけありがたいことです。
ふふん、王子、身体の動かし方が、ぎくしゃくです。昨日のハードトレーニングで乳酸が溜まってきましたね。若いですね。痛いですね。残念でした。今日筋トレを回避するのは想定内でした。だから視察は今日にしたのです。今日は歩くしか登るしかないのです。頑張って下さい。
「きゃああ、おっきい!かわいい!!」
ミュージアさんが、白馬を撫でておりますわ。皆さん乗馬は初体験のご様子です。栗毛にサイドサドルをつけてもらって、私は牧人の補助で乗馬いたしました。クレアから話を聞いておりましたので、ちゃんと乗馬服を持ってまいりましたわ。…この子、穏やかです。相性はよさそうですわ。
「トールマーレ嬢だけでしょうか、乗れるのは。」
バルトが騎乗して私に声をかけてきました。あちらも慣れたものです。男性は皆さん貴族ですものね。
「そのようです。」
「では、男子に相乗りしていただこう。僕は先生をお連れする。トールマーレ嬢、よろしいか。」
「そのように。…では、ミュージアさんはパトロさんに。ピアさんはナレック・バルザックさんと。レーナさんは、ガカロ・ボラリナに。」
体型(失礼)を考慮して組み合わせました。皆さんそれぞれパートナーにご挨拶です。
(…皆さん、分かっていますわね。)
ミュージアさんの目がこちらに合図を送ってきました。(承知)と返しますと、あとの2人も騎上でパートナーに手綱を委ね、サイドサドルに横座りし(了解)とうなずいております。
そうですわ。こうなることはしおりを読んだ段階でわかっていました。
本日私たちの使命は、クレアカップリング対象の男の子情報をキャッチすることです。
好きなモノ、恋愛遍歴、弱点なんかも良いですわね!
性癖…なんて、きゃっ。分かったらさ・い・こ・う♪
そして、夜のミーティングで、より鮮明にカップリングのシチュエーションを想像いたしましょう!
皆さんの社交術にかかっております!どうか美味しい情報を!!
「なんか、トールマーレがにたにたしてる気が」
「…。」
颯爽とドレスの裾をなびかせて、横座りで馬を御しているフローラさんは、本当なんだか頬が緩んでいるわ。乗馬がそんなに気持ちいいのかしら。
まあ、こんな天気に、木立の中を駈けるのは、気持ちがいい。
ほんと、綺麗。さわやかな空気、青い空。
人妻だしおばさんだし、いいだろうと、アオイはバルトの後ろで馬にまたがった。普通は横座りだけど、アオイはワイドパンツだし、無礼講ということで。
昨日のスパ・岩盤浴で、女の子チームは結束を固めたみたい。あのトールマーレさんが、晩餐会でへらへらしたりきゃいきゃいしたりする姿を見て、連れてきてよかったわ、とアオイは思った。周りを見渡すと、例の3人組は、それぞれの女の子を前に座らせて、颯爽と手綱を操作している。かあっこいい。
「本当は、トールマーレさんと、乗りたかったんじゃない?」
「そんなことありません。イーゼ先生の奥様を運ぶんですから、光栄ですよ」
バルト君は、大人な返しをしてくる。
「イーゼとは、マーレの診察で会っているのよね。イーゼってどんな感じ?」
「あのまんまですよ。穏やかに気持ちよくして下さいます。マーレだけでなく身体の不調の時も処方してくださっているんです。長いおつきあいですが、まさか先生がご結婚されるとは思いませんでした。」
バルト君、高位貴族のご嫡男なのに、平民のイーゼに敬語だわ。本当に敬っているんだわ。
ん?
「結婚するとは、って。イーゼって、女嫌いだったの?」
バルト君、しまったな、と失笑しているのが、背中越しにもわかる。
「まあ、マーレ持ちにつきあっていれば、神経つかれますし。あれだけの手練れですと、人の内面を悟ってしまわれるそうですよ。
女性というものは、しきたりの中で狭い世界を生きています。家に縛られ倫理に縛られ、狭い分深く陰湿な情念を育てているじゃないですか。」
それは、言い過ぎというものだわ。バルト君も女嫌い?
「恋人のために、家族のために、夫のために、我が子のために。
自己犠牲の名の下に、自分を立てようとなさっているように、僕には見えます。
…自分の母も、そうでした。」
うーん この世界では、ある意味そうかもしれないけど…
「リーゼンバーグ先生みたいな、新しい女性は、きっとイーゼ先生にとって、とても魅力的だったんですよ。貴女には、クレアも僕の弟も、心を開いています。」
ゆるい坂道を馬の列がリズムよく進む。頭の中に、ギャロップのリズム。小さな時、碧が弾いた「貴婦人の乗馬」のピアノだ。
「あのパトロは、小さい頃から背伸びばかりで、僕の背中は見えるけれど他は何も見ない子どもでした。アゼリア嬢に惚れ込んだのは、全面的に信頼してくれたからです。リーゼンバーグ先生に懐いているのは、まさしく教師だからです。先生のおかげでやっと、自分の道を歩みだした事を僕は喜んでいます。」
「買いかぶりよ、バルト君。パトロ君は優秀だわ。」
慌てて反論。そこまでできた人間じゃないよ。
「クレアこそ、男社会の中で生きる新しい女性よ。
アゼリアも…あの子は女性として先頭に立とうという素晴らしい娘さん。
女が女として生きる道はそれぞれあるの。大事なのは、自分をちゃんと持っているかということだけよ。」
みんな、凄いわ。みんな、素敵だわ。
バルト君はしばし沈黙してから、
イーゼ先生が羨ましいな
などと、照れる言葉をつぶやいた。
「うわあ!凄い!!」「きれい…」
山の頂上から、すぐ下のリオーズ火山が見えてきた。火口はカルデラ湖。エメラルドグリーンの湖面は、季節や気温によって色が変わるそうだ。周りの山々の赤や黄色の色づきが対比的で見事な絶景!
一同はしばし景色を見入った。王都では見られない大自然の奇跡である。
「みんな、ここで昼にしよう。男子は馬の世話を。女子は昼食の準備をお願いする」
てきぱきリーダーのバルト君が声をかけると、うなずいたフローラさんが女生徒を集める。
うん。適材適所。よしよし。
「バルト君、これ」
「?」
「角砂糖作ってきたの。お馬さんにあげて。女子も乗せてくれたご褒美♪
それから、フローラさん」
「はい」
「山は冷えるわ。女生徒さんたちにストールを渡して。その鞄に入ってるから。それと、お湯を沸かすの手伝って。男の子たちに紅茶をさしあげたいの」
「分かりましたわ、先生。ありがとうございます。」
「兄さん、なんか、いいことあったのかな。」
「ほんとだ、バルト、にこにこだねっ」
馬を杭につないで水を飲ませていたパトロとガカロが見たバルトは、紙袋をもったまま女教師の方を向いて微笑んでいた。
「おかえりなさいませ!いかがでしたか、リオーズは。よございましたでしょ?はいはい、お疲れ様でした。皆様お部屋でどうぞおくつろぎくださいまし!」
オーナーさんが、揉み手しながら玄関でお出迎えくださいました。
確かに、疲れましたわ。でもハイキングランチは美味しくて、大自然を楽しみながらごちそう食べて、とっても楽しゅうございました!久しぶりの乗馬も最高でしたわ!
クレアに申し訳ないわ。…クレアはまだ山登りでしょうか。
「おう…フェーベルト様たちは、小一時前にご到着されまして、温泉で疲れをとっております。皆様も是非」
「ぼくも、いくう!レーナちゃんも、いこ?昨日エステできなかったもん!」
「おう、そうだな、お嬢さん方もご一緒しよう。ピア嬢よろしいか?」
ん?んん?
「そうですわね!パトロさん、お疲れでしょう?参りましょう」
ミュージアさん?
みなさん?
情報収集は?妄想のネタは??
「今日のリーダー会は6時にしましょう。明日の予定の確認と、皆さんの健康状態について。」
おいてけ堀をくらってまだ混乱する私に、先生はにこにこおっしゃいました。同じく残されたバルトは、なぜか先生の横を離れません。いったい今日、何が、起きたのでしょう。
「リーゼンバーグ様、これを」
オーナーのゴランさんが、うやうやしくカードを先生に渡しました。
「…あら。クレア…」
クレア。そうです、私たち、きっとクレアが足りないのですわ!親衛隊にクレア!
クレアはどこに?
「バルトさん、クレアともっさりが、ご用みたいよ。フローラさんも。」
クレア~。
サイドパドルで乗馬する貴婦人は、よっぽどバランス感覚いいんでしょうね。




