真珠色
ある日にんげんが犬と歩いていると、赤い実がいくつも集まっている木の実を耳につけた猫と出会いました。
猫はにんげんが髪に花を挿しているのを見るとぴくぴくと髭を揺らし、満足げに頷きました。
そしてにんげんに挨拶するとこういったのです、「どうかなにんげん、今日は私が兄弟の中で一番美しいと思っている兄に会わせてあげようと思うのだが、くるかね?」と。
にんげんは犬にその兄弟がどんな兄弟なのか聞きました。
すると犬は、「俺の知っている時と変わっていなければぎざぎざつやつやした真っ白い蟹の兄弟だ。」と答えました。
それを聞いて猫は、「おやおや、こんな所で正解を言ってしまうとは。犬はせっかちでいけない。ここは答えをはぐらかせて期待をさせてあげる所だろう。」と言いました。
そしてひょいっと犬の背中に飛び乗ると、「犬が知っているなら犬の脚で行くのが早い。にんげんものりたまえ。」と言って伏せの姿勢になりました。
にんげんが犬に、「いってくれる?」と聞くと、「勿論。」という答えが返ってきたので、にんげんも腰を下ろした犬の背中に上りました。
そうして犬に乗って走ることしばらく、小さな石つぶてが敷き詰められた川原につきました。
すると猫はひらりと犬から飛び降りると大声を上げます。
「蟹の兄よ猫の弟がおめどおり願う!なにとぞその美しき甲殻を現したまえ!」と。
それからしばらくすると石つぶての一部が盛り上がり、真珠色に輝く、艶々とした甲殻を持った犬の半分ほどの大きさの蟹がその中から現れました。
それを見てにんげんは呆然としました。
なぜならその甲殻は太陽の光で虹色に輝き、眩いばかりの光輪と白を表していたからです。
お母さんの顔の造形美とは違った美がそこにありました。
そんなにんげんを尻目に蟹がぶくぶくと泡を吹きながら言いました。
「また猫か、お前はほんにこの殻が好きよなぁ。」と。
それに対して猫は、「私、外で宝石宝玉の類は色々目に掛けてまいりましたが、蟹の兄ほどの豪華さ、優美さを持つものには出会ったことがございませんゆえ、ご容赦を。」と言います。
そして蟹が犬が居る事に気づくと、「おお、珍しいな犬。お前が猫と一緒にいるなんぞ、もしやにんげんも一緒かや?」と聞きました。
それをきっかけに犬の背中に乗ったままのにんげんが騒ぎ出します。
「すごい!なんていうのか解らないけど光ってる!すごい!綺麗!」とはしゃぎだします。
それを聞いた蟹は、「声はすれども姿は見えずよな、犬よ、にんげんに姿を見せるようにいっておくれや。」と言いました。
犬はそれに頷くと、「にんげん、背中から降りろ。」と言いました。
ですがにんげんははしゃぐばかりで降りようとしません。
なので、犬はお尻を高く上げ頭を地に着けます。するとにんげんはすってんころり、蟹の前に転がり落ちました。
蟹がにんげんの方に突き出た目を動かすと、「おお、これがにんげんか、母様と同じ形の頭と腕とはめでたい娘よな。」と言いました。
が、にんげんは褒められたと解らず、うわーうわーといいながら、ひたすら輝く蟹の甲殻をぺたぺた触っています。
猫は、「こらにんげん、蟹の兄の甲殻に指をべたべたするんじゃない!跡が残っているだろう!」と怒りますが、蟹はただ、「ほっほ、聞いているとこちらまで元気になる声よな、よいぞよいぞ。」と言って甘やかすばかり。
それを見ている犬は自分もにんげんが楽しそうな声を出すと自分もそのような気持ちになるのを不思議に…今までも何度も思いましたが…思いながら、それが牙も爪も鋭いものを持たないにんげんの武器なのかもしれないと思っていました。
だって、にんげんの泣き声が無かったら犬はにんげんを拾わなかったでしょうから。
さて、そんなこんなでほぼ全身を蟹の甲羅にぺたぺたしたにんげんを背に乗せ、少し憤慨しながら蟹の甲殻を自らの毛皮で磨く猫を残して犬はその場を立ち去りました。
今日もにんげんは楽しんだようでなによりだ、と思いながら。




