たのしく生きよう
ある日まるまっちい足からすらりとした足になる途中の、それでもしっかり歩けるようになったにんげんはお昼の乳の後にお母さんに言われました。
「にんげん、貴女は出来る限り楽しく居なさい。」
なんでなのかにんげんには解らなかったので、素直にそのことを言うとお母さんは説明してくれました。
「にんげん、貴女の声には力があります。貴女の声を聞く誰かは貴女の声に込められた感情に包まれるでしょう。貴女はそれを今までも犬や魚に発揮してきました。貴女が楽しいと自分も楽しくなるから傍に居ようと思うし、貴女が哀しいと自分も哀しいから一生懸命慰める。だから貴女はなるべく怒らず、争わず、楽しくありなさい。そうすれば皆楽しく、貴女を傍に置いてくれるでしょう。にんげん、貴女の力は特別な物ではありませんが、重要な力です。巧くお使いなさい。」
お母さんの言葉は難しかったです。でもにんげんはなんとなく、いつも楽しい気持ちでいれば他の人も楽しくなるので仲良くなれるのだということがわかりました、なので。
「うんとね、犬と一緒にいるといつもうれしいの、たのしいの。だからだいじょうぶだよお母さん。私いつもたのしい!」
そういって乳を口移しで飲ませてくれた犬に抱きつきました。
それをみてお母さんは微笑みましたが、ちょっといじわるなことも言いました。
「では朝起きて犬が居なかったらどうしますか?」
そんないじわるな質問にもにんげんはふっくらとした笑顔で答えました。
「魚の姉と話す!私がさがしに行って見つけるより早く私の所へもどってきてくれるもん!それくらい、いっしょ!」
無邪気に言うにんげんにお母さんもそれ以上いじわるな事は言わず。
「そうね、犬は貴女よりずっと脚が速くてずっと鼻が効くものね。その方がずっと確実だわ。」
勿論、犬は耳もそれなりに良いので、犬を探しに森にはいって泣けば飛んでくるかも知れない、とか。
犬が森の外まで旅に出てしまっていたらどうするの、とか、本来考えるべきことは色々ありましたが、お母さんは黙っていました。
にんげんの心を不安で曇らせないために、ただ明日には楽しいものが待っているのだと思わせるために。
お母さんはにんげんが楽天的に生きられるように、あえて先を語るのを避けたのです。
お母さんは説明が必要な事は語らずには居られない性分ですが、沈黙が必要なら絶対喋らないという性分の持ち主でもありました。
こんなお母さんの指導によって、なにげなくにんげんは明日への不安は抱かず、その時その時の楽しさで生きて、後悔と言うものを知らずに生きていく事になりましたとさ。




