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カタツムリ

 犬とにんげんには、嫌いではないけれど警戒している兄が一人居ます。

そんな姉と、今日は出会ってしまいました。

「おお、にんげんちゃん、犬ちゃん、こんにちは。ふふ、今日もにんげんちゃん可愛い。」と言いながらのたりのたりと近寄ってくるのは、犬と同じ大きさの殻を被った巨大な蝸牛の体に腕が大量に生えていて、手のひらに目玉がついたぬめぬめの姿。

彼が今まで通ってきただろう道筋にはしっかりと粘液の後がついています。

「こっちこういにんげんちゃん。なでなでさせておくれ。」と手をゆらゆらさせて誘う蝸牛の兄に、にんげんはちょっと嫌そうな顔。

「ぬるぬるやだなぁ…」と蝸牛の兄に聞こえないように呟きます。

 実はこのぬるぬると言うのが曲者で、蝸牛の兄の粘液で濡れたものは非常に滑りやすくなるのです、そのせいで蝸牛の兄に揉みくちゃにされて全身ぬるぬるになると滑ってしまって犬に乗れなくなります。

当然、咥えてもらうのも駄目です。口から滑ってつるんと落ちてしまいます。

しかもこの粘液は土に吸わせるか、川で丹念に洗うかしないと取れません。必然的に、川から遠い場所では洗いに行くのも大変というわけです。

 そんなわけで大好きな犬の背中に乗れなくなるのが嫌でにんげんは躊躇うのですが…犬が小声で、「早く行け。泣くぞ。」と言うのでにんげんは渋々犬の背中から降りて蝸牛の兄の方へと向かいました。

「うぅ、にんげんちゃんが来てくれない…嫌われたのかな…あぁ、哀しいよ、悲しいよ。」と呟いている蝸牛の兄。

でも、にんげんが、「蝸牛の兄さん、来たよー。あんまりべとべとにしないでね?」と言うと、途端に元気を取り戻します。

「ああ!にんげんちゃん来た!にんげんちゃん可愛いよ!可愛い!可愛い!」そう言ってにんげんのお願いもむなしくねっとりとした腕でにんげんの全身を抱きしめたり撫でたりします。

「うわぁん、べとべとにしないでっていったのにぃ」というにんげんの声も空しく、しばらく蝸牛の兄はひたすら撫で撫でふにふにぺったんぺったんとにんげんを揉みくちゃにしました。

 そうしてしばらくしてから、「ふぅー、可愛かった。こんな風にぎゅってするのはにんげんちゃんだけだからね、特別だからね。ありがとうね抱かせてくれて。」と言って大量の腕を振り振り這いずって去っていきました。

残されたにんげんと犬は、「うー、ぬるぬる。」と言うにんげんに「しばらく無理に立とうとするなよ。転ぶぞ。」などと言い合い、しばらく粘液が大地に染み込むまでゆっくりしていました。

 そんなに厄介なら逃げればいいと思うでしょうが、蝸牛の兄はにんげんと出会って抱きつかせてもらえないと泣くのです。

それも哀れっぽく、悲しげな泣き声を大きく張り上げて、そして「にんげんぢゃんおでのごどぎらいになっだどー!?」と言いながら森を徘徊します。

その姿があんまり可哀想なのでにんげんは毎回、べとべとさえなければなぁと思いつつ蝸牛の兄に好きなようにさせているのです。

にんげんにはにんげんなりの苦労があるのでしたとさ。

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