嫌われ者
ある日にんげんが一人で森を歩いていると、キツネの群れに囲まれました?
これは遊んでくれるのかな?とにんげんがうきうきしていると、周囲を埋め尽くすキツネの群れを割って、犬より大きく、犬より艶々の金色の毛を持った、三角の耳をピンと立てた面長の狐が現れました。
にんげんは、あ、狐の姉だ、と直感しました。
そこでにんげんは元気良く、「こんにちは狐の姉!私にんげん、よろしくね!」と挨拶しました。
ですがゆったりと歩いてくる狐の姉は応えません。
聞こえなかったのかな?と思ってもう一度挨拶するもまた無視です。
なんでかな?と思いながら何度も挨拶をします。そしてもしかして狐の姉は私に聞こえない声で挨拶を返してるのかもしれないと思い始めたとき、ようやく狐の姉がにんげんの目の前にたどり着き、ぽすんぽすんと肉球でにんげんの頭を叩きました。
そしてこういうのです。
「聞こえておるよにんげん。そう急くでない。私は狐の姉じゃ。よろしくなにんげん。」
ようやく返事がもらえたにんげんはぱぁっと顔を笑顔にして、「よろしくね!」と言いました。
そうして嬉しそうなにんげんに狐の姉は、「私の眷属が珍しくおぬしが一人でいるというから顔を見ようと思ってな。良き挨拶じゃった。」と言いました。
にんげんは、「一人だから?犬が居ると駄目なの?」と聞くと狐の姉は、「駄目じゃなぁ。あやつは昔私の眷属を喰ろうた事があってのう。アレが居ると眷族が怯える。我の眷属でなくともこの森で知恵を受け継ぐ動物ならあやつの匂いには皆怯え、逃げようとするはずじゃ。それだけあやつはこの森の動物達に死を運んでおるのよ。」と答えました。
にんげんが、「犬、嫌われてるの?」と少し哀しそうに言いました。
そんなにんげんの頬を鼻先で撫ぜながら、「嫌われているといえば嫌われているな。なぜならあやつに狙われて逃げられる動物はこの森にはおらぬ。故に恐れられ、忌避される。」と続けました。
にんげんの「きひって?」という問いには、「忌まれ、避けられるということじゃ……忌まれるというのは嫌われるのと同じような意味じゃぞ。」と答えました。
そうするとにんげんは表情を曇らせて、「犬、嫌われ者なんだ……」と哀しそうに言いました。
狐の姉は「そうさな。我もあやつが私の眷属を喰ろうた時は激怒したしのぅ。」と穏やかに言います。
ですが、にんげんが「犬可哀想だよ……」というと、厳しい声で言いました。
「勘違いするなよにんげん。嫌われるは動物を見かければ気紛れにその命を刈り取る性ゆえ、自らに原因がある。それを可哀想といってはあやつに殺された動物が可哀想よ。故にあやつを可哀想などというてはならぬ。」と。
そんな厳しい狐の姉ににんげんは泣きながら、「でも、嫌われるのはやなことだよ?犬きっと辛いよ。」と言い返しました。
狐の姉はそんなにんげんの言葉を鼻先で笑いました。
そして、「ふん。そんな繊細な精神を持っていたら一番最初の兄のように犬は生き方を変えておるわ。だから可哀想などというてやる必要はない。ただ、おぬしは犬を好きなのであろう?あやつにはそれだけで十分だろうよ。」と言いました。
にんげんは涙を拭き、まだちょっとつまり気味の鼻を鳴らしながら、「私が犬を好きなだけで十分?」と言いました。
狐の姉は優しい声になって「そうじゃ、一人でも自分を好きで居てくれるものが居るだけで救われる。生きるというのはそのようなものじゃ。」と言って再び肉球でにんげんの頭をぽすぽすしました。
「おぬしも、犬以外の者がおぬしを嫌っても、犬がおぬしを好きで居るなら耐えられるであろう?」という問いには、再びにんげんは涙ぐみながらも、「う、うん。多分大丈夫……魚の姉に嫌いって言われたら辛いけど、犬に慰めて貰う。」と答えました。
狐の姉はそれを聞くとにやりと笑い、「それが分かったなら良いじゃろ。では私はそろそろ行くぞ。眷族達を怯えさせる臭いが近づいておる故な。」と言ってまたゆっくりとにんげんから離れていきました。
キツネの群れもそれに合わせてにんげんの周りから離れていきます。
そして狐の姉は背中越しに「ではなにんげん、元気で居るが良い。」と別れの挨拶をしました。
にんげんも目元をぐしぐしすると、「うん!狐の姉も元気でね!」と返しました。
こうして狐の姉とにんげんの初の出会いは終わりました。
にんげんの心に色々なものを残して。




